VolcanoDragon
「レヴィ――あなたはどうやって、私を認めるに至ったのでしょうか」
一番現実に馴染むのに時間がかかった彼女はいつの間に、私と仲良くなったのだろう。それは今でも、不思議だった。でも、
「レヴィ」
「何よ?」
「アイラブユー」
「……」
「あ、友人としてですよ」
「紛らわしいわよ!」
レヴィの蹴りが《ディアボリカ・ディザスター・ヴァンパイア》の左手に受け止められる。しかしレヴィの動きは止まらない。
受け止められたのを気にせずに銃を構える。そのまま股間に狙いを定め、連射するが
『姑息な位置を!?』
「姑息には一時凌ぎって意味があるの、知らないのね……《ディアナポロ》《ハーディス》」
二丁を交差させて、深く息を吐く。深呼吸して、剣を弾く。それを繰り返しながら弾丸の雨を降らせようとするが、
「幅の広い剣って厄介ね!」
『くくく、突破できまい!』
「それはどうかしら……って言いたいのだけどね、確かにその通りねぇ」
『ならば潔く斬られるが良い!』
「お断りよ!」
銃弾が剣を逸らし、剣が銃弾を散らす。それを繰り返していても中々隙が無い。
『どうした! そろそろ諦めようという気にはならんか!』
「はぁ……もう、五月蠅いわね」
『なんだと!?』
「もう良い、もう疲れた。もう飽きた! ぶっ殺す!」
直後、二丁の銃が宙を舞った。それを思わず目で追う《ディアボリカ・ディザスター・ヴァンパイア》、そしてその懐に飛び込んで
「《波紋伝播》!」
鎧通しと同じ原理の技を放つ。衝撃を伝播して内側に直接叩き込む技だ。
※本来の鎧通しは戦国時代に使われていたもの故、刺し貫く槍である。槍じゃなかった気もする。
『ええい、小賢しい! 《スターダストスプラッシュ》!』
「小賢しいかどうかは置いておいて、よ。その剣技は見覚えがあるわ」
銃を併せ、弾丸を併せる。次々と迫る15連撃を全て対処しようとするが――さすがに無理だ。地面を蹴って距離を取ろうとする、その肩に一撃を受ける。
体力の半分以上が削り取られるのを確認しながら銃を構えて
「《炸裂電磁銃》! 《月の祈り》!」
『《フルバスター》っ!』
爆発する弾丸が、剣で切り裂かれる。その爆発が視界を遮るが、それを突き破って一発の弾丸が《ディアボリカ・ディザスター・ヴァンパイア》の胸を覆う鎧に激突した。
《月の祈り》は温度を奪い、急速冷凍させる弾丸。それが胸部を多う鎧、おそらく胸当てを凍てつかせ、その下の肌を凍てつかせる。
『何をした!?』
「撃っただけよ」
『それは分かっておるが……動けんだと!? それに体力が削られて……っ!?』
「月は不浄なる者を払う聖なる光を降らせるものよ……あなた、不浄ね、《ディアボリカ・ディザスター・ヴァンパイア》」
『黙れ!』
剣が振り下ろされる。無理矢理凍てついた体を動かそうとすればひび割れ、砕ける。しかしそれを厭わずに《ディアボリカ・ディザスター・ヴァンパイア》は剣を振り下ろすが――その額を一発の弾丸が撃ち抜いた。
「ディアボリカってね、ディアボロスに似ているから気に入らない名前ね……その名前、《魔王》一人で充分だわ」
《|災禍をもたらす吸血魔王》の亡骸が光に包まれるのを眺めて、レヴィは小さくため息を吐いた。
*****
黒い雲が空を覆い隠していた。
「レヴィから伝言よ。悪魔は倒したからドラゴンは任せた、だって」
「えぇ……ドラゴンですか? あのドラゴンですか?」
「どのドラゴンよ」
「ばっさぁ飛んでばっさぁ炎吐くアレですよね!」
「まぁ……そんなところね」
アリアはキャンデラの素直な言葉に少し苦笑しつつ、剣を抜く。右の剣は《無銘絶地》、左の剣は《春雷絶天》。何もかもを乖離させるための剣だ。
「ああああアリアさん!? なんかめっちゃドラゴンいますよ? ドラドラしていますよ!?」
「なによそれ……DODの新しい略称かしら?」
「え?」
「え?」
とりあえずキャンデラの指差している方向に目を向けると、数多のドラゴンがいた。数えるのも面倒、と一瞬で判断させてくれる程度には存在していた。
間近なところにいるのは《ヴォルケイノドラゴン》。すでにキャンデラが切り落とした。相変わらず噛ませ犬のような立場だ。たまにボスっぽい貫禄があるのに。
「さて、キャンデラ」
「はい!」
「このどこかにボスがいるわ。それを見つけ出して撃破、その後に解放されるダンジョンを突破、忘れていないわね?」
「もちろんです!」
「よろしい……行きますわよ!」
「はい!」
空を見上げ、ドラゴンを眺める。そのまま剣を構えて地面を蹴る。そして岩肌を蹴って跳び上がる。
すたっと音を立ててドラゴンの頭に断つ。しかしドラゴンたちはすでにアリアを知覚している。その程度では見失わない。色々なブレスが飛んでくるのを眺めて、ドラゴンの頭を蹴る。首を通り、背中を通り抜け、尾の付け根を蹴って飛ぶ。
「ボスは一体どれかしら?」
魔王たちから得た情報に寄れば、群れの中心にはいない。どこからか様子を窺っている、と。だからこそ、極力戦わずにアリアはドラゴンの上を跳び回る。飛んで跳んで探し回る。
アリアの翼は《アストライアー》の翼。無形の衣には空を飛べる力がある。でも気分で翼を出している。羽ばたく必要は無いのに出している。
結局のところ、私は子供なのだ。翼を持って空に憧れる、イカロスのような者だ。
「あぁ、素敵」
蒼くて無限、憧れるには充分だ。そして、それを阻むドラゴンは邪魔だ。
「邪魔」
ドラゴンの額を剣で刺し貫く。頭蓋骨の隙間を縫って、脳を刺し貫く。光となり消えるそれを無視してドラゴンを次々と狩る。
「キャンデラ! そろそろ見つけたかしら?」
「上です! 雲の上辺りにいます!」
「逆に良く見つけたわねぇ!?」
動揺しながら翼を広げる。そのまま一気に飛翔する。雲を越え、明るい太陽が見える。しかしその太陽の前で翼を広げ、光を遮る者がいた。
「《悪魔龍皇》にそっくりねぇ……まったく、《天使龍皇》って何よ。どんなネーミングセンスよ」
シリーズ化させたいのかしら、とアリアは思いながら舞う。炎や光、風や氷のレーザーを避け、そっと両手の剣を振るう。すれ違いざまに斬りつけるくらいしか隙が無さそうだ、と冷静に考えながら
「双天に煌めけ、《合体解放》!」
光の溶けた二本の剣を重ねる。そのまま光に手を突っ込んで一本の剣を引き抜く。
その剣は軽い反りのある白銀の剣。触れる者を斬り裂く最高にして最強の剣。その銘は――
「《アリア》!」
*****
空を覆っていた黒い雲が晴れる。そして漏れ出す神々しい輝き。それはアリアの握る剣から漏れ出す光、溢れ出す光だ。
雲を斬り裂き、光る翼を広げ、白銀の剣を構えている。地面からも見えるその神々しい姿は、キャンデラだけでなくドラゴンたちの注目を集める。キャンデラも、ドラゴンもなにもせずにアリアを見ていた。
アリアは剣を振るった。その斬撃が雲を散り散りにする。そうして《天使龍皇》が姿を現した。
「でっか……あんなの、倒せるの?」
我に返り、周囲のドラゴンとの戦闘を再開する。しかしドラゴンたちはキャンデラなんかより、アリアと《天使龍皇》の戦いのほうが重要な様だった。つまり、無視された。
「えぇ……」
上空では自由自在に跳び回るアリアが《天使龍皇》と正面から戦っているのに、自分は……と考えて、キャンデラは少し悲しくなった。
みんなのアイドルヴォルケイノドラゴンちゃん登場!
何度目だよ




