石碑の碑文
「……シェリル」
「分かっているわよ……嘘でしょ」
100万本の剣が降り注いだというのに、狼の群れには少しの減少も見られなかった。
「魔王、どう見る?」
「分裂だろうな。細胞かどうか分からんが……攻撃が当たる瞬間に分裂しているようだ」
「はぁ? そんなの、どう倒せって言うのよ」
「倒さなくて良いだろう。ボスさえ見つければ、そいつだけを殺せば良い」
「そのボスが見つかりそうにないんだけどねぇ……やれやれ、ってとこね」
続けざまに剣が降り注いでいるが、狼の群れが減るようには見えない。それにシェリルがため息を吐いていると
「シェリル、少し下がれ。ちょっと範囲攻撃を連続してみる」
「ふーん、任せる」
「ああ。《解放》……《冷酷な深紅》《冷酷な叡智》」
二本のナイフが光り輝き、その姿を現す。それは魔王を越える長さの剣としか言いようがなかった。と、言うか
「それ、何メートルよ!?」
「20じゃ済まないな……だが、大丈夫だ。刃は実体がなく、モンスターとプレイヤーにしか影響を及ぼさないからな」
「あ、そう。なら頑張ってね」
全方位で囲まれているからこそ、私も危険だ。シェリルはそれを理解して
「アルカ、どこが良い?」
尻尾が揺れ、ぴたりと一方向を指し示して止まった。だからそっちの方に向かって駆ける。直後、立っていた位置をナイフが斬り裂いた。それを何度か繰り返して
「シェリル、上だ!」
「――《セブンソード・メテオ》!」
どこよ、なんて聞かない。指示された方に攻撃するだけなのだから。そして――周囲に存在していた数多の狼が消えているのに気付いた。
「え、なに、どういうことなの?」
「ダンジョンを護っていた結界のようなものだろうな……あの狼の群れの上に、見張っているようなモンスターがいた。おそらくそれが基盤となって攻撃を仕掛けてきていたんだろうな」
「ふーん、面倒な仕掛けねぇ……ま、進めるのかしら」
「ああ」
この先に待つ深い深い森、その奥にあるダンジョンに行こうとしているのだった。だが、
「鬼と狼、天使……あと、何を狩れば良いんだ?」
「少し待って……どこかに記述があると思うから」
森全体を覆っている巨大な結界、その周囲を調べていると色々な石碑があった。それらにはこの森の歴史や奥にあるダンジョンについて書かれてあった。
「森の中の遺跡ってちょくちょくあるのだけど、どうして森の中に作るのかしら?」
「マヤ文明をリスペクトしているのだろう。それに森の中だからこそ、というのもありそうだ。考古学者にでも聞くと良い」
「機会があったらそうするわ」
石碑に書かれていたのは鬼と狼、天使と悪魔。そして――ドラゴンを狩れというものだった。
「魔王、どう思う?」
「悪魔もドラゴンも同一のものだ……だが、これは異常発生と同じだな。悪魔とドラゴンを倒せば結界を越えることが出来る、か」
「どうする? 戻れば良いのかな? それとも――」
「ここに居続ける意味は無い。戻るか……ん?」
空が黒い。蒼穹の空が暗くなるのは時間経過だが――まだ、変わるはずの無い時間だ。おかしい。異常事態だろうな。
「シェリル、警戒を解くなよ」
「分かっているわよ。《セブンソード・アーツ》」
*****
「さてと、見えてきたわね」
「ダンジョン名、《悪夢の根城》。存在するモンスターは悪魔系統でボスを倒せば結界の一端を、というあれです」
「ネタバレ乙、とだけ言うわ。知っているけど」
レヴィとマグナはカープの上から飛び降りる。そして二丁の銃をそれぞれ抜いて
「ダンジョンに入る前に、この群れを倒さないといけないのかしら」
「ええ、そうですよ。999体を倒せば中に入ることが出来るようになります」
「うわ、多いなぁ」
「多い……まぁ、多いかもしれませんね。ですがレヴィ、ここは本来フルレイドで攻略するダンジョンなのですよ?」
パーティがいくつかを纏めてレイド、つまりたったの二人で挑むようなダンジョンではないのだが――
「私たちがそんなことをするようなプレイヤーとでも?」
「思えませんね。ましてやレヴィは周囲を気にせずに撃つ派ですから」
「ふふふ」
そう言いながら次々と放たれる弾丸は悪魔を撃ち抜いていく。
「こいつら、なんて名前なの?」
「蜘蛛のような悪魔は《バエル》、ライオンのような悪魔は《バアル》、女の子っぽいのは《サキュバス》ですね」
「《サキュバス》? どんなモンスターなの?」
「男プレイヤーの攻撃を受け付けません」
「……ちなみに、男だけの場合ってどうするべきなのかしら? 撤退?」
「もしくは惨殺ですね」
マグナの銃が悪魔の顔面を叩き割る。さらに続けて尾を弾き、胴体に向けて弾丸を放つ。銃を使った近接戦闘はレヴィの得意とするところだが、マグナも模倣できる。もっともレヴィのような近接戦闘は無理だが。
銃で殴りつけ、弾丸を放ち、蹴りを放って遠心力を乗せた銃での打撃。距離が開いた相手には銃で、中距離は蹴りで、近距離は銃で対処している。一騎当千という言葉が似合う彼女は、
「きりが無いわね。魔王たちから何か聞いていない?」
「ボスを倒さないと無限に湧き続けるそうですよ」
「先に言いなさいよそれ……どれがボスか、見極めてもらえる? 私は忙しいから」
「別に私が暇しているわけではないのですが……まぁ、良いでしょう。しばらく任せますよ、レヴィ」
マグナは銃を大きく振るい、悪魔を振り払う。この程度のモンスター、倒すのは容易い。むしろ《魔王の傘下》が苦戦したのは、ダンジョンの仕掛けなどであってモンスター自体に苦戦することは珍しいのだ。
「具体例としては《アザトース》でしょうか」
「何を言っているのかさっぱりなのだけどボスはどれか分かったの!?」
「あ、はい。ダンジョンの前の椅子に腰掛けている《ディアボリカ・ディザスター・ヴァンパイア》です」
「なんだかカッコいい単語並べた感があるわね……」
「トルーパー感でしょうか」
「そんな感じよ」
レヴィの銃が交差する。そして
「《重奏解放》!」
「どの辺りが重奏なのでしょうか。合体とまったく同じように見えるのですが」
「突っ込みは無しで! 《炸裂電磁銃》!」
放たれた弾丸は悪魔の群れを貫いて、《ディアボリカ・ディザスター・ヴァンパイア》へと迫った。しかし、《ディアボリカ・ディザスター・ヴァンパイア》は椅子から立ち上がり、剣を抜いて一閃させた。
「弾丸を切りましたね」
「……切ったわね、あいつ」
「よほど反応速度が高いのでしょうか。正直、驚きまクリスティーです」
「ラクリマクリスティ-?」
マグナがなんかもう、ダメになっている。レヴィは改めてAIってなんだったっけと考え始めた。そして、
「マグナ、こっちは任せても良いかしら? 偶然撃ってしまわないためにも」
「ええ、任せてください。レヴィは全てを薙ぎ払い、前に進むべきでしょう……つまりですね、私はこう言っているのですよ」
「え?」
「ここは私に任せて先に行け、とね」
死亡フラグ、と思っているとマグナは早速両手の銃を構え、悪魔の群れを薙ぎ払うように弾丸を斉射した。さらに続けて蹴りや銃での打撃、そして膝や肘を織り交ぜた――レヴィの近接戦闘を改良したそれでレヴィの背中を護る。
それを見てレヴィは小さく息を吐く。ここまでお膳立てされたならば
「燃え立たないと男じゃない!」
「……そもそも男じゃないって突っ込み待ちですか?」
石碑の碑文って頭痛が痛い?
ちなみにですね、最終回を迎えてもリメイクするし結局それは終わりかどうか分からないよね
もう皆様の夏休みは終わったのでしょうか?
孤面の男グループでも終わっている人が多いらしいですね
そもそも年中休みさんもいらっしゃいますが




