ひよちゃん
「えっと……ここってオーダーメイドを頼めるんですよね?」
「そうだけど? 武器? 防具?」
「あ、防具です!」
礼儀正しく、しかし少しオドオドした少年がカーマインブラックスミスを訪れた。
「どんなの? jpg送れる?」
「はい!」
そうして送られて来たファイルを開いて僕は目を眇める。そして
「これ……鍛冶屋スキルじゃなくて裁縫スキルじゃん」
「え⁉︎ 無理なんですか⁉︎」
「む」
その言い方は卑怯だ。だって
「やれるさ!」
条件反射しちゃうんだもん。
*****
「裁縫スキル?」
「聞いた事も無いな」
「うーん。確か死にスキルリストの中にあったね」
マモンの言葉に光明を見出した。しかし
「裁縫スキルで服を作って鍛冶屋スキルで防具化するのかな?」
「ううん。防具化しないって」
「完全にロマン装備かぁ……レベル高いなぁ」
僕はそれに苦笑する。すると
「さすがに裁縫スキルは取っていないよな?」
「取っていたら呆れるな」
2人の言葉に頷いて
「取ったよ」
「「はぁ⁉︎」」
「やっぱりね……アリアちゃんは変わらないもん」
マモンは苦笑して
「特殊素材はあるの?」
「ドロップアイテムに糸や布、皮が出るようになったよ」
「そっか。1人で大丈夫?」
「うん。知名度を知りたいだけだったから」
僕は装備を外す。初期防具は布だから室内着としては悪くない。
「専用アイテムの針を取り出して縫うんだっけ?」
「うん。イメージ通りに動くから簡単だけど見た目はレベルに依存するんだよ」
だから
「皮や糸系のアイテムを見かけたら声かけて。買いに行くから」
五分後
「スターダストスプラッシュ!」
『デザートウェーブ!』
砂漠に出現する下半身は蛇、上半身は人間のラミア。それが手を薙ぐ。そしてその軌道で砂が僕を狙う。
たかが砂と侮るなかれ。さっきパーティが一つ全滅したから。砂に斬られて。
「ったく……隙が無い!」
『デザートソード!』
「ソードリバーサル! ダブルラッシュ!」
砂の剣を剣で逸らして突撃ざまに4連撃。そして作り上げた隙に
「ダブルストーム!」
『ぎぃぃぃぃ⁉︎』
右上から左下の二本同時切り、そして手首を返して切り上げて片腕を断つ。そのままもう片方で胴を薙ぐ。怯んだラミアの顔面と鳩尾が一直線になるような二本の剣線はラミアの体力を削り切った。
「これで中ボスクラスかぁ……やっぱり風鉄の剣じゃ辛いなぁ」
勝てるけど時間がかかる。もういっそ高純度ミスリル、通称レアミスで装備を整えるかな?
「でも商品だよなぁ……」
ラミアの皮は上質な蛇革になるらしい。知らないけど。今日の目的はこれでは無い。砂漠にのみ出現する蝶だ。
それは澄んだ水色の羽根を持っているらしい。その羽根が必要素材と表示された。
「だけど誰かへの贈り物なら僕も応援してあげたいな……」
「む? そこにおわすはアリア殿では御座らんか?」
「え? リョーマ……と?」
「こちらは拙者らのギルドメンバーで御座るよ」
侍6人のパーティは異質だと言い辛い。すると
「彼女がアリア殿で御座る」
「あのアリア殿で御座るか⁉︎」
「リョーマ殿の刀を打たれた!」
「この目に御身を映せるとは!」
「大袈裟だなぁ。リョーマたちは何をしているの?」
「拙者らはラミアという魔物を討伐するためにこちらに……どうなされた? 顔色が悪くなっておられるぞ」
僕は慌てて顔色を取り繕って
「あ、あはは……少し驚いちゃって」
「む、そうで御座るか。アリア殿ならば孤者でも狩れると存じる」
「……ご名答」
僕はアイテム一覧を開いてリョーマに見せる。そこにあるラミアの皮や肉、鱗を見て一瞬驚いた顔を見せて
「やはりか」
「リョーマも1人で狩れると思うけど?」
「拙者もおそらく狩れると存じるがギルドの方針故にマージンを取っておる」
「ふーん。範囲攻撃が多いから気をつけてね」
「む、かたじけない」
「ポーションも少しなら売れるよ?」
僕の言葉にリョーマ以外の5人が購入した。儲けは多くない。ただ原価も安いから問題無い。
「それじゃ」
「アリア殿は何を?」
「裁縫スキルのために蝶を狩りに」
「む……蝶ならばそこの岩山の中の花畑に」
「そうなんだ。ありがと。メンテとか安くしとくよ」
かたじけない、と言って6人は去って行った。とりあえず指差された岩山の近くまで歩く。頂上付近で大きな鳥が飛んでいたけど気にせずに
「入り口は……ここ?」
岩と岩の隙間にある空洞。そこを歩いて行くと陽の光が差し込む幻想的な空間が。
「確かに花畑だけど……」
『きしゃぁぁぁ!』
「僕が知っている蝶とは違うよ⁉︎」
突進して噛み付こうとする蝶を走って回避して
「ミーティアスパイラル!」
『きしゃ?』
背骨軸の回転しながらの突進切り。それは遠心力やら色々乗って大ダメージだ。
ちなみに外すと地面に倒れこんで攻撃を喰らうよ。
「ま、削り切れたから良いけど…………ね?」
『『『『『『『きしゃぁぁぁ!』』』』』』』
「僕が知っている蝶を返してよ⁉︎ メテオミーティア!」
突進重攻撃で纏めて斬り払う。弱いけど数が多い。リョーマたちは6人のフルパだから行けたんだ! もしくはスルーしたか。
「ああもう! 三十六計逃げるに如かず!」
地面を蹴って岩壁に飛びつく。そして亀裂に足をかけて飛び上がる。差し込む陽の光を目指して跳躍して
「ふぃー」
『きゅぃぃぃぃ!』
「ふぇっ⁉︎」
いきなり真上からの急降下してきた何か。転がって回避したら長い嘴が地面に刺さっている。危なかった。
「危なかったってか現在進行形で危ないよ⁉︎」
『きゅぃぃぃぃ!』
『きゅぃぃぃぃ!』
『きゅぃぃぃぃ!』
ドスッドスッドスッ、と音を立てて嘴が地面に刺さる。そして抜けないみたいなので一体ずつ切り倒して行くと
『きゅぃぃぃぃ?』
「そんなにウルウルした目で見てもダメ」
僕は剣を振り上げて
『きゅぃぃぃぃ⁉︎ きゅぃ! きゅぃぃ!』
「……何だか必死だね」
*****
「ねぇ、アリアちゃん」
「……何かな」
「頭の上に止まっているその鳥は何?」
「僕が聞きたいよ……」
『ちぃ!』
「ひよこだよね?」
「……多分」
頭に乗っているひよこは嘴グサリ鳥だ。なのに引っこ抜いたらひよこになった。わけが分からない。
「僕はテイムスキル取っていないはずなんだけどね……」
「……テイムスキルってまだ発見されてないよ?」
「え?」
「アリアちゃん、それってもしかして『エクストラスキル』じゃないの?」
エクストラスキル、簡単に言えば買わないで派生で出現しないスキル。つまりなんらかの条件を満たさないと出ない。それをたまたま僕が?
「たまたまだよ。ひよちゃんにテイムって付いてるけどたまたまだよ」
「ひよちゃん……ってやっぱりアリアちゃんにネーミングセンスは無いね」
「マモンが酷い」
「本当の事でしょ……それでスキルの欄にテイムスキルはあったの?」
「怖くて確認出来ない」
「何が怖いの……あるね」
僕はそれにため息を吐いて
「ひよちゃんってさ、薬草を食べるのかな?」
「しっかり飼う気満々じゃない⁉︎」
「だって可愛いんだよ?」
マモンが大きなため息を吐いたのはなんでなんだろう?
嘴グサリ鳥はオニドリル
ひよちゃんはぴよこっこと思ってくれればイメージしやすいかな?
ひよちゃんぴよぴよ
次回も素材集め
しかしそこでひよちゃんの真の力が解放される……っ!(わけがない)




