キルクエスト
「おはよう御座います……アリアさん、いますか?」
「あれ? どちら様?」
「あ、えっと、一年二組の赤坂真白です。アリアさんはいらっしゃいますか?」
「だってよ、アリア」
「はーい」
そして生徒会室の中から
「あー、入ってきて」
「だってよ、真白ちゃん」
「あ、はい。失礼します」
そして案内されて
「おはよう、真白ちゃん。今日はどうしたの?」
「えっと、生徒会長の見学を」
「あぁ、そう言えばそうだったね。でも、放課後からで良かったんだよ?」
苦笑しているアリアを眺め、きりと朝日は少し真面目に悩む。
((また独断で何かしたのか……))
「それでアリアさんは今、何をしているんですか?」
「うん、聞くより見た方が速いと思うよ」
「えっと……生徒からの意見書ですか?」
「そうそう。きちんと保管しているよ」
生徒たちからの意見書を眺め、アリアは目を細くする。
「単純に自分たちの利益を考える生徒に学校のことを考える生徒、読みたい本を図書室に追加して欲しい生徒に先生の態度を変えて欲しいって生徒。みんな色々なことを考えているんだよね」
「そうなんですか……」
生徒会長って色々と考えているんだなぁ、と真白は思った。
*****
「俺のターン、俺はガストを特殊召喚し、ブラスト、オロチを特殊召喚! そしてスチームを通常召喚してチューニング! レベル3,クラウソラスとレベル7,アーマードウィングをシンクロ召喚し、スチームトークンを特殊召喚! そして死者蘇生でオロチを蘇生してチューニング! レベル2,フォーミュロン! からのクェーサー!」
「ソリティア乙」
「忙しそうだけど仕事しなさいよ」
アリアときりが向かい合い、デュエルをしている。それを眺め、レヴィはため息を吐いた。確かにシンクロ召喚できた、と思いながら皿を食洗機にセッティングする。その瞬間、カーマインブラックスミスの店外から、野卑な声が聞こえた。
「喰らえ、《デモニックドラグーン》!」
「っ!?」
扉が吹き飛び、店内に突っ込んできた。咄嗟に銃を抜いて、連射。扉が穴だらけになりながら減速し、床に倒れた。そして
「んだよ、防ぎやがったかぁ!」
「死ね」
「無駄ァ!」
連射、しかしそれを全てその手に握る大槌で受け止め、弾いて、
「テメェの弾丸は効かねぇぜ!」
「無駄だからって言われても止められないのが人間なのよねぇ」
「無駄に哲学してんじゃねぇよ!」
振り下ろされる大槌を銃で受け止める。だが受け止められる質量ではない。だから自分で後ろに飛んで、
「アリア、久しぶりのゴミもといお客様よ」
「んー、アビス? だったら通して良いよ、僕が呼んだんだし」
「「っ!?」」
「クソみたいな冗談だけどよぉ、マジなんだよなぁ……」
あのアビスですら呆れている。その事実にレヴィとマリアが茫然自失としていると、アリアは立ち上がり、アビスの背後に回り込んだ。そして
「アビス、来てくれたって事は時間に余裕があると思っても良いんだよね?」
「あ? あるに決まってんだろクソガキ」
「それは良かったよ」
*****
「それでどうして俺を呼び出したのか聞いても良いかよ」
「うん、構わないよ。まずアビスを呼び出したのはね、そろそろ決着を付けたいって思っているんだ」
「決着だと? はん、俺をまたぶっ殺そうって言うんだな?」
「それも良いけどね、そろそろ飽きないの?」
「飽きる?」
何にだ、と問いかけるとアリアは微笑んで
「そうやっていつまでも殺し続けて」
「っ!」
振るった大槌がアリアの小さな手に受け止められた。その大槌はどれだけ力を込めても動かない。
「君が僕に勝てる筋合いはないと思うよ」
「五月蠅え……勝てないからって諦めるかよ!」
「カッコいいねぇ」
アリアは微笑んだまま、剣を抜いてアビスの首に突きつけた。その動作は見えていたはずなのに、反応できなかった。そして、そのまま剣の先端を押しつけた。
「圏外なら刺さっているぜ?」
「殺しているんだよ……他のみんなと違って僕には君を殺す理由はない。君が例えキルクエストを出されるほどに憎まれているとしてもね」
キルクエスト、それはプレイヤーたちの間で出される、非公式のクエストだ。アビスのようにプレイヤーをたくさんキルし、恨まれたプレイヤーにはよく出される。
「ほざけ、クソガキが」
「ふーん?」
アリアは剣を投げ、見事に背中の鞘に収める。何のことはないような超絶技巧にアビスが内心、舌を巻いていると、
「終わりにしよう。何もかもを」
「……はっ?」
「何もかもを終わらせようよ」
「……破滅願望?」
「手始めに終わらせるのは君だよ」
アリアってこんな奴だったか、アビスがそう思った瞬間、高速の突きがアビスの目を突いた。それはアビスを店外に吹き飛ばす威力を孕んでいた。
「っ!? 何しやがる!?」
「《七星剣》!」
「あ!?」
七連続の突き、それがアビスの体に北斗七星を描く。そしてアビスは底の無い奈落へと突き落とされた。
「アリア?」
「レヴィ……は、後回しで良いや」
「は?」
「マリアも後で良いとして、っと」
アリアは一人で納得したかのように頷いて、翼を広げた。そして螺旋大陸の中央、空中に留まって――さらに大きく、螺旋大陸の縁まで届くほどに翼を広げて
「さぁ、全プレイヤーたちよ――僕を越えて見せろ! 《ビリリオンソード・メテオ》!」
さぁ、今年度最後の試練だ。
*****
以前あったキルクエストのいくつか。PK、初心者狩り、寄生……そう言った数多の害悪プレイヤーの一掃。
「おそらくアリアがしようとしているのはそれだろう」
「間違っていたら?」
「……俺たちもキルされるだろうな」
《魔王の傘下》ギルドホームではそういった会議のような話し合いが行われていた。だがそこに、アリアの姿は無い。何故なら、いまだに多くのプレイヤーを相手取っているからだ。
「16刀流、煉獄斬」
アリアの片手、その指の隙間に4本。それが両手両足の都合16本。それを同時に使って放つ小範囲殲滅攻撃。すでに数少ないプレイヤーたちがそれらの剣で切られ、全損している。
「ん、できるだけさっさと斬らないと」
この世界における害悪を消し飛ばすために、アリアは剣を振るう。全プレイヤーを巻き込んで、剣を振るう。例えその途中で誰が来ても、だ。
すでにこの時点で圧倒的な実力差に諦め、止めるプレイヤーも少なくない。それは有害だと判断されたプレイヤーだけでは無く、一般的なプレイヤーからもだった。だが、アリアは戦い続けていた。
義務感からでは無い、もっと他の何かを望んでいた。だからこそ、それには歓喜した。
「《セブンソード・アーツ》」
「シェリ姉……」
「さて、アリアちゃん。何か言い訳があるのなら聞くわよ?」
「ううん、何も無いよ!」
「なら遠慮無く」
7本の剣が上下左右前後からアリアに襲いかかった。
「やったか!?」
「馬鹿ね、今のでやれるはずが無いでしょ」
だって、あんなに大きく広げられていた翼がアリアを閉じ込めるように、丸くなっているのだから。
「驚いたよ、シェリ姉。まさか最初に来るのがシェリ姉だなんてね」
「あら、妹の不始末は姉が片付けようと思っただけよ」
「そっか、ありがと」
アリアはそう言いながら翼を広げる。悪魔のそれと見紛わんばかりの禍々しい翼を広げ、満面の笑みを浮かべた。そして
「《ウィングスラッシュ》!」
「翼までもスキルに巻き込んだ!? っ、避けなさい!」
「遅いよ、シェリ姉」
シェリルに続いていたたくさんのプレイヤーが一瞬で引き裂かれた。それはシェリルへとも及んだが
「《セブンソード・シルド》!」
「ふーん、防ぐんだ」
アリアは微笑んで
「それじゃ、全力の姉妹喧嘩だ」
300話で40万pv、そして友人からアリアちゃんの絵を描いてもらったぜ
Twitterの方で孤面の男アカで上げているんで見てください
ちなみに作者は絵に文句を言いません
描いてもらえるという愛をありがたく思い、どのような絵でも嬉しくなる単純な人間です
だから皆さんもどしどし描いてください
300話、結構長く続いていますね
そろそろ最終章に入るつもりなんで、興味のある方は「べ、別にアンタのために読んでいるんじゃないんだからね!」とツンデレ気味に言いつつ、最後までお付き合いください




