八乙女舞
「マリア、少しそれ、使わせてもらっても良いかしら?」
「良いけど……あんまり、使うのはお勧めしないよ」
「アリアは経験値カンストしているから必要ないんじゃないの?」
「《経験の結晶》を量産するのよ。商品を増やすの」
「まぁ、創ってから一度も動かしていないから問題があるかもしれないけどね」
そうなんだ、とアリアは思いながらその装置に付いている椅子に腰掛けた。すると、椅子が重さで少し沈み、歯車が動き出した。回転する歯車は歯車と噛み合い、自動で《ポーション》を創り出す。
材料を入れる場所には《ポーション》《ハイポーション》《ハーフポーション》《MPポーション》《ハイMPポーション》《ハーフMPポーション》《ミックスポーション》の材料が詰め込まれている。それらを使い、座っているだけで自動的に《ポーション》類を生成し、経験値を得るのだ。
「これ、運営側からしてみればどうなのかしら? 何かしら言われてもおかしくないと思うのだけど」
経験値が溢れ、次々と結晶化していくのを眺めてアリアはため息を吐く。《経験の結晶》に貯め込める経験値は10万まで。しかし約20秒で一個、新たな結晶ができあがっているのを見て、アリアは少し複雑だった。
「ところでアリア」
「何かしら?」
「シンと結婚したらどうするの? 二人暮らし?」
「ええ、そのつもりだけど……どうして聞いたのかしら?」
「参考にさせてもらおうかなって思ったんだ。僕は家を、旅館を継がないといけないみたいだからね」
マリアは少し嫌そうに呟いた。親の仕事を無理矢理継がされるのが嫌なのだろう。でも、その気持ちは分からなくもない。だからアリアは慰めの言葉を吐かず、メニュー画面を開いた。そして、
「マリア、そろそろ装備を整えたほうが良いんじゃないかな?」
「え?」
「ほら、そのハーネスも結構長く使っているから。縫うわよ」
「――ありがとう、アリア。でも、気を遣わなくて良いよ」
「あら、そう? なら良いわ」
マリアの言葉に、アリアは微笑んだ。
*****
「アリア、剣を貸してくんね?」
「良いけど……大剣じゃないわよ?」
「あー、いや、あの……何つったっけ、あの黒い剣だよ」
「黒い剣……?」
「黒くて太くて長いアレだよ」
ふぅむ、どれかしら? アリアがそう思いながら自らのアイテム欄を眺めていると、何故か顔を赤くしたエミが
「あの、《悪魔龍皇剣》じゃない?」
「あぁ、それだそれ。借りても良いか?」
「ええ、構わないわ……でも、何に使うのか聞いても良いかしら?」
「あぁ、ちょっとアタシよりでけぇ奴を真っ二つにしたくてよ」
「なら新たに創りましょうか? あの二本の《合体解放》でも良いですわよ」
「良いや、遠慮しておくぜ。一度振ってみたいって思っていたんだ」
「――そうですの。なら、構いませんわ」
アリアはアイテム欄から、その剣を取り出す。アリアには振るえないその剣をシエルに手渡して
「返さなくても構いませんわ」
「え? 要らねぇのか?」
「……ええ。私には、その剣が振るえませんの」
「……どういう、ことだ? 意味が分からねぇぜ」
「心の問題ですのよ……気にしないでくださいな。それにシエル、あなたにその剣は似合いますわよ」
「ん?」
シエルはそう言われ、少し複雑な表情を浮かべる。
「これ、呪われていそうなんだけど」
「うふふ」
*****
「シエルは誰と戦うつもりなんですか?」
「なんだと思う?」
「そうですねぇ……シエルよりデカいんですよね?」
「ああ」
「んー、ドラゴン? それとも……うーん」
シエルは笑いながらエミと並んで歩く。シエルはかつて、一度アリア宅に泊まったことがある。だからなのか、エミに懐かれているのだ。
ちなみにエミがシエルを明日香だと気付いたのは極最近だ。かつては姉と呼んで慕った相手が故に、懐いているのだ。ちなみに先に懐いていて、後から懐いていた理由を理解したのだ。
「まぁ、答えを言わせてもらうとだ、天使だな」
「天使!? それじゃ私たちって悪魔側!?」
「まぁ、《魔王の傘下》だし天使側じゃなさそうだよな……初期メンバー、悪魔ばっかりだし」
「あー、言われると否定できない様々なことが―」
エミはそう言いながら扇を抜いて、バンッと音を立てて開いた。
「一つだけなのか?」
「まー、まずはって感じで。どれぐらいの敵かも分からないですし」
「ま、アリアに比べりゃ劣るって思っていれば良いんじゃねぇか?」
「まったくですね」
エミは口元を扇で隠し、上品に笑った。そしてそのまま、周囲を睥睨して――それがいた。白い翼を持ち、頭の上に輝く輪っかを乗っけているそれは――天使というしかない物だった。
咄嗟に地面を蹴り、エミが背後に飛んだ瞬間、エミが立っていた地面に光の槍が突き刺さった。それは見ただけで高威力、と分かった。
「シエル、このサイズなら真っ二つに出来るんじゃないの?」
「いやー、前回は額に埋め込む感じで勝ったからよ……まだ、勝ったとは言い辛ぇんだ」
「はぁ……一体どういう理論なのか気になるけど、まぁとりあえず戦おっか」
エミは続けざまに飛んできた光の矢を扇で払い除けて地面を蹴る。彼我の距離は約15メートル。エミのステータスならば、2歩で届く距離なのだが
「ちぇ、弾幕濃いいよ……面倒だなぁ!」
「エミ、あんまりヒートアップしていると隙が出来るぞ?」
「もう良い! もう倒す絶対に倒―すっ!」
「聞いちゃいねぇ……」
早速二つ目の扇を抜いて広げたエミは、走る。両手の扇を振るい、光が形成した様々な物による弾幕を弾いている。しかしいつしかそれは、舞のように変化していた。優美な回転を織り交ぜているそれは、
「巫女神楽……いや、八乙女舞か?」
「うん、詳しいの?」
「いんや、少し聞きかじった程度。後輩が神社の娘さんだったから色々教えてくれたんだ」
奉納の舞いとしては、全然足りていない。道具は言わずもがな、囃子すらも無い。ただただ、扇を使った戦闘を舞いへと昇華させただけの物だ。だからこそ、美しい。
「アリアとは違った美しさだなこりゃ……」
「――奉納、完了! 《神がかり》!」
「何だそりゃ!?」
仄かな光に身を包ませ、エミの舞いが加速する。それは光を軽々と消し飛ばして――天使へと、肉薄した。
「《太極》!」
『《セイントフレア》!』
光を闇に、闇を光に、反対する属性へと変換させるスキルが、光の炎を黒く染め上げる。そして《太極》、陰を陽に、陽を陰に変えると言うことは――そのスキルの発動者すらも反転すると言うことだ。
自らの手元から放たれていた漆黒の炎が天使に牙を剥く。それは天使の体を燃やし尽くそうとする。発動者がエミだからこそ、消そうと思っても消せない。そして――その隙を、シエルは見逃さない。
「悪い、エミ。良いとこもらうぜ」
「どうぞー」
高速で、そして片手で振るわれた《悪魔龍皇剣》が天使を頭から斬り裂いた。
*****
「八乙女舞って誰から教わったんだ? 独学?」
「ううん、な……えっと、マモンに教わったの」
「はぁ、マモンに?」
「うん」
あいつ、知識も技術も大体揃えているよな、とシエルは思った。しかしそれはエミも同意なのか
「マモンってなんでも出来ますよねぇ」
「だよな……ったく、凄い奴だと思うんだけどね」
なんとなく、就職したくなかったからという理由で就活をせず、実家で働いている彼女の顔を頭に浮かべてシエルは少し、ため息を吐く。
自分は就職していて、彼女は就職していない。逆の立場だったら、と少し考えてしまった。
奉納の神楽は知っていましたが、八乙女舞という名前は知りませんでした。ええ、ググりましたとも。
現在考えているのが、ソーニョ本編の完結後、続編とリメイクを投稿するつもりなんですが、これの続き、連載状態で続けた方が良いか別枠で新規投稿するか。
どっちが良いとか意見はありますか?
ちなみに意見がなければ、かなり複雑な投稿形式になるかもしれません。
リメイク版を割り込みで1から、続編は最後尾に的な感じで




