アリアとアリア
名前混乱注意とだけ言っておきます
「あっはっは、どうやらここまで来るのに随分と苦戦したようだねぇ」
「……」
「あの、アリアさん?」
「なんだい?」
「あ、いえ。そっちじゃないです、黙っててください」
「え……」
割と辛辣なキャンデラの言葉に、アリアは壁の方を向いて体育座りになった。そしてそれを眺め、キャンデラは思案して
「アリアさん、絶好の隙がありますよ」
「ふ、ふふ……」
「アリアさん?」
「消えたはずなのに、消したはずなのに……っ! いまだ立ちはだかるか! 負け犬が!」
「え、ちょ、僕は負けてないし!」
「五月蠅い負け犬……斬り殺す」
「なんだか僕が悪役みたいだよ……」
直後、瓜二つの二人は同時に剣を抜いて、お互いを睨み付けて
「仲間なんかに頼る弱いのは僕じゃない」
「そんな狭量なのが私で有るはずが無い」
激突した。
*****
首を刺し貫こうとする剣をアリアは軽々と避けて、
「去れよゴースト、《バニッシュ》だ!」
「っ、《ソードリバーサル》! 《アークスラッシュ》!」
剣を受け流し、反撃を仕掛ける。しかし相手も然る者ながら、軽々とそれを避け、背中から生えている翼を巧みに操って攻撃を仕掛けてきた。
前に出ることで避けつつ、さらに空中で回転して翼を切り払う。切り払えないと思ったが、思った以上に軽い翼だった。
そもそも翼が思えれば飛べないなんて言ってはいけないのだ。
「アリアさんとアリアさんがアリアさんしてる……」
「「何を言っているの(さ)!?」」
「アリアさん……アリアさんがアリアさんでアリアさんがアリアさん? どういうこと?」
「キャンデラ! 冷静になりなさい!」
「あら、私は冷静ですよ」
「えぇ」
アリアは少し呆れながら、剣を振るう。咄嗟のそれが、翼を防ぎ、アリアの身を護る。戦い方が変わったとしても、ステータスが失われても、装備が変わっても、その辺りは《最強》なのだ。
「アリア」
「なんだい、僕?」
「あなたの亡骸を踏み越えて、私は進みます」
「ここが最上層だよ!? どこに進むって言うのさ!?」
「どこだと思いますか?」
「うーん、栄冠とか、未来とか?」
「はっ」
「鼻で嗤われた!?」
アリアはアリアを嘲笑し、そっと剣を構える。そして、眼を細くして
「分かるはずがないでしょう」
「えぇ……?」
「それが私の進む道ですから」
「意味が分からないよ……」
頭を使うことが苦手なアリアは顔を顰めてそう呟いた。そしてそのまま翼を折り畳んで、そっと剣を構えた。
そして地面を蹴って、高速で移動した。そこは――
「後ろだよ」
「あら、知っていますわよ?」
言葉通り、アリアが背後に回り込むと同時に放たれた背後への突き、それがアリアの肝を冷やす。
※この時点でどっちのアリアがどっちのアリアか分からなくなられた方もいらっしゃると思われますが、作者もそうです。
「キャンデラ、あなたは出来れば手を出さないで欲しいわ」
「んー、キャンデラって言うのかな? 僕からもお願いしたいねぇ」
「え、あの、アリアさん?」
「「こいつを斬るのは僕(私)だから」」
剣を交わしながら二人は同時に言い放った。鏡のような剣戟は決して優劣を付けられる物ではない。だが、圧倒的にアリアのステータスが劣っている。《最強》のカンストに対して、アリアはいまだ成長過程なのだから当然とも言える。
しかしこの状況においては、如実にその差が目に見えてはっきりとするのだ。アリアの剣が振るわれる度に、アリアはそれに反応して剣を振るう。そのタイムラグが積もれば積もるほど、アリアは苦戦を免れないのだ。そしてそれは、当事者である二人と眺めているキャンデラに軽々と理解できるものだった。
「ほらほらどうした! 遅くなっているよ!」
「五月蠅いわね……小蠅みたい。耳障りという点では同じね」
「っ、五月蠅い!」
「だから五月蠅いっているっているでしょう小蠅」
「そんな呼び方するな!」
「コバリア」
「むむむ……」
「リア」
「お?」
意外と良いかもしれない。そんな表情のアリアの首を無慈悲にも薙ごうとするアリアの剣が迫る。
我に返ると同時に、迫っている剣を知覚したアリアは地面を蹴る。それは後ろに下がるわけでもなく、横に逃げるわけでもない。ただただ、戦うがために前に出たのだ。地面に背を向け、そのまま回転しながらの斬撃を放つ。
「っ、出鱈目人間め……っ!」
「人間じゃないよ、プレイヤーだよ」
「五月蠅い小蠅」
「あー!? また言った!? もう良い、絶対斬るから!」
「今まではなんだったのよ……」
アリアは小さく息を吐きながら逆手に握った剣を振るう。それはアリアの振るう剣に併せ、回転して剣を受け流す。そしてそのまま、独楽のように回転して背中に切りつけようとしたが
「《アストライア―》! あれ?」
「翼を出す機構は別物じゃないの?」
「あ、そっかそっか」
「言わなきゃ良かった」
翼に剣を阻まれ、舌打ちする。このタイミングで間に合うということはAGIでもかなりの差があるのだ。
力任せの剣をいつまで弾けるか、それがアリアの心配だった。そしてそれは、遠目に見ているキャンデラも同じものだった。
「……アリアさん」
心配だった。そして、力になりたかった。でも、手を出すなと言われた。だからキャンデラは動けなかった。
*****
「しゃっ!」
「何よそのかけ声……っ!」
剣に剣を併せて、
「あ」
「隙あり、ですよ!」
手から剣が浮いた。それにアリアが驚いている。その顔面に剣を突き刺す――そう思い、行動し始めた瞬間、
「っ!? 何事!?」
「えっ!?」
「危なかったぁ……無事ですか?」
「キャンデラ……あなた、何を!?」
「背後から翼が迫っていたんですよ……見えて、気付いていなかったんですか?」
まぁ、だからこそ動かないといけないと思ったんだけど。キャンデラの言う通り、アリアは気付いていなかった。そしてその翼を受けていれば、確実に大ダメージを受けた上に、追撃まで加わっただろう。
キャンデラに救われた、とアリアは思いながら息を吐いて
「ありがとう、キャンデラ。愛しているわ」
「安っぽい愛ですねぇ」
「旦那のを取り除いた残り滓全てよ」
「はぁ……喜ぶべきなんですかねぇ」
キャンデラは軽口を叩きながら、剣を抜いて構えた。アリアにとって彼女は取るに足らない相手だったからこそ、アリアを護られたのだった。動きを目にしていても警戒せず、対処もしなかったのだ。
アリアは自分を叱咤する。油断、慢心。そういったものがいつの次代も強者を打ち破る要因になり得るのだと自分に言い聞かせて――剣を抜く。二本目の剣を抜く。
「アリア、キャンデラ」
「なによ」
「なんですか?」
「行くよ」
《最強》の宣言と同時に風が二人の間を通り過ぎた。突風と呼んでも差し支えのないそれに眼を細めていると
「どこを見ているのかな?」
「「っ!?」」
「遅いなぁ……絶望的な力の差を実感させてあげているんだよ――絶望剣技、」
「キャンデラ! 全力で防御しなさい!」
「え!?」
「《ホープレス》」
その剣を受け止めた。三回までは受け止めた記憶があった。でも、その後の記憶は私には残されていない。
ただただ、分かっていることは――私は、脱落したんだってことだ。それは如実に青い空が、結晶の天井じゃ無いそれが教えてくれた。
「負けたのか……私」
そう思い、口に出してみると意外とすんなりと飲み込めた。だから――
「頑張ってね」
*****
「――」
「――」
「――あなたとは、きっとどこでも分かり合えないと思っていた」
「ん?」
それは逆じゃないかな、とアリアは思いながら二本の剣を構えた。そしてその視線の先には――二本の剣を握りしめている、憤怒の表情のアリアがいた。
もっとも混乱したのは作者という




