終わりが迫りて
「《イレギュラー》ですか? 知っていますよ」
「そうなのか? どういったモンスターなんだ?」
「モンスターとしては弱いモンスターでしょうね。ですが、一般のプレイヤーからしてみれば、奴らは確実に強いモンスターでしょうね」
魔王はマグナの言葉に少し、疑問を抱いたが質問は最後にするつもりだった。だが、マグナは少し、戸惑うような表情で頭を掻いていた。そして
「魔王、敢えて言わせてもらいます」
「――何をだ?」
「このサーバーは異常です。ですから、《イレギュラー》が出現する下地は充分に整っていました」
「ほう?」
「《イレギュラー》は《悪魔の肝》と同じです。溢れ出したステータスが、モンスターの、《イレギュラー》のステータスとなっています。ですから魔王、これ以上強くならないでください……アリアも、《魔王の傘下》全員が」
*****
「強くならないで欲しいって言われてもねぇ、強くなってしまうと言うかどうにも生らないというか……ま、難しい話ね」
「シェリル……あなたまで、強くなり過ぎなのですよ? 九州サーバーは本当に何なのですか……異常そのもので、化け物の巣窟ですよ……」
「それ、マグナが言う? マグナだって充分に強いじゃない」
「シェリルには負けますよ」
「あら、それはどうかしら?」
そう言うわけで、シェリルとマグナは向き合っていた。その距離は30メートル、剣士や近接武器主体のプレイヤーには長く、シェリルたちにとっては無いような距離だ。
「行きますよ、シェリル!」
「行くわよ、マグナ! 《セブンソード・メテオ》!」
「《二重解放》! 《アーク・ルクス・マグナ》!」
そして放たれた七発の弾丸が、七本の剣を撃ち抜く。そしてそのまま、連射される弾丸を眺めて、
「《サウザンドソード・メテオ》!」
「数だけ多くても無駄ですよ!」
「《ファントムソード・レイン》! かーらーのぉ、《ミリオンソード・メテオ》!」
見えない剣と、100万本の剣がマグナに向けて降り注いだ。それを眺め、マグナは困ったように眉を顰めた。そして《アーク・ルクス・マグナ》の柄を両手で握り、
「《変換解放》! 《ダブル・ルクス・マグナ》! 《ミリオンバレット》!」
「っ!? そんなスキル無いでしょ!? まさか、創り上げたの!?」
「それをシェリルが言いますか?」
100万本の剣を魔法で創り出し、放つという大規模殲滅魔法を創り出した少女は確かに、と思いつつ頭を掻いた。だが、マグナのそれとは段違いの難易度なのだ。何故なら、マグナの握る銃には銃口が一つずつしか無い。二丁の銃で100万発の弾丸を放つのならば、1丁に付き、50万発。
いかに一瞬で10発の発射が可能だとしても、1万瞬かかる。それがどれだけの時間かは、シェリルには分からない。10秒ぐらいだ、としか分からない。
「《錆色の雨》!」
金属の装備の耐久を急激に減らす魔法を使い、さらに続けて
「《幻影騎士団》!」
「無駄です、《ミリオンバレット》……うそ」
「嘘じゃないわ。これが現実よ」
「ありえませんよ……何故、何故そんなにアリアが!?」
シェリルの周囲に立ち並ぶ多数のアリアが、降り注ぐ100万発の弾丸を斬り裂き、受け止め、逸らした。さらに、多数のアリア軍団はマグナに向けて駆け出した。
「――《ペインバレット》! 《シャープシュート》!」
「っ、アリアが!?」
「まだまだぁ! 《レヴォリューションバレット》!」
「《レヴォリューションソード・メテオ》!」
触れた物を回転させる弾丸と、触れた物を公転させる剣が激突した。それは、空中で大気に回転運動を強い、まるで竜巻のような現象が起きる。が、それは二人に影響を及ぼさない。何故ならば、
「《メテオレイン》!」
「なんの、《月の光》!」
「それって魔法向きのスキル名じゃないの!?」
「付きは不浄な物を祓う……魔を祓い、全てを無効化します!」
「なんなのそのチート!? いやリアルチートばっかりいるけど!? 魔法無効ってどういうこと!?」
「シェリルにはもう、勝ち目が無いということですよ」
「くっ……まだ、《体術》がある!」
そう言い、シェリルは高速で駆け出したが、なにぶん距離が開いている。それに、マグナの銃の射程は異常なまでに、長い。だからこそ、どうにもならない。
「あぁ、そう言えば言い忘れていました。《月の光》の影響時間って30秒なのであと2秒で魔法が使えますよ」
えぇ、と思いながら弾丸が額を撃ち抜くのを、シェリルは実感した。
*****
「――《イレギュラー》ですか。確かにそれは通常プロセス通りのモンスターですね」
「そうなのか……だが、圏内にいてもダメージを負うのは仕様なのか?」
「不適切な街にいるプレイヤーは、と補足しますが」
「不適切だと?」
魔王はどういう意味だ、と疑問を感じていた。そしてアヤとキャンデラは何故自分たちがここにいるのか、と思いながら魔王に作ってもらった炭酸飲料を飲んでいた。
「例えば魔王、あなたのレベルは9999とカンストしていますね?」
「ああ、そうだな……もっとも、上限はこれ以上増えないと聞いたが」
「ですからこれ以上強くならないで欲しいんですよ……それはともかくとして、街ごとに適切レベルという物があります。これは公表されていませんね」
「……それは、俺に明かしても良い情報なのか?」
「公表されていないだけであって、別段何の問題もありません。それに、魔王ならば口が硬いでしょう?」
さぁな、とでも言いたいように肩を竦ませる魔王。そして魔王は小さく息を吐いて
「それでその適切レベルを大幅に超えたプレイヤーは圏内でもダメージを受けるとでも言いたいのか?」
「よく分かりましたね。さすがは魔王、と言ったところでしょうか」
「何だその魔王に対する全ての偏見は。第一予想しただけだ」
「その予想が答え通りですからね……まぁ、アリアならきっと頓珍漢な答えを返すと考えてみてください」
「……なるほど」
「何に納得したんだよ」
アヤの突っ込みに魔王とオバマは小さく笑った。そしてそんな姉の物怖じしない様子にキャンデラは戦々恐々としていた。
「ところでよ、魔王。あたしら《魔王の傘下》のメンバーじゃねぇんだけどよ、ギルドホームに入って良かったのかよ?」
「ああ、構わないさ。お前も入りたいなら構わないぞ? アリアも喜ぶだろうしな」
「父親みたいなこと言ってんじゃねぇよ……いや、父親でもおかしくねぇのか?」
「――ああ、そうだな」
魔王は内心で汗をかく。何故、知っているんだ、と思った。だが、続く言葉に安堵した。
「魔王って結構歳上っぽいしな。そりゃ子持ちでもおかしくないだろ?」
「……あぁ、そうだな」
一児の父、魔王は少し動揺しながら、頷いた。
*****
「アリア、この世界はもう、終わりに向かっています」
「え? それは一体……どういう意味でかしら?」
「つまりですね、本来のペースを大幅に狂わせるプレイヤー集団がいるんですよ。そして彼らのせいで、世界のペースが加速しています」
迷惑なプレイヤーたちもいるもんだなぁ、とアリアが思っていると
「まぁ、アリアがその3割以上を占めているのですが」
「心の底からごめんなさい土下座」
「可愛いつむじですね」
「あら、嬉しい」
土下座しているアリアを見下ろしていると、マグナは謎の快感を得ていた。そしてそれが何かを理解することは永遠に無かった。
最終回に向けて加速し始めまして候
しかしアレです、いただいた感想で過去のを読み返さないといけないという覚悟を決めました。
ってかリメイクするつもりなのに読み返さないつもりだった自分に驚きです。
おっぱぁぁぁぁぁぁぁうぇいっ! って叫ぶ夢を見ました。何語だよ




