次期生徒会長
「真白、どうして学校でエロ本を読むの?」
「そこに山があるからよ」
「……ごめん、よく分からない」
エミが理解を諦め、真白の前で表紙をぼんやりと眺めていると、教室内がざわめいた。それは驚きと、緊張。そして尊敬のようなものを孕んでいた。
「失礼します。真白さんはいらっしゃいますか?」
「真白……? 赤坂真白ですか?」
「はい」
エミは思わず顔を上げた。その声に聞き覚えがあったからだ。そして教室の入り口に顔を向けると
「お姉ちゃん?」
「あら、エミ。ちょっと真白さんに用事があるのだけど、良いかしら?」
「良いけど……真白」
「なに? って、あ、アリアさん。こんにちは」
「こんにちは、真白さん。少しお時間良いかしら?」
「良いですけど、どうしたんですか?」
「大したことじゃないの。そんな気構えなくて大丈夫よ」
「そうなんですか?」
「ええ。次期生徒会長をしてもらおうと思っているの」
…………
「「「「「「「「「ええええええええええええええええええええ!?」」」」」」」」」」
*****
「生徒会室って意外と広いんですね」
「初めて入るの?」
「はい」
「そうなの……ところでどうしてエミがいるの? 呼んだのは真白さんだけだったつもりなのだけど」
「真白が行くなら私も行くの。友だちだからね」
アリアは小さく息を吐いて、目を閉じる。そのまま椅子を手で指し示して
「座って。お茶を淹れるから」
「あ、ありがとうございます」
「ありがと、お姉ちゃん」
アリアは小さく微笑んで
「さてと、少しは考えてくれたかしら」
「……どうして、だけしか考えられませんでした。理由を聞いても良いですか?」
「良いよ。まずその壱、真白ちゃんの性格。その弐、エミとまともに付き合える。その参、帰宅部。その肆、生徒会に関われるだけの成績。これくらいで良い?」
生徒会長としての姉の姿、初めて見る姉の姿にエミが驚いていると、真白は目を閉じて
「帰宅部な以外、どれも当てはまらないと思うんですけど」
「自覚が無くとも外聞の評価はあるの。それで、引き受けてくれるかしら?」
「ちなみに断った場合、どうなるんですか?」
「オルタナティブを探すだけよ。それにコレはお願いと言うよりは質問に近いから」
「強制では無い、と」
「でも正直、押しつける感じになりそうだからきっぱり断ってもらっても構わないわ」
それが生徒会長の言葉か、と思いながら小さく息を吐いて
「とりあえず生徒会入りして仕事を眺めている感じでも良いですか?」
「ええ、構わないわ」
「こっちのおまけ付きで」
「ええ」
「え? おまけ? 誰が?」
「「エミ」」
「ええ!?」
*****
対ギルド戦、そんなイベントがあった。その中でもアリアたち《魔王の傘下》は挑まれ続けていた。
「行くぜ! アリア!」
「五月蠅い」
スカイの顔面にアリアの膝が叩き込まれる。ぶっ飛んでいくスカイを無視し、逆立ちをしながらの回し蹴り。それをガイアは剣で防いで
「相変わらず奇抜な……」
「奇抜が弱いわけじゃ無いし」
「お前がする奇抜は他人にとっての危機だろうよ」
ガイアの剣は護りの剣、攻めきれない。蹴りも、拳も、貫手も全て阻まれている。だからこそ、硬直している。
「意外だな」
「何が?」
「お前が武器を使わないことだ」
「使っているじゃん」
「なるほど、その体こそが最大の武器というわけか……《ダークフレア》!」
「マモン直伝壱の技、《烈華掌》!」
爆発する闇に炎の球、それに向けての高速の打撃。ガイアが目を見開き、驚きを露わにしていると
「爆風が!?」
「爆発を散らす、それがこの技の使い道かな」
リアルで鳩尾に叩き込むと吐くこと間違いなし、と教わった。だからこそ、リアルで使ったのは一度だけだ。
「だが、《ダークインパクト》!」
「弐の技、《逆華掌》!」
振り下ろした剣が、アリアのもう片手の剣と激突する。その衝撃で、アリアに闇属性のダメージが通るが、表情一つ変えずに剣を弾き飛ばした。
「なんだと!?」
「参の技、《円転蹴》!」
「っ!? 《ダークシールド》!」
蹴りが闇の盾と激突した。拮抗したのは一瞬にも満たない。そして、闇の盾が砕け散り、アリアの回し蹴りがガイアの肩を打った。
「……何故だ?」
「ん?」
「何故俺は、全損していない? 手加減したわけじゃ無いだろう?」
「うん」
「ならば……?」
アリアの蹴りがガイアの体力を削りきれなかった理由は単純明快、ステータスが、STRが極端に低いからだ。
「だが、勝ち目が無いわけでもないようだ」
「かもね」
「ふん」
《夜明けへの道》を構え、ガイアは小さく息を吐いた。そして
「《解放》! 《ウェイトゥザドーン》! 《ダークオーラ》!」
「肆の技、《華閃天》!」
アリアの高速の手刀が、闇を纏った突進を正面から受けた。だが、拮抗している。ガイアは動けず、アリアも動けない。ガイアが、そして外野がそう思ったが
「伍の技、《破掌螺旋》! 陸の技、《月天蹴》! 柒の技、《波天桜牙》!」
アリアの高速の連続技にガイアは何も出来ない。高速の捻り込みを加えた突き、からのバク転しながらの蹴り上げ。そして終に薙ぎ払うような蹴り。全てアリアのネーミングセンスが輝いている。
「っ……何故、俺が耐えている!?」
「それはね、僕の装備が原因かな」
「なんだと?」
「《呪印と呪縛のアミュレット》」
「何だそれは……どういうことだ!? ……まさか!? ハンデだとでも言うのか!?」
「《ライトニングボルテックス》……!」
「な!?」
高く掲げられたアリアの手に、落雷が直撃した。それはアリアにダメージを与えず、アリアの身を包み込んだ。そして――
「行くよ、ガイア。新技だ」
「……良いだろう。見せてもらおう!」
「応ともさ!」
腰から引き抜いた刀の峰を背中に当て、アリアは腰を落とす。そして、地面を蹴った。
「響け、《楽園終焉》!」
「何だその名前は!?」
ガイアは、消し飛ばされながら、全身が塵となるのを実感した。
*****
「システムを越えた!?」
「システムが全損を判断するよりも速く、全身を消し飛ばした……? いえ、システム内行動です」
「でも今のは!」
「雷属性魔法でしょ。単純にガイアの体に馬鹿みたいな電圧を掛けてショートさせたんじゃないの?」
シェリルの言葉に二人は確かに、と頷いた。
※注意、この辺りは作者が間違えて理解しているかもしれないため、信じ込まないでください。
「ところでこれって本来攻城戦だったのよね?」
「そう言えばそうでしたね……ですがアリアは何故あそこで剣を構えているのでしょうか」
剣を片手に構え、アリアは低い体勢で地面を蹴った。そのまま一閃した。
「本来なら旗を取れば終わりなのですが……どうして建物をぶった切る必要があるのでしょうか」
「アリアですからね」
「なるほど」
考えることを放棄させる分かりやすい言葉を使い、AI二人は無理矢理納得させた。そしてそのまま、アリアの剣が崩壊させた建物をぼんやりと眺めていた。
*****
「白塩化症候群、かぁ」
「は? 何言ってんのよ」
「何って言われてもさ、実況動画だよ」
「知っているわよ……」
「ぬーさんの動画だよ」
「それは知らないから」
アリアは時計型デバイスから顔を上げ、シェリルの顔をまじまじと見た。
「ところでシェリ姉はどうしたの?」
「ちょっと用事。アリアちゃんはどうして真白ちゃんを生徒会長にしようとしているの?」
「ん、別に変な理由は無いよ。その方が良いかなって思ったの」
「はぁ?」
アリアは説明が終わった、とばかりに実況動画に顔を向けた。
※ぬーさんとは、ニコニコ動画で解説実況をしている方です。作者はかなり嵌まっています。ドラッグオンドラグーンが好きな方は観てみるのも良いかと思います。再生数は低くても丁寧な説明で分かりやすいんですよ。
後書きに書くことかコレ?




