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釣り

「アリア、行くよ」

「ええ、行きましょう」


 アリアとシンが一緒に地面を蹴った。そしてそのまま翼を広げて飛翔した。


「目的地はどこなの?」

「そうねぇ、螺旋大陸の上層、4層目に綺麗な湖があるんですって。釣りに行かない?」

「釣りかぁ……僕、初めてだよ」

「あら、私もよ」


 なんだ、とシンは思いながら微笑む。彼女はリアルのアリアとまったく同じようだ、とも思った。


「アリア、僕は釣りに関する知識も無いから教えてくれると助かるな」

「あら、私だってそんなものなのよ」

「ありゃ……ちなみに、それじゃどうして釣りに行こうって思ったの?」

「なんとなく、シンと一緒にのんびりとした時間を過ごしたかったのよ。最近、シンと一緒の時間が少なかったから……ごめんね」


 アリアのそんな様子に少し頬を赤く染めるシン。しかしそれを口に出さず、シンはアリアの手を握った。一瞬、驚きの表情を浮かべたアリアにシンは優しく微笑んで


「アリア、夏休み、また一緒に暮らさないかな?」

「あ……あの、シン?」

「え?」

「私、元々そのつもりだったのだけど。私、来年からシンと一緒に暮らすのだから同居生活は予行演習みたいなもので、楽しかったのよ?」

「……そっか」


 プロポーズみたいな言葉を口にして、少し恥ずかしかったシンはアリアの言葉で悩んでいた自分が馬鹿に思えた。だから


「アリア、結婚したらどうするか考えている?」

「そうね、新年度になると同時ぐらいに結婚して……いつ頃、子供が欲しいかしら?」

「……気が早いよ」

「私は二人ぐらい、欲しいかしら……ううん、ダメね。欲しいって言い方はダメね」

「そうだね……授かる、かな?」


 シンの言葉にアリアは頷いて、


「私、お母さんとしてやっていけるかしら?」

「マリッジブルー、だっけ? そんな悩み、僕には分からないよ」

「ふふふ、シンは立派なお父さんになるものね」

「なれたら良いね……」


 二人で笑いながら、空を飛ぶ。まるでデートのようなそれにはいずれ、目的地という名の終わりが迫る。


「見えてきたわね」

「――随分と、大きいんだね。それに綺麗だ」

「広いわね……噂で聞いていた以上に素敵だわ。泳ぎたいぐらい」

「泳げば良いじゃない。水着、持ってきているんでしょ?」

「あら、バレていたの? もちろん、シンの分も持ってきているわよ」

「準備万端だねぇ」

「デートだもの」

「そっか」


 そして二人は湖の畔に降り立ち、周囲を見回した。鬱蒼とした森に囲まれた巨大な湖には、きっと色々なモンスターがいるのだろう。そんな場所で二人は釣りをしようとしていた。

 もっとも彼らを襲った場合、可哀想な目に遭うのはモンスターだ。《最強》とその旦那を襲えば、確実に返り討ちに遭うからだ。


「ん、餌って針に付けたら良いのかな?」

「多分……小エビで、良いのよね? 虫は少し、付けるのに抵抗があったのよ」

「僕も虫にはできる限り触れたくないなぁ……っと、付けてみたよ」

「それでは記念すべき初釣り、シンからどうぞ」

「うん」


 どうしたら良いのか分からない。だから、湖の畔にある崖に登って、その上から釣り糸を垂らす。


「見晴らしも良いなぁ……これなら、釣れなくても良いかも」

「そうねぇ、釣りってガチ勢以外は楽しんでするものですしおすし」

「あはは」


 釣り竿を握り、アリアは目を細くする。まだ、釣り糸は垂らしていない。しかし、なんとなくアリアは釣り糸を垂らす気にはなれなかった。


「ん……」

「……眠いのかな?」

「違うわよ……あなたの太ももがナイス枕しているのよ」

「あ、あはは……」


 シンは釣り竿を地面に置いて、リールを岩に引っかける。そしてそのまま、アリアの頭を撫でる。柘雄はアリアが好きで、シンもアリアが好きだ。だけど――僕は、アリアを押し倒した。


 そんな僕がアリアの隣にいる資格があるのか、と思う。僕はアリアから離れた方が良いのではないか、と思う。でも、


「動かないで」

「……」

「あなたがいないと私、寂しいのだから」

「……アリア」

「あなたが何を考えているのか分からないわ。でも、あなたが今、少し悲しんでいて、悩んでいるもの分かる。でも、私はあなたがいないと辛いのよ」


 アリアの言葉に、柘雄は戸惑う。


「私、あなたに依存するのに一切の抵抗がないのだから」

「……」

「冗談よ」

「……そっか」


 アリア、随分と変わったなぁ、と柘雄は思った。そして――やっぱり自分は彼女が好きだ、と改めて理解していた。だから、


「アリア、僕は君を愛しているよ」

「……口に出して言われると、少し恥ずかしいわね」

「なら、言うのは恥ずかしくないのかな?」

「……そう言われると、少し恥ずかしくなってきたわね。意地悪」

「あはは」


 アリアはごろん、と転がってシンに背中を向けて


「愛しているわ、旦那様」


*****


「アリアと結婚するために何が必要なのか、改めて考えてみたよ」

「あら、素敵。どんな風に考えてくれたのかしら?」

「僕は就職を、高校を出たら就職するつもりでいる。でも、アリアは先に就職するんだよね?」

「ええ、その予定よ」

「一緒のタイミングで、と思っているんだ」


 アリアは少し、混乱した。愛されすぎている、とも思った。でも、これは言わないといけない。卒業は、してもらいたい。


「せめて高校は卒業して欲しいわ」

「……」

「ごめん、無理言ったかも。そうよね、勉強難しいよね……」

「ごめんちょっと待って。なんだか別方向の思考していない? 学力は問題ないんだよ? 優秀な方……だと思うよ?」

「あら?」

「……アリアの生活を少しでも楽にしてあげたいから、だよ」


 うーん、とアリアは少し悩んで、事実を突きつけることにした。


「私の貯金だと、三代先までくらいなら働かなくても良いぐらいお金はあるわよ? 無駄遣い抜き、って付くけど」

「そう言えばアリアはお金持ちだったね……忘れていたよ」

「でもね、きっと私はそれでも働くのよ。私たちの子供たちにも、苦労させたくないからね」

「子供、たちなんだね」

「ええ、二人よ」

「あ、そこまで決めているんだ」

「でも柘雄シンがもっといて欲しいって思うのなら、産める限り産むわ」


 凄いなぁ、とシンが思っているとアリアは微笑んで


「これは冗談じゃないわ」

「……そっか。アリアは凄いね」

「あなたの妻だから」


 どういう理論なんだろう、と思いながら釣り竿がしなるのを、ぼーっと眺めていた。


*****


「ボウズ、ね」

「そりゃあ、釣らなかったからねぇ」

「イチャイチャしていただけだもの」

「だねぇ」


 二人で苦笑しながら、夜空を飛ぶ。結局のところ、私たちは釣りなんてしていない。でも、かなり充実した時間を過ごした気がする。

 ゴールデンウィークも明日で終わりだ。だからさっさと、宿題を終わらせないといけない。


「アリア」

「何かしら?」

「僕は来年も高校生だ。でも、アリアは来年は……どうするのかな」

「子育て?」

「気が早いなぁ……結婚して、一緒に暮らすのかな?」

「私はそのつもりだったのだけど……違ったのかしら?」

「――ううん、ちょっと自分の持ち物を処分したりして、運び込まないといけないかもって思ったんだ」

「面倒に思ったかしら? だったら私がしましょうか?」

「うーん……」

「見られたくない物があるのなら見ないわよ。エロ本程度なら許容範囲よ」


 少し、アリアは嘘を吐いた。エロ本の趣向にも寄るのだ。だが、直美のせいでそういった本は巨乳が多いと知っている。だからこそ、ギリギリ許容範囲と言うことにして


「本当に、楽しみね」


 未来を待ち望んだ。


釣りって聞くとその後に乙って言いたくなるよね


次回はどの辺りの時系列か未定です

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