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キャンデラの残した物

 二本の剣がぎちぎち、と音を立てて噛み合う。さらに二本の剣が金属音を鳴り響かせながら激突した。


「アリア、ひょっとして怒っているの?」

「ええ、近年まれに見る怒髪天を突く状態ですわね……改めて言わせてもらいますわ、アリア」

「なにかな?」

「殺す」


 左右の剣が閃いて、アリアを上下から斬り裂こうとする。しかしアリアはそれを軽々と剣の一降りで打ち払って


「この程度で僕を殺そうって言うの? それはちょっと、舐めすぎじゃないかな?」

「ん」


 背後に回り込んでの斬撃、それを読んでの上でカウンター突き。それはアリアの片手の剣を取り落とさせることに成功したが――まだ、一本残っているし翼がある。だから容易に攻め込めない。だが、


「二刀流なら負けませんわ」

「僕の台詞だよ」


 アリアは背中の翼を使って剣を回収する。そしてそのまま翼を折り畳み、二本の剣を構えた。

 あの単純思考のアリアなら、あの程度の挑発にも乗ってくると思ったが――思った通りに動いてくれたようだ。ありがたい。愚かその物だ。


「っくく」

「なんだか悪役チックな笑い方だよ……でもね、僕はアリアに負けるつもりはないからね」

「私だって負けませんわよ――あ、お互い正面から一撃ずつ放って決着にしません?」

「え?」

「もう、そろそろ腰が痛くて……」

「アバターだから有るはず無いじゃん……」

「あなたにないのは人の心ですね」

「だって僕、今はAIだし」

「あっそ」


 なら斬っても死なないよね、と改めて理解しながら剣を構える。二本の剣を巧みに操る相手に、こちらはそこまで器用に扱えない。だからこそ、他の何かで補わないといけない。


 二本共を逆手に持ち替え、護りを重視する。あの馬鹿はおそらく、攻めを優先するからだ。だからこそ、もっと護りを固めればなんとかなりそうだ。


「来いよ、挑戦者チャレンジャー

「行くわよ、《最強》」


 二歩だけ、前に出る。さらに続けて二本の剣を振るう。アリアにはそれが軽々と、一本の剣で受け流されて――開いた剣が、振り下ろされる。技術なんて関係ない圧倒的威力の斬撃が、迫り――


「っ!?」

「どーんっ」


 楽しげな口調と共に、剣が剣に激突する。そして、直後に壁に叩きつけられた。背中への衝撃で息を吐き出す。だが、


「っ!?」

「遅いよ」


 拳が交差した剣に叩きつけられた。背中が結晶の壁を砕くような感触がある。しかしアリアの拳は止まらない。連打連打にさらに連打。壁が砕け、背中にごりごりした感触がある。痛い。


「まだまだぁ!」


 拳二つに加え、蹴りまでが加えられた。しかし何故か、全て狙うのは剣だった。いや、理由は分かる。いたぶっているのだ。


 トドメのように打ち込まれた拳が、剣二本を私の腹部に押しつける。ダメージは大きい。でも、生きている。


「ふっふーん」

「……」

「僕の勝ちみたいだねぇ、あはは」

「……」

「あは」


 アリアは笑いを納め、背後の地面に突き刺した剣を抜いた。そして振り向いて


「っ!?」

「雷、閃っっっ!」


 肩を刺し貫いた剣を、信じられないような目で見るアリア。しかしまだ、もう一本の剣が残っている。


「雷閃っっっ!」

「っ、らぁっ!」


 剣が途中で、斬りつけられた。そしてアリアを逸れて、当たらなかった。


「よく頑張ったね、だが無意味だ」


 首が空を舞った。


*****


「……アリアさん」

「……負けたわ」


 アリアさんは悔しそうに言いながら、しかしすっきりした表情で言い切った。そして、私の手を取って


「キャンデラ、お疲れ様」

「あ、お疲れ様です……アリアさん?」

「飛ぶわよ」

「え? えぇぇぇ!?」


 翼を広げてアリアさんは飛び立った。そして手を繋いでいるからこそ、空を私も飛んでいた。


「どこに行くんですか?」

「そうねぇ……カーマインブラックスミスかしら」

「あー、あのアリアさんのお店的なアレですか」

「ええ、私のお店的なあれよ」


 どれよ、とアリアは思いながら翼を羽ばたかせる。その動作は慣れ親しんでいるような気がした。結局、人格が消えても記憶や経験は体が覚えている物なのだ。


「アリアさん、カーマインブラックスミスって初めて行くんですけどおすすめの商品ってありますか?」

「そうねぇ。ポーションが激安よ」

「え、そうなんですか?」

「ええ、手動で創っていた頃から安いわ。まぁ、現在は踏んでいるだけで創られるように自動化したのだけど」

「えぇ……」


 《ナイフ》などの短い武器を組み合わせて創った機械が動いた際には感動して泣いた記憶がある。結局のところ、私は彼女を失っても何も変わらないのだ。


 アリアと私は別人だ、そう割り切ってしまえば何も考える必要なんて無かったのだ。


「キャンデラ」

「え、あ、はい」

「アヤが私を、リアルの私を知っているから、そこを伝って女子会をしましょう」

「っ、はい!」

「良い返事ね」


 お姫様抱っこされながら、キャンデラは満面の笑みを浮かべた。


*****


「なるほどな……アリアでも突破できないダンジョンか」

「ええ、ステータスが軒並み初期値に戻される上に、ラスボスは入る際のステータスの私たちよ。カンストな分、勝てないと思うわ」

「だろうな……だが、アリアとマモン、それにブブが行けば突破は出来そうじゃないか?」


 うーん、とアリアは頬に指を当てながら首を傾げて


「むしろ難易度が跳ね上がるんじゃないかしら? ボスのキャンデラは戦闘の余波で消し飛んだのよ」

「なるほどな……つまり、強くもなく弱くもないプレイヤー、と言うことか……おい、お前……何を!?」

「あら、一度ステータスをリセットしてみようって思っただけよ。別に、何も変なことじゃないわ」

「……」


 魔王は何か言いたげに口をもごもごと動かして、小さく息を吐いた。そして、


「相も変わらず、お前は突飛だよ」

「あら、あちらと比べればまだマシだと思いますわよ?」

「ふん……どうだかな。俺にとってはどっちも、アリアだ」

「あら、そう思ってもらえるのなら余計にきっぱりと別れたくなりましたね」

「はっ」


 アリアの言葉に魔王は頬を歪め、


「お前がお前らしくあれるのなら、なんだって構わないさ。それよりもアリア、キャンデラというプレイヤーはどこにいるんだ?」

「隣の部屋で待たせているわ。私、彼女にかなりの好意を抱いている上に、実力があると思っているわ」

「……」

「人間性も良いし、未来性もある……だから、その……」

「ああ、構わない」

「あら?」

「言い出しづらい……か。その辺り、お前も変わらないな。キャンデラ本人の意思にもよるが、《魔王の傘下》に参加してもらおう」


 そして5分後、


「アリアさん、結局私はどうして呼び出されたんですか?」

「まぁまぁまぁ」

「あの、どうして背中を押しているんですか?」

「まぁまぁまぁ」

「あの、この部屋に何かあるんですか?」

「まぁまぁまぁ」


 キャンデラは戸惑いながら、アリアに背中を押される。そしてそのまま、室内に押し込められた。


「あの、アリアさん? 誰か入っていますよ?」

「――よく来てくれたな、キャンデラ」

「あれ? なんで私の名前を知っているんですか……あ、あの時、お姉ちゃんと話していた魔王さんですか?」

「ああ、そうだ。こうして話すのは初めてだな」

「あ、初めまして。キャンデラです」

「初めまして、魔王だ」


 それ、プレイヤーネームと違いますよ? キャンデラはそう思ったが、アリアさんは何も言わない。だからまぁ、そういうものだろうと理解した。


「さて、キャンデラ。《魔王の傘下》についてはどれぐらい知っている?」

「アリアさんが所属しているギルドってだけです」


 きっぱりとした言葉に、さすがの魔王も動揺した。


ねむねむ

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