ガイアドラグ
《ヴォルケイノドラゴン》の頭を蹴って、宙返り。そのままの勢いを乗せて、剣を振るう。がいん、と耳障りな音を立てて剣は弾かれた。
「アリアさん、これで良いんですか?」
「ええ、片目だけを潰してくれれば、ね。これで死角は出来るし、私を見てくれるわ。だからキャンデラ」
「なんですか?」
「死角に回り込み続けなさい。後は任せて良いから」
「……至らず、ごめんね」
「気にしないで良いわ。私だってただ見ているだけで満足なんてしないもの」
アリアはしゃらん、と軽い音を立てながら剣を引き抜いた。必要ないときは鞘に収めている彼女が抜いた剣は、そっと真下から剣を振り上げた。
噛みつきを逸らし、回転しながら顎の下に滑り込む。そのまま柔らかいであろう首に切りつける。しかし、
「硬い、ですね! でも、斬れなくはない、と」
アリアさんは確認作業のように剣を振るう。一閃、二閃、その場から離れながらの一閃。まるで舞のような剣を《ヴォルケイノドラゴン》は止められない。
どうしてエカテリーナは連続攻撃を余り放たなかったのだろう。それはきっと、一撃一撃で的確な攻撃をしていたからだ。だから彼女の模倣をしよう。彼女を真似して、そこから離れよう。守破離だ。
《ヴォルケイノドラゴン》の口腔内が赤く染まった。そしてその瞬間、胸元の一カ所が不自然なぐらい、膨らんだ。それはつまり、そこに酸素を、空気を取り込んだということだ。そこに、酸素を取り込んだ意味があるということだ。
「わん、つー、わんつーさんしーっ!」
リズムを口ずさみ、アリアの動きが加速する。ギリギリ《ヴォルケイノドラゴン》が反応できる速度、を一段上回った速度だ。
まず一歩、二歩、三歩、四歩で右足から駆け上がり、首の根元に立つ。そしてそのまま、剣を逆手に握り治して
「――ここ、かしら?」
ずぷっ、と全体重を掛けた剣が鱗の隙間から《ヴォルケイノドラゴン》の肉に突き刺さる。そしてそれはずぷずぷ、と刺さっていき――ぱん、と何かが破裂するような音が聞こえた。
「アリアさん!?」
「あら、キャンデラじゃないの。助けてくれたのかしら?」
「まぁ……ぶっ飛んでいたわけですし」
ガス袋が爆発したんだ。口腔内へ送り込んでいたガスが二カ所目から出ようとして、引火した炎が体内を焼くと同時に背中からも出たのだ。よく分からないがそれで倒せたらしい。それで良いのだ。原理なんて、どうでも良いのだ。
ちなみにアリアが刺し貫いたのはガス袋の付近にある心臓であったため、普通に死んだのだ。
*****
「ごめんなさい、お手を煩わせてしまって……」
「良いわよ、キャンデラ。あなたがいなければ私も苦戦していたのよ? あなたがいなければ《ヴォルケイノドラゴン》に完勝は出来なかったのよ? もっと自分に自信を持ちなさい」
アリアの言葉にキャンデラは少し、胸が熱くなった。それはきっと喜びという物だろう。
かつて、姉から幾度となく聞かされた「馬鹿だけど頼れる良い奴」という評価を改めて、再認識したのだが
(アヤの方が馬鹿じゃない?)
姉の言葉に疑いを持ち始めるキャンデラ。頼れる良い奴というのは合っているのだが。アリアはそれに気付かず、どんどん階段を上っていった。
「キャンデラ」
「はい」
「さっきの階層で《ヴォルケイノドラゴン》が出たのだから……もう、ここからは本格的なボスラッシュになると思うわ。気を引き締めて行きましょう」
「……足手纏いじゃないですか? 大丈夫ですか?」
「あら、キャンデラがいないと私はここまで来るよりも前にやる気を失っていたわ。あなたのおかげで私はモチベーションを保っているのよ? この言い方だと嫌な言い方かもしれないけどね」
「あ、あはは……」
でも、足手纏いじゃないんだ。そう思うと、キャンデラは安堵して――そっと、腰の剣を握りしめた。
そんなキャンデラをアリアは見つめ、そっと息を吐いた。そして
「次は私が戦うわ。でも、辛かったら助けを求めるかもしれないわ――その時は、よろしくお願いするわね」
「え、アリアさんでも、ですか?」
「ええ……《ヴォルケイノドラゴン》ですらあの強化なら、ここから先は私1人じゃ太刀打ちできないかもしれないもの。頼りにしているわよ、キャンデラ」
*****
現在のアリアのステータスは普段のアリアのステータスの100分の1にも満たない。レベルで言えば、もっと差がある。
だからこそ、色々と考えて動かないといけないのだ。僕ならば出来ないことだ。あの直感馬鹿には出来ないことだ。
(まぁ、あの直感を信じられる不用心さもあって良いものとは思いますが……ねぇ?)
アリアはそう思いながら、螺旋階段を上がりきる。どこにモンスターがいるのか、なんて考えない。どこにいても対処する。そのつもりだからだ。
「っ、地震って事は……岩石龍ね!」
岩山エリアのボスにして、地属性のドラゴン。それが山を割り砕き、地表へと姿を現した。岩石龍、《ガイアドラグ》はその大きな瞳で、自らの瞳よりも小さいアリアを眺めた。
アリアの身長は150と少し。それを考えてみれば《ガイアドラグ》がどれほど大きいか予想しやすいだろう。
「さてと」
一歩、二歩。《ガイアドラグ》は外見に見合った通り、基本は鈍重な動きだ。だからこそ、アリアは余裕を持って顎の下に飛び込み、真下から切り上げた。
スキルを使えば高威力の攻撃をたたき込めるが、スキル後の硬直が怖い。だからこそ、いまだスキルレベルが最大になっていないスキルは使わないし、使う気になれない。
「まぁ、使わないから熟練度も上がらないわけですが!」
まず上げるべきスキルは《片手長剣》。さらに道中で手に入った《疑似敏捷》と《疑似剛腕》。熟練度はすでに8割を超え、上がり辛くなっている。反面、経験値は多く得られるようになってきているため、スキルレベルとレベルは上がりやすくなってきていた。
顎をかち上げる一撃が、口を開こうとした《ガイアドラグ》の顎を強引に閉じようとする。抵抗するような重量が手首にかかるが、そっと剣を滑らせる。そのまま、首の下まで駆け込んで
「――っ! 《アークスラッシュ》!」
自力で斬りつければ剣が弾かれ、切り込めない。ならばシステムの力を借りて、無理矢理切り込ませる。
貸し出し武器は何故だか分からないが耐久は無限となっている。だから折れないし、曲がらない。曲がらないのは仕様だ。
切り上げのモーションで右手を右肩の延長線上まで伸ばす。そのまま小さく息を吐いて、肩に担ぐように剣を構える。
「《アークスラッシュ》! からの《アークスラッシュ》!」
連続して斬りつけているとぐんぐんスキル熟練度が上がる。ついでにどんどん《ガイアドラグ》の岩石の鎧も剥げてきた。
《ガイアドラグ》はその重い岩石の鎧を纏っているからこそ鈍重なだけであって、それが剥げ落ちてしまえば――速度が増す。
「とーん、とーん、てーん、とーんっ!」
リズムを刻みながら地面を蹴る。攻撃を避けながら、だから《ガイアドラグ》から距離を余り取らず、そして口調とは真逆に、緊張していた。
キャンデラはその様子を眺め、驚きと呆れを混じらせていた。楽しげな口調で、右に左にと跳び回っている――まるで、けんけん遊びのようだ。
「アリアさん……何を!?」
「ええ、キャンデラ――見ていなさい」
「何を!?」
「自分より強い相手を確実に、倒す――殺す方法を、よ」
アリアは呟いて、地面を蹴った。直後、立っていた位置を踏み砕こうとする足があったが、それはアリアを捉えきれていない。そして――
「雷、閃!」
先に剥いでおいた、岩石の鎧。そこに高速の一突きを叩き込み――心臓を、刺し貫いた。
初登場ガイアドラグちゃん
今まで登場したドラゴンってヴォルケイノドラゴンと悪魔龍皇ぐらいなんですよね
悪魔龍皇で思い出したけど悪魔龍皇剣を今のアリアは使えないという設定があります




