超能力者
7月23日金曜日。今日は夏休み目前の日だった。そしてその日、アリアは生徒会室に呼び出されたのですっぽかそうとしていた。
「きり、ゲーセン行きましょう」
「んー、さっき校内放送で呼び出されていなかったっけ? 良いの?」
「ダメだと思うけど、良いの」
「なんでやねん」
きりの突っ込みを無視して、そっと目を閉じる。そしてそのまま、カバンを持って
「必要なことなら呼びに来るはずよ。それが校内放送なら、必要ないわ」
「いや、多分どっちでも必要だと思うんだけどさ……あ」
「ん?」
きりの呆気にとられたような声に少し驚き、目を開ける。するとそこには、彼女たちが立っていた。
「あら、わざわざ呼びに来てくれたのかしら? お疲れ様、と言わせてもらうわ」
「うわぁ、うぜぇ」
「お姉ちゃん……」
「前生徒会長、二階堂アリアさん。少し時間いただいても?」
「――まぁ、良いわ。で、何かしら?」
真白は周囲を見回して、声を潜めて
「また、アリアさんの写真が届けられました」
*****
「あの女……っ! まだ続けるつもりなのかしらねぇ」
姉が怒っている。エミはそれを理解しながら、床を蹴る。そして、
「お姉ちゃん、言っちゃ悪いけどお姉ちゃんにこの写真心当たり、ある? って言うか犯人、分かっているっぽいけど」
「まぁ、ねぇ……執念深い女よ。退学になった女、かしらね」
「はぁ?」
誰よ、とエミが思っていると真白はその写真を見つめて
「アリアさん、この写真ってどう見ても合成加工ですよね? 顔だけがアリアさんですよね?」
「ええ、おそらくね……まったく、あの女も懲りないわね」
「ちなみにこの写真、明らかに違うって説明できる証拠とかあります?」
「おっぱいが私より大きい」
生徒会室に沈黙が立ちこめた。そして
「で、でもパッドとかで底上げできますよね?」
「あら、柘雄はありのままの私が良いって言ってくれたわ。そんな物に頼るつもりなんて毛頭ないわよ……って、私が言っても無駄ね」
「おそらく……」
真白は歯噛みする。三年生には胸を張って卒業してもらいたい。それが生徒会長としての願いであった。だからこそ、アリアにはこんな些細な段差に躓いて欲しくない。
「――アリアさん」
「はい」
「この元凶、分かっているんですよね?」
「顔だけなら、と言わせてもらうわ。名前も住所も学年も分からないわ」
「動機は?」
「嫉妬じゃない?」
*****
『アリア』
「何かしら」
『この件は警察に届け出るべきだと思います。もはや、アリアたち学生が出しゃばるような案件ではありません。立派な名誉毀損行為です』
マグナの言葉にため息を吐く。
「彼女が嫉妬で私にそういった嫌がらせをするのなら、私はそれを正面から乗り越えていきたいわ」
『何故ですか? まさか、そこに山があるからとでも言うのですか?』
「まさか。でも、彼女は私を恨んでいるのなら、もっと直接的な行為に走ると思うわ……それがどうして、こんな陰湿な手を使うのか、知りたいのよ」
前回刃物を持ってアリアを襲った際に、返り討ちに遭わせたことをアリアは忘れていた。もっとも、柘雄は覚えているのだが、生憎とこの場にいなかった。
「私は生徒会長だから、生徒を大事にしたいです。三年生は卒業を、他は進級をしてもらいたいです。だからこそ、この障害を取り除くのには私も協力します」
「ありがとう、いらないわ」
「……え」
「この程度の問題に他の子の手を煩わせるわけにはいかないの。それにすでに動いているみたいだし、ね」
何が動いているのだろう。真白には想像できなかった。
*****
「アリアちゃんの人生をぶっ壊してやりたいって言うのね――それは人として、間違ってはいないわね」
「だったらどうしてこんなことをするんですか!?」
「帰り道、車で撥ね飛ばそうとしているなら車を壊すしかないじゃない」
飛躍し過ぎだ、と思った。しかし素手で金属を斬り裂く化け物相手に何も言えない。
「そう言えばこの車、あなたの車かしら? もしも違ったのなら――私、犯罪者じゃない?」
「ふ、ふふ……これであなたも道連れよ」
「また警察のご厄介かぁ……おやっさん、娘ちゃんに嫌われているって前は泣いていたなぁ」
そんな親しい警察がいるのか、と思っているとその女は時計型のデバイスを操作して
「もしもーし、警察? 私だけど、おやっさんいる?」
『お前ぐらいだよそんな気軽な電話をするのは……やっさんならいるぜ?』
そして5分後
「直美……頼むからもう事件を起こさないでくれ……」
「事件を事前に阻止したのだけど、それでも私が悪いの? 理不尽だねぇ」
「お前が論外なんだよ……で、その車はどうする気なんだ? 廃棄処分するなら自力でやれよ」
「んー、ま、そうするよ。組み立てればまた使えるようにしたし、燃料は窒素だし」
「またお得意のオーバーテクノロジーかよ。特許取れるんじゃないのか?」
「お金が欲しくなったらするから。ま、今はそんなに欲しくないからねぇ」
人間じゃない。松本直美は人間じゃない。ずっとそう思っていた。
あの少女の輝きを見るまでは。人間である彼女と人間じゃない私では比べようのない輝きだった。ルビーのような紅い髪を持ち、輝いている少女。いつしか彼女の側にいたいと思えていた。だから――
「こんなの、生かしておく必要は無いと思うのだけど、ダメ?」
「お前なぁ……殺したとしても、警察はお前を追うぞ?」
「なら警察を滅ぼすわ」
「本当にそれが出来るからたちが悪いんだよな……」
そう言いながら直美を警戒するおやっさん。しかし直美は何もせず、その地面に倒れ伏せている女の背中を踏みつけた。
「っかはっ」
「こいつ、刃物持っているから銃刀法違反で捕まえといて。それにうちの妹つけ狙っているみたいだし……しばらく、監視しておいて」
「……」
「万が一にも、うちの妹が傷ついたらこいつの全身の骨を折り、筋肉を断つから」
「それを容易に出来るからお前はたちが悪いんだ……」
*****
松本直美は超能力を持っているだけの一般人だ。しかし、それを理解しているのはシェリルと瑠璃、流沙。それに彼女の両親だけだった。
「だからこそ、俺はあいつのことが好きなんだろうなぁ」
「はぁ、超能力者が好きなのかな?」
ベルの言葉を聞いてアリスは首を傾げる。しかし超能力なんて、本当に存在しているのか。アリスはそれが疑問だった。
「どんな超能力なのですか?」
「どんな?」
「種類ですよ」
「ん……俺が知っているのは見えている物を持ってくるサイコキネシス、テレポート、レビテーション……後は身体能力が凄いと何でも知っているくらいか? あぁ、千里眼と未来予知があった」
それは本当にあったら人間としてどうなんだ、とアリスは思った。しかし
「未来予知は万能じゃないよ~」
「おや、マモン」
「ん、マモン」
「転移だってサイコキネシスだって視界内だけだし、レビテーションは不安定だから使えないのよ」
マモンはそう言いながらソファーに腰掛ける。そして
「例え超能力があったとしても解決できないことはある。改めて実感したわ」
「何かあったのか?」
「嫉妬がらみの事件を先んじて潰してきただけよ」
「事件を……潰した?」
「ええ」
マモンは顔を顰めて
「全知全能だからって、人の気持ちは分からないわ」
「……マモン」
「マモン……」
「ねぇ、ベル」
「え?」
マモンは少し、緊張したような面持ちで
「私さ、どうしたら良いのかな」
「「え?」」
「この後の未来、見てきたんだ」
「……ああ」
そして、
「私、あなたが好きなのだけど」
事前に見た未来が、起きる。
VRMMO物なのに超能力者が出てくるという




