ヴォルケイノドラゴン
アリアは地面を蹴り、壁に着地する。そしてそのまま壁を蹴り、相手の頭上で剣を振りかぶり、斬りつけた。
さらに斬りつけた勢いを乗せ、空中で捻りを加えて一回転し、《スネークボール》に剣を向けて着地する。
「キャンデラ、首を切り飛ばせそうならお願い。どうも数が多くて、逃げ回りながらになりそうなの」
「あ、はい! 分かりました!」
そんなことがあったり
「アリアさぁぁーん!? 助けてぇぇぇ」
「くも、むり。がんば」
「アリアさぁぁん!?」
って事があったり
「キャンデラ!?」
「私はもうダメです……置いて行ってください」
スライムに飲み込まれたキャンデラは、体育座りで涙を流していた。切れなかったことがどうにも辛いらしい。
「その点、私は斬れたから問題無し」
「慰めるつもりはないんですか!?」
「ええ、ないわ。だってあなた、悲しんでいるより悔しがっているようだし」
キャンデラは図星を突かれた。だが、アリアは何も言わずキャンデラを置いて階段を上り始めていた。それはまるで、追いかけてくるだろうという信頼の表れでもあった。だからキャンデラは体育座りを辞める。
「アリアさん!」
「なに?」
「次は私だけで戦っても良いですか?」
「好きにしたら?」
そんなこんなで、50層というちょうど区切りの層まで辿り着いていた。そこで一体何が出るのか分からないが、苦戦は免れないだろう。
「キャンデラ、助言をさせてもらっても良いかしら?」
「え、もらえるんですか?」
「どうして目を輝かせているの……? キャンデラ、剣で対処できる相手なら相手の間合いを見極めなさい。そして、剣で対処できないならば頼りなさい」
「頼る、ですか? アリアさんを?」
違う、と言われる。そう思った。でも、
「私や、他の何かをよ」
「え……他の何かって?」
「状況や相手を利用しなさいってことよ。それじゃ、応援しているわ」
アリアさんはそう言い、螺旋階段に腰掛けた。そして、50階層で待ち構えているそれを眺めていた。
「懐かしいわね、あのドラゴン」
「え? 《ヴォルケイノドラゴン》ですよね?」
「ええ……かなり初期に、ソロで挑んだわ。苦戦したような気がする……でも、勝ったわ」
「……」
「かなり広大なフィールドのようね。見た感じ、《ヴォルケイノドラゴン》の出現エリアかしら?」
「みたいですね……それじゃ、行って来ます!」
「行ってらっしゃい」
最後の段を蹴り、一気に層上へと上がる。眠るように、体を丸めていた《ヴォルケイノドラゴン》が鎌首を擡げ、私を見た。爬虫類特有の眼に少し、気味悪く感じつつ走る。
4足歩行の《ヴォルケイノドラゴン》にとって、首の下や腹部は死角になる。そう思って駆け込んだが
「っ!? 地震!?」
「足踏みよ! タイミングを見極めて避けなさい!」
「簡単に言ってくれますね!」
キャンデラはそう言いながら、ぐらぐらと揺れている地面を蹴る。そのまま跳躍し、今まさに地面に叩きつけられようとしている右足に着地する。直後、振動。必死にそれを耐えながら、右足に剣を刺す。突き刺さりはしないが、支えにはなった。
「ふぃー」
「キャンデラ、安心するにはまだ速いわ」
「あ、そうでしたね」
剣を引き抜いて、足を蹴る。そのまま地面に着地し、さらに加速する。《ヴォルケイノドラゴン》の前足がいた位置を踏み潰している。それに少し肝を冷やしながら、剣を抜く。
「行きます!」
薙ぎ払うような前足を剣で受け止めずに、そっと受け流そうとする。しかし重量感あるそれはそうそう流せない。だから、回転して前足の表面を滑って、避ける。滑りきれなかったのか、体勢を崩して地面に膝を突いてしまった。
「キャンデラ!?」
なんだか、悲壮な叫び声だ。アリアさんらしくない。あ、足が降ってきている。
「っ、まだまだぁ!」
負けを認めてなんかやるもんか。負けず嫌いな性分がキャンデラの中で顔を出した。咄嗟に剣を振るい、重すぎる足を切りつける。だが、切れない。しかしそれを利用して、反動で地面を蹴る。
一歩、二歩、三歩ぉっ!? 背後からの衝撃で背中を打たれ、地面を転がる。
「《ヴォルケイノドラゴン》ってこんなに強いんだ……」
「キャンデラ……ひょっとして、《ヴォルケイノドラゴン》と戦ったことはなかったの? もしかして、初相対?」
「あ、分かりました?」
壁を蹴り、三角飛びの要領で《ヴォルケイノドラゴン》の足を避ける。そのまま、何とか足に着地して駆け上がる。背中まで、駆け上がる。
「古来より英雄がドラゴンを狩る際に、必ず潰す部位がある――」
それは五感が一つ、視覚を司る眼だ。八岐大蛇? お酒が無いから無理なんだよ。
背中から落ちないように慎重に走り、首の根元までは辿り着けた。《ヴォルケイノドラゴン》は4足歩行で双翼、そして長い首が特徴だ。だからこそ、背中は完全に安全圏だった。
逆手に握った剣をしっかりと持って、首の根元を蹴りつける。そのまま一気に駆け上がっていると
「まるでアトラクション……っ!」
「キャンデラ……」
「大丈夫です!」
逆手に握った剣を鱗の隙間に突き刺して耐える。振り落とされそうになるが、必死にしがみついていると
「キャンデラ! 手を貸した方が良いかしら?」
「っ、もうキツいんでお願いします!」
「ええ!」
だん、と力強い踏み込みが螺旋階段から聞こえた。それに《ヴォルケイノドラゴン》が反応し、顔を向けたが
「遅い」
AGIの方を優先したアリアには、余裕で反応できる速度だった。そして、壁際まで移動して、そっと剣を抜いた。そのまま、体勢を低くした。それはまるで、待ち構えるような構えだった。
「ようやく、かしら」
《ヴォルケイノドラゴン》の首が伸ばされ、口腔内に炎が貯められた。そして、炎が吐かれる――寸前、アリアはニヤリと笑った。
「キャンデラ!」
「分かっていますよ!」
アリアという絶好の囮を使い、キャンデラは首を駆け上がる。異変に気付いた《ヴォルケイノドラゴン》は口腔内に貯めた炎を消すことが出来ず、動揺したように首を捻った。
「失敗した!?」
「うーん、難しいわねぇ」
「そんな悠長に言っている場合ですかぁ!?」
必死に頭にしがみついているキャンデラ。それを眺め、アリアは床を蹴った。そしてそのまま、壁を蹴って三角飛びをして
「落ちなさい、羽トカゲ」
「クライムをオラトリオ無しで使えそうですねぇ!?」
「あら、フェニックスなんて名詠出来ないわよ」
懐かしいネタを口にしながら、アリアは《ヴォルケイノドラゴン》の横っ面を斬りつけた。しかし、刃は弾かれ、手に痺れが残りつつ、ぎょろり、と睨まれた。怖い、と思いながらにやり、と笑ってしまった。
「やりなさい!」
「はい!」
ざぐっ、と鈍く、痛そうな音が響いた。それはキャンデラの握る《片手長剣》が《ヴォルケイノドラゴン》の片目を刺し貫いた音だった。
「痛そう……」
「アリアさぁぁぁん!? なんかめっちゃアトラクショォォン!?」
振り回されすぎて声にエコーがかかっているように聞こえてきた。不思議だ。そんなキャンデラを眺めながらアリアは落ち着いて、首より下を狙って斬りつけ続けていた。
《ヴォルケイノドラゴン》に限らず、炎属性のモンスターは体内の一カ所、または複数箇所に熱や炎をため込む袋のようなものを持っている。
「つまりそこを刺し貫けば倒せる、と」
見極めろ。どこがその袋の存在する位置か、と。見極めて、そこを刺し貫く。そのために、
「キャンデラ! 降りなさい!」
「え!? でもまだ片目残っていますよ!?」
あ、両方潰すつもりなんだ。アリアは少し、脱力した。
みんなのアイドルヴォルケイノドラゴンちゃん再登場!
次回退場するのが目に見えているぜ!
クリスクロスという小説を勧められたので、早速図書館で借りてきました。
読むぜー、超読むぜー




