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鍾乳洞

 アリアの握る斧が木の幹に食い込む。それを何度か繰り返して木を切り倒す。


「ふぅ……中々辛いわね」

「これでも体力多めで筋力高めに設定しているんですよ?」

「そう言われても私、肉体労働は苦手なのよ」


 斬り倒した木をノコギリで短く切り、それを鉈で割る。最初に軽く食い込ませて叩きつけるようにして振り下ろせば安全とか何とか聞いた覚えがある。


「優さん、今ので何か分かったのかしら?」

「木の繊維のグラフィックが荒いですね……それと木が倒れた際の振動がありません。もう少しディティールを……まだ、アリアさんは分かりませんよね、すいません」

「いえ、良いわ。聞いていて理解できないといけなくなるんでしょうし」


 返事は笑いだった。


*****


「薪がないと暖が取れない。北極ってこんな感じなのかしら」

「行ったことがないので分かりませんねぇ」


 優さんと一緒に雪山を眺めながら洞窟でたき火をする。しかし


「一酸化炭素中毒にならないように入り口で火を焚くなんて……目立つだけじゃないかしら」

「一酸化炭素中毒が一番火事の際に死亡原因として多いんですよ? 知らなかったんですか?」

「生憎、火事に巻き込まれたことはなかったのよ……優さんはあるのかしら」

「ありませんね」


 二人で震えながら焚き火に手をかざす。そして小さくため息を吐いて


「晩ご飯は用意しなくて良いのかしら?」

「それはこちらで用意しましたから。ところでアリアさんは何味が好きですか?」

「醤油かしら……塩胡椒でも何でも好みよ」

「では早速食べましょうか。あぁ、一応これも味のデータを確認するためなのでしっかりと味わって欲しいです」


 そう、と頷きながらよく分からない焼いたお肉の塊を受け取る。そしてそれを齧る。うーん、中々美味しい。そう思っていると


「味付けが雑なのは仕様なのでしょうか……? 妙に味が濃いいですし」

「あら、私はこれを美味しいと思っていますわよ」

「その辺りは完全に食べる人間によりますねぇ……ご馳走様でした」


 骨を炎に突っ込んでため息を吐く。骨に付いている肉の残りが焦げていくのを眺めていると


「今回のデータ、中々どうして愉快なものですね」

「そうかしら? 過去の人類の歴史を再現するなんて考古学者以外には使えないのでは?」

「アリアさんはそういった受け取り方をしたんですね」

「まぁ、孫がそう説明してくれたんで」


 ユリアとユリウスの作り上げた仮想世界へのダイブ。アリアと優はそこの調査を二人から頼まれていた。


『お祖母様、聞こえますか?』

「ええ、聞こえているわ。でもお祖母様は辞めて欲しいわ。アリアって呼んで欲しいわね」

『分かりました、アリア。周辺の様子はどうでしょうか? 現在二人がいる洞窟のモチーフは千枚皿で有名な山口の鍾乳洞です』

『千枚皿なら奥に行けば見られますよ』


 ユリアとユリウスは自慢げな口調で説明してくれた。しかし、鍾乳洞……?


「私、鍾乳洞が何か分からないわ」

『では奥に進んで見かけたものから解説しましょう』

「いつの間にかツアーになっていませんか?」

『優、古来より細かいことを気にすると禿げるという言葉があります』


 あんまりな言葉に顔を引き攣らせている優、それを無視してアリアはさっさと鍾乳洞の奥に進んでいってしまった。


「ユリア、ユリウス」

『『はい』』

「このモチーフになった鍾乳洞って山口県にあるのよね? 福岡からどう行けば行けるかしら?」

『興味が湧きましたか?』

「実物と比べてみたら色々と差違が分かるかもしれないからよ。あなたたちだってどれだけそっくりに作ることが出来たのか知りたいでしょう?」

『『はい』』

「ところでユリア、ユリウス。この世界はどこをモチーフに作り上げたのですか?」

『アルプスをイメージして作りました』


 道理で寒いはず、とアリアは思った。しかし


「アルプスってどんな場所なのか私、一切知らないわ」

『アルプスは山です』

「分かりやすくてよろしい」


*****


「シン、アリアは?」

「アリア、今日は仕事だってさ」

「え、そうなんだ」


 何も聞いていない、とマリアは苦笑する。ちなみに今日はカーマインブラックスミスは休店日となっている。


「シン、暇だから何かしようよ」

「良いけどアジアンは?」

「三者面談で遅くなるってさ」

「あぁ……三者面談かぁ」


 明日だなぁ、と思っているとマリアはタンスを漁って


「ボードゲームでもする?」

「将棋とオセロしかルールが分からないよ」

「そうなんだ……んじゃオセロしようか」


 10分後、マリアは4つの角を取られて完敗した。そして


「ほい、王手」

「なんだと!?」


 15分後、王以外の全ての駒を取られてマリアは完敗した。


「おっとっと……中々困った事態になっているようだね」

「マリア」

「うん、分かっているよ」


 玄関から入ってきた彼女はそう言って笑顔を浮かべた。


「久しぶりだね、シン」

「……アリシア」

「そのアカウントを使う理由が出来たって事……? ん、あ、違うなぁ……アリアだね。《最強》の、アリアだね」

「アリアの方が今、色々問題が起き始めているよ……いや、マグナかな? それとも、オバマかな?」

「「アリア?」」

「どうも二人の身に危険が迫っているみたいでね……」


*****


『アリア、どうもまずい事態になったようです』

「ユリウス?」

『オバマとマグナの反応が消えました。おそらく物理的に社外に持ち出されたようです』

「っ」


 アリアは咄嗟にログアウトしようとメニュー画面を開こうとした。しかし、開けない。何故ならここはソーニョではない世界、別の世界だからだ。


『鍾乳洞の奥にログアウトポイントがあります! 急いでください!』

「分かっているわ!」

『ステータスを書き換えます! 一気に加速するので気をつけてください!』

「ええ!」


 地面を蹴る。滑りそうになる洞窟の床はかなり精巧としか言いようがない。しかし今のアリアにとって、何も考える余裕は無い。あの二人が、家族の身に危険が迫っているのだから。


「ユリウス! 案内を!」

『はい!』

「ユリアは街灯カメラを使って二人の捜索を!」

『はい!』


 鍾乳洞の中を走り抜ける。滑る床を無視して地面を蹴る。そのまま空中にある石柱を蹴って加速する。砕け散るそれに申し訳なく思いつつ跳んでいると


『正面の道を右に! そこにある光の輪に入ればログアウトできます!』

「っ、分かったわ!」


 地面を左足で削りながら無理矢理の減速。そのまま地面を蹴って目立つ光の輪に飛び込んだ。

 目の前に表示されている『ログアウトする』を迷わずに叩く。それと同時に意識が現実に戻ってきた。


「アリア!」

「分かっています!」

「駐車場に行け! ユリアが待っている!」


 達也の言葉に頷きながら部屋を出る。そのままエレベーターに向かうとちょうど、ドアが開いた。


『アリア! 一気に降りますよ!』

「っ、ユリア!?」

『そこのランプが光っている車です! 急いで!』


 いや、急いでって言われても運転手も誰もいない、とアリアは思った。しかし急かされているので後部座席に乗り込むと


『発進します!』


 ユリアの声と同時に車が動き出した。オートで、しかも信号は何故か分からないけどナイスタイミングで切り替わる。


「ユリアの仕業かしら?」

『もちろんです……もう少し待ってください。現在追跡中です』

「え、ええ……これ、止まれるのかしら?」

『もちろんですよ』

「いえ、その追跡している相手が逃げようとした場合、追突するまで追いかけるとかないのかしら?」


 アリアはむしろそれを望んでいるような口調だった。が、


『あの、盛り上がっているところ悪いのですが』

『私たちは無事ですよ』

「『え?』」


山口の鍾乳洞には昔行ったんですよね

もしかすると百枚皿だったかもしれない

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