最後の足音が
「前に出るのは下策よ!」
「ううん、違うよ」
アリアは銃弾も、矢も目にしていなかった。目にしているのは三人を斬った後の未来だった。だから
「こんなところじゃ止まらない!」
瞬転、アリアの行動パターンが変化した。マモンはそう思いながら、剣を構えているアリアの額を目掛け、矢を放った。この間にも結界を絶やしてはいない。だが、
「全てを斬り裂く剣だからさ。矛盾なんてしないんだ」
弾丸が、矢が、纏めて切り払われた。さらに続けて、ベルの片腕が宙を舞った。
「っ、まだまだぁ!」
「《オルランドアブソリュートゼロ》!」
「そんなもんじゃ止まらないよ!」
氷が、アリアを包み込んだ。しかし直後、砕け散った。さらに続けて振るわれた剣が、ベルの首を切り飛ばした。
「そんじゃ」
「じゃあね」
短い別れの言葉を交わしながら、銃弾に剣の腹を当てる。そのまま逸らし、流し、払い、矢と打ち合わせる。それを繰り返しながら、前に出続ける。
「マモン、どうするの? 私からでも良いし、マモンからでも良いけど。あんたが好きな方で良いわよ」
「んー、なんて言うか別れの言葉とか滅茶苦茶多いし、先にレヴィが行ってくれると助かるかなぁ。まぁ、少しくらいなら待てるし、さ」
「あっそ、だったら精々最後の時間を楽しみなさい!」
《ディアナポロ》と《ハーディス》を腰のハーネスに吊し、レヴィは一歩下がった。そして、手出しはしないという意思表示で、両手をポケットに突っ込み、佇む。
「ありがとう、レヴィ」
「さっさと終わらせなさいよ……アリアも、マモンも」
「「もちろん」」
*****
「顔面に向けての突き、ねぇ」
危ないなぁ、と思いながら軽々とそれを避ける。そのまま右手で薄い胸に拳を叩き込んだが
「秘剣華の型――露草!」
「秘伝三式――岩砕き!」
コンクリートをリアルでも砕く技、それが正面から剣を受け止め、相殺する。さらに続けて剣を蹴りつけて
「秘伝七式――海割り!」
リアルで海に放ったら、モーゼのような現象が起きてしまった技。それはアリアの手から剣を弾き飛ばした。
さらに続けて、心臓に拳を伸ばす。それを抉り出し、砕くつもりだったのだが
「月天!」
「あら」
バク転のようなモーションからの蹴り上げ、それに手が払われそうになるが
「どーんっ」
「わ!?」
その足を掴み、地面に叩きつけようとした。しかし、カポエラのような回転蹴りが、手を払い、そのままバク転をして距離を置いた。
「《アストライア―》……」
「《アストライア―》!」
マモンの握る双剣が、アリアの翼と激突する。凄まじい威力を孕んだそれは、双剣の妙なる技、妙技に全てが無力化されていた。
しかしマモンも、一方的な展開とは言い辛かった。
「今の一撃で片翼を飛ばして距離を詰めるはずだったのに」
「あっはっは。まだまだ負けないよ!」
「なんてね」
アリアの背後の影から、矢が飛び出す。それは間違いなく、アリアの肩を刺し貫いた、そう錯覚するような――
「掴み取った?」
「掴み取ったよ」
「見えていたの?」
「まぁ、そんなところだよ」
それに気づけたのは本当に偶然だった、とアリアは内心で汗を拭う。そのまま剣を拾って
「マモン、長らくお世話になりました」
「……」
「ありがとね、お姉ちゃん。ばいばい」
「……そう、ね。もう、お別れなのよね」
「うん、そうだよ」
マモンは涙を拭い、双剣を構える。そのまま地面を蹴った。
「秘伝二式――鎌摘!」
双剣がアリアの首を摘み取ろうと、そっと迫った。しかし無限の耐久を持つ星獣装備だろうと、剣と激突すればどちらかが押し負けるのは当然だった。
「っ、秘伝一式――閃連!」
新聞を振っただけで、壁に大きな亀裂が入ったのを思い出しながら、連続斬りを放った。当たれば確殺、なのだが
「七連――ハバネロ!」
「ハバネロ!? え」
マモンが動揺した瞬間、アリアの高速の連続斬りが放たれた。真上からの振り下ろしを双剣を交差させて受け止め、横薙ぎを回転斬りで相殺する。しかし、蹴りは予想外だった。
「げ、こっちに飛んできた」
「ごめーん」
「これって負けて死んだって思っても良いかしら?」
「あー、うん。良いよ」
マモンは少し寂しそうに目を細め、観客席に腰掛けた。
*****
「《ディアナポロ》と《ハーディス》……どうなんだろうねぇ」
「何がよ。って言うか何がどうなのよ」
アリアは自分に向けられている銃を眺め、小さく息を吐いた。そのまま、《アリア》を握りしめた。
「一本の剣じゃ、弾丸を防ぎきれるとは思えないのだけど」
「大丈夫だよ、大丈夫、切れるから」
「あっそ」
「それに消し飛ばせるし」
「あっそ……」
相も変わらず化け物め、とレヴィは思った。そのまま、両手の銃で壁や地面を使い、再び結界を張る。コレでどれだけ頑張っても、少しなら妨害になるだろう。
「《ディアナポロ》は何をモチーフにしたんだっけ……太陽と月、だったかな? 太陽の高熱と、月の冷たさが弾丸になる的な」
「そう。随分と使い勝手が良い銃よ」
「そっか、喜んでもらって助かるよ」
地面を蹴り、距離を詰めてくるアリア。その頭に銃を向けたが
「《アークスラッシュ》!」
「っ、《月の冷遇》! 《解放》!」
氷の弾丸をアリアが斬っている間に、右手に握る銃の《解放》を行う。そのまま深呼吸をして
「《魔王の傘下》が一人、《魔弾》レヴィアタン」
「《魔王の傘下》……ううん、誰でも無い、ただのアリア。行くよ!」
「来なさい!」
迎える立場だったのが、自分から行くと叫び、地面を蹴った。そしてそのまま剣を振るい、弾丸を斬り裂く。さらに続けての連続斬りで、徐々に距離が詰められている。
「オバマもマグナもどうしていなかったのかな!」
「さぁ、分かるはずがないじゃない! きっと複雑な心情なのよ!」
「へぇ、どんな! 国語の問題風に答えて!」
「椎名誠は自分の書いた文が問題に出て、『この時の作者の心情を答えよ』で『俺ってこんなことを考えていたんだ。俺って偉いな』とむはは、と笑ったそうよ」
「知らないよ!?」
※椎名誠面白いよ! 中学生以降にお勧め!
「弾け! 《ハーディス》!」
「無駄だよ! 纏え、《アリア》!」
まるで軟体動物のようにくにゃり、と曲がった《アリア》。それはアリアの右腕をぐるぐる、と囲み――まるで、長いグローブのような形になった。
「体積が全然違うのだけど……」
「気にしないで」
とんとんたたたん、とリズムを奏でるような足音。それと共にアリアの速度が少しずつ、まして言っている。そして
「《炸裂・電磁銃》!」
「ぶっ飛ばせ! 《僕》!」
最後の拳は、弾丸を正面から受け止めた。勢いも威力も、重さも、何もかもが傾いていた。だから
「楽しかったわ」
「ばいばい、レヴィ」
返事は、無かった。
*****
「その余韻をぶち壊す私たち」
「ふふん」
「なんだ、結局マグナもオバマもいたんだね」
「ええ……ですが、戦いに来たわけじゃありません」
マグナはそう言い、そっと目を伏せた。そしてそのまま
「アリア……私たちと同じ存在になりませんか?」
「――それって、どういうこと?」
「オバマはAIから、アリアの人格の一つとなりました。ですからアリアも、AIになりませんか?」
「……AI……じゃないよ。二人は人間だよ」
二人は顔を見合わせ、そっと微笑んだ。そして
「どうせそんなことを言うかと思いました」
「だからアリア、一緒に来てください」
「……考えて、おくよ」
*****
そのプレイヤーは、洋紅色の髪の少女を見つめていた。彼女も、そのプレイヤーを見つめていた。
「終わりにしよう、シン」
「そうだね、アリア」
そうして夫婦は激突した。
次回、最終回の予定
ちなみに四月に入っています
再試の勉強をしないといけないんでちょっと更新できない日が来るかもしれません
いくつ再試があるのかなんて聞かれても答えません
椎名誠は少年少女に一度は読んでもらいたい




