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アリアとシン

 荒野で二人は向き合い、己の武器を手にしていた。アリアが握る武器は――《無銘真打》。エカテリーナ意外には抜かないと誓っていた剣だ。


「その剣を抜いているって事は、僕はエカテリーナと同等だって思われているのかな?」

「うーん、エカテリーナの方が強いと思うよ? でも、シンも強いって」

「そうかな……自覚はあんまり無いんだけどね」

「そうなんだ」

「でも、今はアリアと戦わないといけない気がするんだ。だから、斬らせてもらうよ」


 アリアは小さく息を吐いた。シンが自分に勝てるはずがない、と分かっているからだ。だからこそ、どうしてシンが自分に挑んできたのか分からない。学期末だからなのかな、ってぐらいにしか考えていなかった。


 シンは息を吐く。アリアに勝てない、そんな自分を否定する。必ず勝つ。自分の定めた目標に達することで勝利とする。


「――シン?」

「なんですか、アリアさん」

「ん……? あぁ、なるほどね。《夜色の殺戮者》だね」

「よく分かりましたね、アリアさん。まぁ、僕は本来なら消えるはずだったんですが……最後の仕事のような物でしょうね」


 そう言ったシンの姿が霞んだ。そしてアリアの首に剣が放たれたが


「ん」

「っ!?」

「は」

「っく」

「っと」


 シンの剣が閃く度、アリアの顔が苦悶に歪む。シンの動きが速いからではない。シンの攻撃が重いわけでもない。だが、何故か辛い。


「っ!」

「おや」


 振り下ろした剣が、シンの握る剣に逸らされた。そして残る剣で斬りつけられた。シンは二刀流だった。


(どうして、気づけなかったの……?)


 アリアは疑問を感じながら、一閃させた。受け止めれば剣が切り裂かれる。そんな威力を孕んだ剣は軽々と逸らされて


「遅い」

「っ!?」


 心臓へと剣が伸びてきていた。咄嗟に、それを切り払おうとした剣は逸らされ、体を護るには遠い。

 間に合わない。それはつまり、シンの剣を阻む手立てが無いと言うことだ。そしてあの剣を受ければ、心臓で受ければ、


(死ぬ……!? でも、一度だけなら!)


「霞十字!」

「ぁ」


 首と心臓が同時に斬り裂かれた。死んだ、二回も死んだ。でも、まだ死んでいない。だから


「っぁ!」

「――アリア」

「え」

「残念だよ」


 振るった剣は、シンに当たらない。そのままシンは心の底から悲しそうな顔で、アリアの心臓を刺し貫いた……いや、刺し貫いていない。刺し貫く寸前に割り込んだ、アリアの手が剣先を掴んで止めていた。


「……」

「……」

「……シン」

「……」

「コレが、シンの全力?」

「……」

「だったら、凄いね。隠していたんだね」


 アリアは少し嬉しそうに微笑んで、剣を手放した。鞘に収めず、地面に落下して、それは直立した。


「アリア……」

「シンが強くなっていたなんて、気付かなかったよ」

「……」

「強くなっていて、本当に嬉しいよ」

「……」


 アリアは自分の手に突き刺さっている剣を眺める。そこからは継続してダメージが与えられている。すでに体力は8割ぐらい削られている。5分と持たず、アリアは全損するだろう。


「……回復、しないの?」

「ダメ、かな?」

「回復、してよ」

「ん、分かった」


 小瓶をオブジェクト化し、蓋を外して飲んだ。そして体力が満タンになったのを確認して、シンは剣を引き抜いた。


「……アリア、伝わった?」

「……分からないよ。シンが僕に、何を伝えたいのか」

「……良いよ、まだ分からないで」

「そうなの?」

「うん」


*****


 詰まらない。楽しくない。アリアはそう思いながら、シンの腕の中で目を閉じていた。シンが何を伝えようとしていたのか、さっぱり分からなかった。だからこそ、胸が苦しい。


「……アリア」

「なんだい?」

「楽しいことは、あるかな?」

「……」

「無いなら、一緒に探そうよ。僕も一緒に探すからさ」

「……」

「……嫌、かな?」

「ううん、幸せ」


 アリアは赤くなった顔を隠そうと、シンに強く抱き付いた。そしてそのまま、顔の熱が下がるまで、ずっとコアラのように抱き付いていた。


*****


 全プレイヤーの敵。アビスはそう表現されるようになったアリアに、少し愉快だと思っていた。だが


「気に入らねぇなぁ、気に入らねぇ!」

「だからと言って常連になるの?」

「アリアはどこだ?」

「さぁ? 最近、ログインしていないことの方が長いわよ」

「んだとぉ?」


 レヴィもそれは少し、不思議だった。あのアリアがどうして、ログインしなくなったのか。ほんの少しだけ、心当たりがあるとすれば、彼女が最強だからだ。

 越えるべき者を失い、挑む者も雑魚ばかり。もはや、アリアには最強でいるモチベーションも、何もかもを失いかけているのだろう。


「生憎と、あの子を止められるプレイヤーなんてもう、存在していないのよねぇ」


 アリアが求めているのは自分自身との戦いだろう。だが、それが出来るはずもないのは、アリア自身が理解している。例えオバマやマグナがアリアのデータを使って、アリアとして戦ったとしても、それでは足りないのだ。

 獣のような直感、何もかもを越えようとする狂ったような願い。そんな者を誰も持ち合わせていない。だから、アリアには誰もが勝てないのだ。


「そういう意味だと、アリアに全プレイヤーが挑む状況ってのがベストね。ついでにモンスターが全部アリアとか」

「クソゲーじゃねぇか……だが、言い得て妙だな」

「いつの間に店内にいたのよ」


 アスモは小さく頬を引き攣らせた。そのままゆっくりと額に突きつけられた銃を逸らして


「アリアに挑ませるってのも面白そうだけどさ、多分やる気を失う奴が多いと思うんだよね」

「ふーん。それじゃ、何を考えているの?」

「挑まざるを得ない状況作り、もしくは魔王討伐、みたいな?」

「その魔王は魔王じゃないのよね?」

「うん、その魔王は魔王じゃなくてアリアな魔王」


 聞いているアビスは混乱していた。魔王が魔王で魔王じゃなくて……なんだ?


「ほら、アビスも混ざりなさいよ。外見は良いんだから」

「あ?」

「そうやって輪に入り込めない系男子してんじゃないわよ。顔だけは良いんだから」

「五月蠅ぇ……クソが」

「はっ、さっさと話に加わりなさいよ。何の価値も無いまま立っているには惜しい人材なのよ」

「褒めてんのか貶してんのか言いやがれ……!」

「どっちもよ」


 思わず大槌を抜く。しかし、当たらない。何故なら銃口が突きつけられていたからだ。


「テメェ……」

「手を貸せと言っているのが分からない?」

「ンだと!?」

「アリアを殺すわよ。全プレイヤーを連れてきなさい」

「無理に決まってんだろうが! どれだけプレイヤーがいると思ってんだ!?」

「知らないわよ。知りたくもないわね……でも、一つだけ教えてあげる」

「あ?」

「お前は戦力になり得る人材なのよ。だからさっさと手を貸しなさい」

「……上から目線かよ。ムカつくなぁ!」

「そう? だったら徹底的にぶっ潰すから、屈服しなさい」


 殺してやる、そう思いながら大槌を振るったが


「生憎とここは街中、圏内よ。だからこそ、外に追い出さないと殺せないわけ」

「ンだとぉ!?」

「だけどこういう手はあるのよ、カープ」


 レヴィの指輪が輝き、そこから漆黒の龍が顔を出した。そしてアビスに噛みつき、店の外まで運んでいった。


「レヴィ」

「分かっているわよ。ぶっ殺してくるから――カープ!」

『GRUUUUU?』

「そいつをぶん投げなさい!」

『GAAAA!』


 高く投げ飛ばされたアビスがなんとか体勢を立て直した瞬間、体に衝撃があった。それは、レヴィの蹴りだった。


「オーバーヘッドキック、って言うのかしら?」


 そんな惚けた言葉と共に、アビスは街の外へ、圏外へと投げ出された。


ちなみにすでにソーニョの続編を書き始めています

順番おかしいよね? なんで先に終わった後の話書いているの? 明日からもまだまだテストだよ?

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