鬼の群れ
「確かに環境は変わったかもしれない。でも、それは今までと同じじゃないかしら? 直美は女子大で、二人は同じ大学だったのでしょう?」
「良く覚えていたわね――でもね、ベルは大学で普通にモテていたのよ。モテモテだったのよ」
確かに流沙は顔も良いし、性格も良い。だからこそ、モテてもおかしくない。だからこそ、
「レヴィ、さっさと結婚したら?」
「誰も彼もがアリアみたいに積極性を持っているなんて思わないで欲しいわね。私、そういったところは奥手なのよ」
「胸を張って言うことなのかしら? ともあれ、レヴィならベルも断らないと思うのだけど」
「ベルはマモンが好きなのよ? 私を受け入れるはずがないわ」
「……そうね」
ベルはきっと、選ぼうとしないだろう。でも、選ばないといけないときが来る。それがいつか、遠くは無いはずだ。
「アリアは他に好きだって言ってくれる人がいたらどうする?」
「断るわ。きっぱりとざっくりと残虐に」
「……アリアならそう言うと思ったわ」
レヴィは苦笑しながら、頷いた。そしてマモンがログインしてきたので、レヴィの跳び蹴りが炸裂した。
*****
『最強になんかなれなくたって良い。俺はただ、俺らしくいるだけだ』
かつての自分の言葉を思い出して、小さくため息を吐く。
「最強願望はないが、負けたくはないよなぁ」
鎌を肩に載せるようにして構え、地面を蹴る。迫り来る怒濤の軍勢を前にして、地面を軸足で削る。そしてそのまま、回転して
「おらよ!」
纏めて薙ぎ払う。しかし、一撃で全てを切り裂けるわけじゃない。だから振り切った姿勢で地面を蹴り、バク転。そのモーションで切り上げを放って
「きりが無いな」
「いつか終わるって思えば戦えるって」
「兄さんの言う通りだよ」
「お前らが働いてくれるのなら俺も楽が出来るんだがな……っ!」
二人は剣と槍を振り回して自分たちの身を護ることに専念していた。だからこそ、ジャックは一人で切り込み、一人で戦っていた。
「あぁクソ! もう面倒臭ぇ! 一気に攻め込むぞ!」
「攻め込むって言われてもどこに行くつもりさ? どいつがボスか分からないんだよ?」
「まったくだ! 群れのボスを倒さないと進行が止まらねぇって言われてもどうにもならねぇよ」
斬り裂き続けていても、終わりが見えてこない。それが三人を苦しませていた。だからこそ、三人は顔を見合わせ、同時に頷いた。
「一点突破」
「全力で」
「ぶっ放す」
周囲の鬼を纏めて斬り裂く。鬼ヶ島から溢れ出した多数の鬼が町へと侵攻していたのだった。だが、
「まずは俺から! 《ブリューナク》!」
「からの僕で《ブリューナク》!」
光輝の槍が二本、鬼共を貫いて飛ぶ。しかし、その途中で何かに弾かれたかのように空中に浮いた。
「「ジャック!」」
「ああ! 《|死神の鎌《グリムリーパ―・サイス》》!」
肥大化し、漆黒に染まった大釜を振りかぶってジャックが駆ける。すでにボスがどこにいるのかは把握できた。だったら駆け抜けるだけだ。
開いていない道を開けるのは二人の剣だ。
「《バスター》ぁぁっ!」
「《フルバスター》っ!」
二本の剣が高速で振るわれ、周囲の鬼を吹き飛ばす。その鬼は多数の鬼と激突し、空いている空間を作り上げる。
そこをとんとん、とリズム良く跳び、駆け抜ける《死神》。そして両手で鎌を握りしめて
「見つけた」
『《フルバスター》っ!』
「《茨の磔刑》!」
高速に振り降ろしと高速の振り降ろしが激突した。それが拮抗したのはたったの一瞬、鬼の体を茨が締め上げる。
『ナンダト!?』
「悪いけどよ、切らせてもらうぜ」
逆手に握っていた鎌を一閃させ、宙を舞う首。それにジャックは目もくれず、逆手に握った鎌を振るい続けて鬼を斬り続ける。しかし、
「ボスを倒してもまだ終わらないだと? サタン、ルシファー!」
「ボスが一体とは限んねぇよ!」
「僕らも見つけた! そっちに向かっているよ!」
二人の返事に納得して、鎌を振るう。斬るための繊細な一撃ではなく、殺すための大雑把な一撃は鬼を吹き飛ばし、次々と体力を奪っていった。
その頃、サタンは槍と剣を構えてため息を吐いていた。
「《七龍獅子剣》――行くぜ」
槍を背中の鞘に収めて地面を蹴る。そのまま両手で握った《七龍獅子剣》を振りかぶって、柄で棍棒を受け流す。そしてそのまますれ違うようにして胴体を切りつける。
「ボスまでの邪魔が多過ぎるぜ……ったく、やるせねぇ」
全力で振るえばどれだけ楽だろう、とも思う。だが、それをするには隙が大きすぎる。こんな時、一人じゃなかったら――
「けっ」
自己嫌悪に陥りつつ、連続して柄を叩き込む。小回りの利く攻撃しか出来ない分、時間がかかる。それにイライラしながら、着実に数を減らしていくと
「サタン、少し手ぇ貸すぞ」
「悪い、頼んだ」
両手で《七龍獅子剣》の柄を握りしめて、そっと振り上げる。そして――延長線上にいるボスを目掛けて、振り下ろした。
地面を割り砕き、衝撃が地面を走る。鬼共が巻き込まれ、光となって消滅する中をサタンは駆け抜ける。背中を護る者がいるのなら、護るも攻めるも、出来るからだ。
背中に背負うようにして《七龍獅子剣》を構え、駆け抜ける。そして、衝撃を散らして無傷だったボスを目掛けて
「《解放》! 《七天龍翼獅子剣》! っ、《セブンスラッシュ》!」
七連続で振るわれる剣が、鬼の剣と激突する。一撃目を受け止められ、逃げ決めを弾かれ、三撃目を逸らされ、四撃目を正面から受け止めて、五撃目が体勢を崩させて、六撃目がその手から剣を弾き飛ばして、七撃目が頭から股下まで斬り裂いた。
「……ジャック、こいつらさりげなく強くね?」
「俺もそう思うぜ……ルシファー! 大丈夫か?」
「まぁ、なんとかね」
平然と答えながら、槍と剣を振り回して安全圏を確保し続けているルシファー。しかし、彼に近づくボスがいた。
「ごめん、ちょっと露払いを任せても良い?」
「ああ」
「良いぜ」
槍と剣が、相手の剣を弾き、阻み、受け流す。ルシファーの護りを崩すのはそう容易くは出来ない、が
「こうも囲まれると面倒だね……やれやれ」
柄で鬼を殴り、先端で鬼を突き刺す。剣を振るって鬼を斬り倒し、鍔で側頭部を殴りつける。さらに続けて、鬼の肩に手を掛けて体を持ち上げる。そのまま宙に浮んで、連続して振るう。
「露を払っても払ってもきりが無いぜ……」
「雨でも降っているような言い方だな」
「雨と同じようなもんだろ。たまにボスって名前の雷ってとこで」
「ははは」
ジャックとサタンの会話は、鬼を斬りながら行われている。それは平然と行われているのだが、きりが無い。鬼はまるで無限のように湧き続けている。
「さっさと倒せ! ルシファー!」
「分かっているって。数が多くて手間取っているだけさ」
剣を剣で弾き、槍の柄で腰を殴打。体勢を崩す鬼を蹴り飛ばして、ボスまでの道を無理矢理開く。
「《グングニール》!」
《ブリューナク》が威力重視なのに比べて、《グングニール》は貫通性に長けている。だからこそ、開いた道を塞ごうとする鬼を刺し貫いて、ボスへと迫った。しかし、
『ムダダ! 《フルバスター》!』
《大剣》装備時に可能な斬撃強化スキル。それによって強化された切り上げが《グングニール》を高く弾き飛ばしたが――脇が空く。そして、
「よっと」
気負いのないかけ声と共に、心臓が刺し貫かれた。
「これでボス三体を倒したわけだが」
「どうも色々とおかしくなってきているみたいだな」
「……」
内情を知るジャックは、何も言わなかった。




