終わりの到来
告白をばっさりと切られる、それをマモンは前もって見ていた。だから、それが現実になるのをおかしくとも何とも思わなかった。
「好きなのだけど、何か言ってもらえないかな?」
「……レヴィに、怒られそうだ」
「でしょうね」
マモンは小さく息を吐いて、その後の風景を思い出す。そして、直後開いた扉から、彼女が現われた。
「あら、何しているのよ」
「レヴィ、やっほー」
「はいはいやっほーやっほ-。それと何よこの空気」
「ちょうどレヴィの話をしていただけだよ」
マモンは何でもなさそうに笑いながら、言い切った。
*****
「さて、関係ない話が終わったところでアリアさんを脅迫もとい嫌がらせしている女を特定しましょう」
「あの、真白? 関係ない話で良いの?」
昨日の出来事なんて今には関係ない。アリアの写真を送りつけ、そして帰り道で襲撃しようとして阻止されたのは関係ないのだ。そして彼女がすでに逮捕されていることにも気付いていないのだから。
「エミ、君の家には特に何も無いの? その、犯人から嫌がらせの手紙とか」
「今のところは無いかなぁ……見てないだけかも。ちょっとシェリ姉に聞いてみるね」
「なら私はお母さんに聞いてみるわ」
姉妹が電話を掛けているのを眺め、真白は嘆息する。彼女に嫌がらせをしているのは嫉妬が原因と聞いた。でも、本当にそれだけなのだろうか。もっと深い憎悪がありそうだ。
『さてと、真白』
「……え?」
『私ですよ、真白。アリアの手首にいます』
言われた通り眺めて見るも、そこには時計型のデバイスしか無い。そしてそのデバイスが点滅している。
「今、点滅しているの?」
『はい』
「そっか……マグナ、で良いよね? どうしたの?」
マグナは頷いたような気配を漂わせ、小さく息を吐いたような雰囲気を纏った。そして
『どうやらすでに犯人は警察が捕らえたそうです……いえ、正確には保護だそうですが』
「保護? それは一体どういう意味なの?」
『どうやら……松本直美が関わっているようです』
マグナの声に、電話を終えた二人は違う反応を見せた。エミは少し困ったように眉を顰める。誰その名前、と思っていたのだ。一方、アリアの表情は歪んでいた。助けられたという喜びと、巻き込んでしまったという後悔が混じり合っていた。
ちなみに進んで巻き込まれに行ったのだが、それをアリアは知らない。
「直美が関わっているんだ……その子、無事かなぁ」
拳でコンクリートを軽々と粉砕できる彼女に襲われたのだろう、可哀想に。
*****
「あー、つまり嫉妬ねぇ……まぁ、若い家はよくあるって」
「おっさんに言われても……」
「まだ29だ」
「アラサーじゃないですか。おっさんですよ」
警官が胸を痛めているのを無視して、少女は舌打ちする。
「なんで私が補導されないといけないんですか? 私、まだ何もしていないんですけど」
「どちらかというと保護なんだけど……よく、無事だったね」
「はぁ?」
「今まであいつに関わったら骨が大体折られていたり、筋肉が断裂していたんだよ……よく、無傷だったね」
慈愛の表情、それを向けられて少女は戸惑う。何故、この警官は私をこんな風に置きっ放しなのだろう。
「あの女、何なんですか」
「……聞きたいの?」
「まぁ、興味はあるんで……殺したい程度には」
復讐を邪魔するなら殺す。そう思っていると、警官は小さく息を吐いて
「殺せるなら今までに誰かが殺しているよ……あの子、今まで色々と問題を起こしているんだけどねぇ……おかしいよ、あの子」
「はぁ? どうおかしいのよ」
「刺そうとしたナイフが折れた、銃弾が服までしか貫かなかったくらいなら軽い方かな」
「は?」
なんだそれ、と少女は思った。何故、そんな人間がいるのだ。それは人間なのか? ロボットとか、化け物じゃないのか?
「よく生きていたよ……本当に」
警官の言葉に、今さらながら冷や汗が流れた。
*****
『そう言うわけで昨晩の内に全てが解決しております。ですから実は、今の会話は必要ありませんでしたうふふ』
「マグナ……あなた、本当に良い性格していますわねぇ……殴って良いかしら?」
『アリアのデバイスが無駄に傷つくだけですよ、アリア。ですがアリア、今の情報を得たのは警察のデータベースからでしていわゆる非合法な情報なんですよ』
つまり、
『ハッキングしたってところですね、犯罪です』
「馬鹿……もぅ、バレたらどうするつもりなのよ」
アリアは苦笑交じりで生徒会室の扉に足を進めた。そして、振り向いて
「ありがとう、真白、エミ。でももう、解決しているみたいだから」
直後、済まなそうな顔で
「ごめんね、迷惑掛けちゃって」
*****
「オバマ、マグナ」
「はい」
「なんでっしゃろ」
「……いや、良いけどね? 突っ込まないけどね? さっき、またあの鯉幟が来たわよ」
二人は少し困ったように表情を変える。そして、
「ですがバレていないのですよね?」
「なら問題ないって」
「……突っ込まないよ? で、問題ないってマグナは言うけどさ、そんなことはないんだよ」
「なんですと!?」
一々返事がおかしいマグナを睨むと手を振られた。何のつもりなのこの子。アリアがそう思いながらさっきの出来事を口に出す。
「鯉幟がマグナを探して、この店に来たのよ」
「告白イベント?」
「……マグナ、病院行く?」
「ふっふっふ、アリア。あなたに言われたくないです」
「喧嘩売っているの?」
アリアの表情が引き攣っている。それを眺め、
「満足しましたので普通にしましょう。で、コイキングが訪ねてきたんですね?」
「ごめん普通って何?」
「哲学だね」
「哲学ですね」
「あのねぇ……」
余りにもフリーダムすぎるAI二人に戸惑いながら、アリアは店内を見回す。他に客がいないのを確認して
「マグナ、笑い事じゃないのよ」
「――ですがアリア、すでに知っている情報を大事そうに言われると笑わずにはいられなかったと言いますか……ねぇ」
「え?」
「アリア、私がその程度のことが出来ないとでも思いましたか?」
ごめん、思っていた。って言うか
「知っているならもう少し慌てたらどうよ!?」
「いえ、私の代わりにアリアが動揺してくれているのでまぁ良いかなぁ、と思いまして。ですがまさかアリアがあそこまで心配してくれるなんて嬉しくて思わず素が出ちゃいました」
「素……だと!?」
アリアは愕然とした。
「まぁ、私がこんな風に人格得たのはアリアのおかげなのでアリアに似たわけですが」
「あの馬鹿……次は殺す」
アリアがアリアを殺すと誓った瞬間であった。
*****
「鯉幟くん、つまりそのプレイヤーが人間だと君は言うんだね?」
「はい」
「同じ名前ってだけで疑うのは難しいけど……アリアと一緒にいる、って言うのが不思議だよね。オバマってAIもどうやら関わっているみたいだからその二人の捜索を、お願いするよ」
お願いという名の命令を受けて、鯉幟は退室する。そして、
「何を考えているんだ……社長は」
『何を考えているんでしょうねぇ』
「っ!?」
デバイスから素知らぬ声が聞こえた。いや、違う。どこかで聞いたような記憶がある……っ!
『こうして一対一で話せるのは嬉しいですね、鯉幟さん』
「あなたは……?」
『あなたが探し求めている者、とだけ伝えましょう。まぁ、あなたが探し求めていると知っていても私はその網に飛び込んでいるわけですが、ふふ』
愉快そうな笑い声、そして――
『あなたの会社に止めを刺しに来ました』
「まさかお前は……マグナっ!?」
『この古に伝わりしマグナMk-Ⅱが来たからには終わりの到来と言うことです』
色々な者に影響を受けたAIは不敵に笑った……雰囲気を醸し出した。
誰にとは言わない
100万字近くなったねぇ、この小説
エミの時みたいに続編は続きとして投稿するつもりだからもっと伸びるけどさ




