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キスをするのは僕じゃなくて

「――アリア」

「なんだい、シン」

「初めてこの世界で会ったのは、夜だったね」

「……ん、あの時、僕らに喧嘩を売ってきていたよね」

「忘れて欲しいなぁ」


 シンは苦笑し、アリアは微笑んだ。


「それからエミリアに言われて改心……なのかな?」

「改心……じゃないよ。ただ、押し込めただけ」

「そっか」


 アリアは苦笑し、シンは微笑んだ。そして


「行くよ、アリア」

「行くよ、シン」


 同時に地面を蹴り、剣を振るう。それはまるで、抱擁を求めて駆け寄るようにも見えた。だが、そんな生温い展開を二人は望んでいない。


「っ、っ、はっ!」

「やっ!」


 シンの斬撃は鏡面に映したかのような斬撃に受け止められ、アリアの斬撃も鏡面に映したかのような斬撃に受け止められていた。

 その応酬は速度を増しながら、決してお互いの体力に影響を及ぼさなかった。例えばアリアがシンを剣で斬り裂けば、防御の低いシンならば一撃で全損してしまうだろう。例えばシンがアリアを剣で斬り裂けば、減少している体力など軽々と全損してしまうだろう。


 至高にして究極の剣戟が繰り広げられている。それを構成している二人はお互いの目を見つめながら、永劫にこの時間を過ごしているような錯覚すら覚え始めていた。だからこそ、


「終わらせないと」

「そうだね」


 アリアの剣戟に空いている片手が付け加えられた。シンの剣戟に二本目の剣が加えられた。加速する剣戟が火花を散らし、一撃ごとに衝撃波を産む。

 衝撃波はアリアとシンの体力を削る。すでにアリアの残っている体力は4割を切っていた。1秒ごとに衝撃波と《アリア》から発せられるオーラに体力が削られていくのだ。


「愛しているよ、アリア。誰よりも」

「僕も愛しているよ、シン……あっちには、負けるけど」


 同一人物と見ているシンの言葉に、別人と割り切っているアリアが応える。そして


「っらぁっ!」

「んっ!」


 剣と剣が激突し、お互いの体が背後に吹き飛ばされた。地面を削りながら、足が地面を擦る。無理矢理減速して、地面を蹴る。そのまま剣を振るった。だが、


「え!?」

「――」

「っ!」


 アリアは剣を片手で握っていた。そして空いている片手が、二本の剣の先端を掴み取っていた。それは指で器用に剣の腹を押さえ、決してダメージを受けないように調整していた。そしてもう片手に握られていた剣が振り下ろされた。


「ん」

「……っ」


 剣が解放されない。剣が迫っている。防ぐ手立ては――


「え!?」

「真剣白刃取り……思いついた人はおかしいよ」


 普通に掌が斬られた。しかしダメージは大きくない。衝撃をきちんと相殺したからだ。


「二本とも手放すなんて……正気の沙汰じゃないよ」

「そうかな? でも、コレが正解だと思ったんだけどね」


 アリアは驚きながら、やんわりと微笑んだ。その手にはすでに、力が込められていない。だからシンがそっと手を引いただけで、《アリア》はシンの手に渡った。

 コレを振り下ろしたらアリアは消える。このアリアは、天真爛漫で自由気ままなアリアは消える。そう思うと、剣を振り上げていたはずなのに、降ろしてしまった。そしてアリアは自分に向けられた剣に首を傾げた。


「……」

「……斬らないの?」

「……アリア」

「なに?」

「愛しているよ」

「――それは向こうに伝えてあげて欲しいな」


 最後まで同一人物として扱おうとしたシンに、アリアは首を横に振った。そしてそのまま、前に踏み出し、シンを抱きしめた。


「アリア……っ!?」

「ばいばい、シン」


 アリアの心臓を刺し貫いている《アリア》を見下ろし、手が震える。その表情は安堵と安心と、他にも色々と映っていた。そして――


「私を幸せにしてあげないと怒るからね」

「……当然、幸せにするよ」

「そっか……」


 そう呟いて、アリアは全損した……。


*****


「……オバマ」

「迎えに来ましたよ、アリア」


 精神世界とでも言うのだろうか、そんな空間にアリアはいた。ちなみに正確にはオバマとマグナが創り出した仮想空間である。


「迎え、かぁ」

「アリアがこのまま消えるのはいささか忍びないので」

「――ううん、消えるよ。消えたいよ」

「約束を守るのですか? 約束なんて破って良いじゃないですか」

「……オバマも人間らしくなったね。でも、約束は大事だよ?」


 アリアの言葉にマグナは小さく息を吐く。話を逸らそうとしている、そう思ったからだ。だが、アリアはそっと微笑んで


「僕が消えないと、アリアが怒りそうだからね」

「アリア……でも、アリアがいないと私は!」

「――オバマ、僕の妹」

「……なんですか」


 妹、というのを否定せず、オバマはアリアを見据える。その瞳は涙に濡れていた。するとアリアはオバマの頭に手を伸ばして


「僕はそもそもアリアの創り出した最強っていう夢を追いかけているだけの存在。もう最強になったアリアには、必要ないんだよ?」

「だったら私がもらい受けます! 私の姉として私と結婚してください!」


 ……沈黙が流れた。


「え?」

「同性でも結婚できます!」

「え、今のそう言う話だったの!?」

「姉妹だって何とか隠し通せばなんとかなります!」

「ならないよ!? 姉妹シス婚なんて初めて聞いたよ!?」

「前代未聞ならば私たちがその前代になれば良いのです! そうすれば未来にも光が差すでしょう!」


 何だろう、オバマが壊れている。アリアは素直に戦慄していた。そして――


「アリア、私の旦那になってください」

「待って頭痛がしてきた……」

「大丈夫です、子供なら産めます」

「いっ!?」


 もう何が何だか分からない。何なのだこれは!? どうすれば良いのだ!?


「……」

「大丈夫です。アリアなら生やせます」

「何を!?」

「ナニをです!」


 だから


「いつまでもずっと一緒にいてください」

「……無理だってば。オバマだっていつか、私の中から消えるんだから」

「消えますが、その前にマグナのようにアリアのデバイスに引っ越します。すでにマグナに同居の許可はもらいました」


 どういうシステムなんだ、とアリアは苦笑し……


「オバマ」

「はいなんですか?」

「消えるよ、僕は。消えないと、アリアが混乱するからね」

「……アリア」


 オバマは真剣な表情で、アリアを正面から抱きしめた。


「シンにキスしなかった理由を聞いても良いですか?」

「――それは、私の役目だから。僕の役目じゃないから」

「……そう、ですか」

「僕は……終わりだから」


 アリアはそう言い、オバマを抱きしめ返して


「ばいばい、オバマ。楽しかったよ」

「……」


 まだ、足りないのに。オバマはそう呟いて、目の前の少女がログアウトしたようなエフェクトを残し、消えたのを眺めていた。


*****


「そうして最強のプレイヤー、アリアは消えていきました。めでたしめでたし……」


 アリアはそう呟きながら、日記の最後に書いためでたしの字を乱雑に塗り潰す。そのままため息を吐いて


「なにが……めでたしなのよっ!」


 私が望んで消そうとしたはずなんだ。なのに何故、心には空白が生じているのか。何故、ここまで孤独なのか。何故、ここまで……


「涙が……出るのよ……っ!」


 胸を掻き毟るこの焦燥感は何なのだ。心を掻き乱す切なさは何なのだ。


「アリア……っ!」

「…………あら、マグナ。どうしましたの?」

「あなたこそどうしたのですか……いきなり、床に倒れて!」

「……マグナなら分かるでしょう? この、喪失感を」

「……アリア……」

「ふふふ」


 涙混じりの笑いを漏らし、アリアは――


*****


「えっと……つまりアリアさんの二重人格もここに務めるって事で良いんですね?」

「ええ。ですからアリアに給料を払ってもらっても構いませんか?」

「あ、はい。構いませんよ」


 その頃、一人が就職していたことをアリアが知るのはもっと遅くのことだった。


ばいばい、アリア(消えてないけど)


現在四月。一気に時間が飛ぶ予定です


感想ください……

ちなみに悪い点を書いてもらえるとどう変えたら良いか、等が分かりやすく伝わります

良い点を書いてもらえると、作者は一日をにやにやして過ごします


今日の9時から再試。勉強しなきゃ

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