ゼロから
「私が世界の終わりを加速させている……と、いうとまるでファンタジーみたいね」
「まぁ、それを言い出すとアリアという人間がそもそもファンタジーの産物のようなんですがね」
「え?」
「え?」
「「……」」
私、ファンタジーなの? と、アリアは悩んだが……決してその答えが出ることは無かった。
*****
「プレイヤースキルを鍛えることが強くなる秘訣、って私はあなたに言うわ。でも、プレイヤースキルだけじゃ届かない物があるってだけ、覚えておいて欲しいわ」
「アリアさん……」
「装備にステータス、それが重要なのよ。だからこそ、このダンジョンは私にとって、かなりコメントに困る範疇のものね」
アリアが見上げているそれは、螺旋大陸の裏側に生えている結晶の塔だった。
「あそこに行けば、創り出したスキルにステータスポイント、スキルポイント。挙げ句の果てにレベルと経験値が全て、失われてしまう……もちろん、装備もね」
「え!? そんなダンジョンに私を誘ったんですか!?」
「嫌だったなら良いわ。いざとなれば、私1人でも攻略してみせるから」
「えぇ……何がそこまで、アリアさんを駆り立てるんですか?」
「――それは、私が……うん、私が《最強》だからよ」
もう、私は一人なんだ。真の意味で、一人なのだ。だったら私は、彼女に恥じないようなプレイヤーとなる。
そんな風に心で決めながら、翼を広げる。《アストライアー》の防具の最終形態は、《アストライアー》という名前だけだった。それは単純明快に、無形の衣にして、何にでもなれる衣。純白の、羽などの装飾の一切無い、シュッとしている蝙蝠のような翼。
「それじゃ、キャンデラ。行ってくるわね」
「やっぱり私も連れて行ってください!」
「――ええ、構わないわ。私とあなた、どちらも同じ条件からのリスタートよ」
ちなにみダンジョンを出れば元通りのため、何の問題も無い。アリアはそう思いながらキャンデラの手を引き、飛翔した。ゆっくりと、螺旋を描くような飛翔にキャンデラが驚きつつ、景色を楽しんでいると
「あら? また《イレギュラー》ね」
「ひぇぇ……!? こんな高度でも出るんですか!?」
「どんな高度でも出るからこそ、《イレギュラー》なのよ……ちょっと、暴れないでね」
「え!? ええええ!?」
キャンデラは自分が常識人だと理解しているし、その範疇を出ない人間だとも思っていた。だからこそ、暴れないでと良いながら自分が放り投げられるなど、想定外の事態だった。それも、飛来する《イレギュラー》に向けて。
「嘘ぉぉぉぉぉ!?」
「ん」
めきょ、っと何かがへこむような音がして、私は柔らかい何かに受け止められた……あれ、硬い。あ、そっか。
「薄いんだ」
「何が?」
アリアさんは不思議そうに首を傾げながら、次々と飛来する《イレギュラー》を眺める。
「今蹴り倒した感じだと、レベル4000程度ね……急いだ方が良いわね」
「えっと……もう、乱暴なことは?」
「ええ、しないわ」
ぽーい
「嘘じゃないですかぁぁぁぁぁぁ!?」
遠ざかっていく悲鳴を無視して、アリアは《イレギュラー》を見下ろす。そのまま、翼をさらに広げる。薄く、薄く。しかし縁だけは硬質に。
「彼女の真似事なんて、恥ずかしいですけどね!」
翼を剣のように手繰る。それで《イレギュラー》を牽制しつつ、背後へと飛ぶ。見えない恐怖はあったが、頼れるそれがある。だから少ししか怖くなかった。
「アリアさん!? ぶつかるって!?」
「なら止まりましょうか」
ばんっ、と大気が音を立てる。急制動でかかるGを少し辛く思いつつ、振り向くと腰を抜かして、へたり込んでいるキャンデラがいた。
「ちょっと下がってもらわないと入れませんね」
「あ、ひゃい!? ただいま!」
もの凄く焦ってスペースを空けようとし、逆に落下しそうになっているキャンデラ。その様子を眺めていても良かったのだが、そうも言っていられない。咄嗟に襟を掴み、持ち上げる。
「まったく、先に行きますから着いて来てくださいね」
「あ、はい」
キャンデラを降ろし、先に階段を上る。この先に待つのは、高難度ダンジョンにして最高難易度、培った全てを失い、足を踏み入れる陵墓。
「さぁ、楽しみですわね」
鼻歌でも歌いそうなアリアの声にキャンデラは、ただただ呆れるしか無かった。
*****
『侵入者よ。培いし全てを失い、なお進もうとするか』
「ええ、進みますわ」
『ならば全てを失い……進むが良い』
ステータスが全て、初期値になる。アイテム欄が空になる。経験値が0になる。スキルも初期化され、何もかもが失われる。
アリアは小さく、息を吐く。自分の存在がちっぽけになったと思えてしまったからだ。だが、元々私はちっぽけなのだ。身長も、胸も。だから悲しくは無い。
ここが開始位置だったはずだ。そして追いついた……だからもう一度、あの高見に至るまでをやり直そう。擬似的だろうと、やり直そう。
「アリアさん、頑張りましょうね!」
「――ええ、キャンデラ。期待しているわよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ、あなたがいるだけで心強いわ。一人は少し、心細いもの」
キャンデラが何か言う前に、アリアは全てを失った、インナーだけの姿で微笑んだ。そしてそのまま前に進む。
「あら、ここで貸し出し武器を借りられるのね。親切ね」
「性能は酷過ぎますよ……でも、この剣って自分が好きなように成長させられるみたいですね!」
「ふぅん……それは確かに、面白いわね」
そんな装備、考えたことも無かった。アリアさんはそう呟いて、貧相な剣を手に取り、真剣な表情で構えた。そして、小さく息を吐いて
「酷い剣。こんなの、ただでだって誰も引き取ってくれないわね」
「アリアさん……」
「でも、こんな剣こそが一緒に成長してくれる剣なのかしら……ワンオフの剣、ロマンチックね」
そう言いながらの素振りは風切り音が、聞こえなかった。それはアリアにとって驚くべき事態で、当然のようにすんなりと理解できた。だから、さっさと前に進み出そうとして……顔を上げた。
「キャンデラ」
「は、はい?」
「もう、始まったわ」
硬質な声にキャンデラが反応する間もなく、アリアは地面を蹴る。そのまま階段を駆け上がり、腰の剣を抜き放つ。その剣は、階段を上がりきると同時に、剣と激突した。
「《ゴブリン》っ……! キャンデラ、まだ上がらない方が良いわ!」
「え? でも、《ゴブリン》程度なら私だって「ステータスが下がっているのよ! いつまでもその感覚じゃまずいわ!」
アリアは冷や汗を掻きながら、剣を振るう。かつての自分がしていたように、全身運動で剣を振るう。そうでもしないと、《ゴブリン》との圧倒的なレベル差は埋まらないのだ。
たかが30レベル、されど30レベル。たった一回の被弾すらも許さない戦況がそこにはあった。
「アリアさん! 加勢します!」
「要らないわ! それよりも他にモンスターが現われないかを見ていて!」
「っ、分かりました!」
切羽詰まった声にキャンデラが動揺していると、アリアは大きく下がった。そして姿勢を低くして、息を吐いた。
「アリアさん!?」
*****
結局のところ、私は技巧派のプレイヤーでは無かったのだ。プレイヤースキルについて偉そうに語りながらも、結局のところはステータス任せだった。
彼女と私は似ていて違う、それはきっと、そこが根幹にあったからだろう。だからこそ、もう迷わない。
「エカテリーナ、あなたの技はそういうことだったんですね」
当たれば良い、という彼女ではエカテリーナの剣を真似できなかったのはそういうことなのだ。だから私は、振り下ろされそうになる剣、その懐に飛び込んで
「雷閃!」
模倣の技を放った。
アリアとアリアの剣の違いを明らかに
お盆だろうと予定は無い
祖母家には昨日行きまして候




