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大罪武装

「生徒会長がいないんでちょっとそれはどうにも出来ないですね-」

「ええ!? 印鑑だけなんでなんとかなるんじゃないんですか?」

「生徒会長印もアリアが持ち帰ってしまったみたいなので」

「……どうにもなりませんかね?」

「アリアが停学にされたので……文句があるのならば教師共に言ってください」


*****


「生徒会の広報紙が回ってきていないんですが」

「生徒会長がいないので何も出来ないんですよ」

「え!? どうして!?」

「アリアがいないと中々仕事が進まないんですよ」


 生徒会のボイコットは生徒に不満を抱かせるところから始まった。そしてそれは淡々と広まっていた。

 たかだか彼氏とセックスしただけで停学にするほどのことなのか、先生たちの判断は間違っているのではないか。次第にそう言った声が広まっていった。そしてそれは次第に教師陣も耳に入ることになり――


「生徒会が生徒に虚偽妄言の類いをばらまいているらしい」


 そんな風な教師会議が行われ、生徒会は解散となるはずだった。なるはずだったのだ。そこに、彼女が現われなければ。


「その停学、認められないわね」


*****


 その女は学校に姿を現すなり、迷わずに学園長室まで案内を受けずに一人で進んでいった。そして躊躇いなくその扉を乱暴に開け放って


「停学、取り消しなさい」

「……いきなり現われて、それかね? もう少し、旧交を深めても良いのでは?」

「あら、私は可愛い妹にそんな処分をするゴミに知り合いはいないのだけど」

「相変わらず過激だ……だが、理由を聞いても同じように言えるのかな?」

「学長先生は知らないかもしれないけど、色々と脅す方法なんてあるのよ?」


 直美の微笑みに学園長はたじろぐ。身に覚えが無いわけでは無いからだ。だが、それをおくびに出さないように努めて


「ほう、例えば?」

「この学校の教師が女子生徒にセクハラをしているところを録画しているデータがあったり」

「っ」

「他にも色々あるのだけど、全て聞きたいのならどうぞご自由に。この学校を潰すぐらいのネタなら上がっているわよ」

「……」


 学園長は舌打ちをしたい気分だった。だが、教育者が舌打ちをする、それだけで批難されるのだ。だから深呼吸をして


「二階堂アリアの停学を解けと?」

「そうよ」

「……脅しには屈せぬ」

「あっそ。だったら後悔しながら終わっていくのを見送りなさい」

「っ」

「生徒全員の未来に学校の不祥事、と言う名の崖を作り、その背を押したと永遠に責め続けられなさい」


 直美の片手ではいつの間にか、録画がされていた。それに学園長は気づき、動こうとしたが


「あぁ、そうだ。停学を取り消さないのなら」


 直美の姿が霞み、直後、学園長の目の前にあった机と、室内のテーブル、2つのソファーが同時に弾け飛んで


「殺すから」

「……そこまでする価値が、二階堂アリアに有ると?」

「愛おしい妹のためなら何だって出来るのが姉よ」


 血が繋がっていない、それを理解していても否定させないほどの圧力が直美にはあった。そして――


*****


「学校を無くそうとしているってどういうことなの!?」

「「「え!?」」」

「学校から電話があってどういうことかって聞いているとどうも学校の存続に関わるような問題だったらしいし電話掛けてきた学長先生は泣いているみたいだったし!」


 それはこっちがどういうことか知りたい。そんな風に三人は思いながら、なんやかんやであっさりと解決したなぁ、と思っていた。そして、授業が始まる前にアリアたちが教室に行くと、何故か英雄扱いされていた。


*****


 アリアの構える剣が鈍く輝く。それに向き合い、エミも扇を構える。いつでも最速の一撃を放てるように、そう思っていたが


「理解していないみたいだね」

「え?」

「僕と相対しているという意味を……エミはまだ、全然分かっていないみたいだよ」

「どういう、意味!?」

「無駄だよ」


 直後、エミの片腕が宙を舞った。アリアの握っている剣は安物その物、暇つぶしに《始まりの街》に行き、適当な加治屋プレイヤーから買った物だった。ちなみにアリアが買ったことで、その加治屋プレイヤーがかなり儲けたのは言うまでもない。


「僕が最強なのは他の誰にも負けないだけじゃない、プレイヤースキルや、もっと多くの色々な物があるから僕は強いんだ」

「……」

「それを越えられるほどの何かがあるの? エミには、僕を越えるだけの何かがあるの?」

「……無いよ」

「だったら僕には勝てない。もう、諦めなよ」

「……やだ! 諦めないから、いつか勝つから!」


 それはいつか見た、過去の自分と重なって見えた。だからアリアは小さく息を吐いて


「――星光剣」

「え」

「見せてよ、エミ。どこまで僕に立ち向かえるのか、見せてよ」


 姉の願うような、懇願するような言葉にエミは戸惑った。だが、姉はかなりの真剣な表情だった。だからエミは小さく息を吐いて


「行くよ、お姉ちゃん」

「お願い、見せて」


 エミは地面を蹴り、両手に握っている扇を振りかぶった。そしてそのまま、自らの回転速度を乗せた舞のような連続攻撃を放ったが、全て安物の剣で防がれている。受け止めてはいない、全てを逸らしている。決してアリアに当たらないように、決して剣の耐久を減らさないように。

 その超絶技巧にエミは内心、舌を巻く。遠い遠いと思っていた姉はまだ、遠い。どこまで強くなれば届くのだろう。そう思っていると


「強くなったね、エミ」

「え?」

「でもまだまだだよ」


 直後、上半身と下半身、そして右半身と左半身が斬り分かれて、全損した。


*****


「こんにちは、アリアさん」

「お、ピュアホワイトじゃん。久しぶり」

「なんかお勧めな装備とかあります?」

「あぁ、あるよあるよ。大罪武装とかどう?」

「大罪武装?」


 ピュアホワイトは鈍器と呼ばれるラノベを思い浮かべていた。とりあえず頭を振って


「どれぐらいの値段なんですか?」

「エミと仲良くしてくれているみたいだし、無料で良いよ」

「え!?」


 元々無料なんだけど、とアリアは内心で呟いた。だが、ピュアホワイトはそれを知らない。だから純粋に喜んで


「ありがとうございます!」

「どうぞどうぞ」

「でもこの、《恐怖の北海道》ってなんですか?」

「北海道ってさ、怖いよね」

「分かります!」


 この場に他のプレイヤーがいたら思わず突っ込むであろう会話、しかし現在店内にいるのはアリアとピュアホワイトだけだったのだ。


「そう言えばアリアさん」

「何かな?」

「停学、一週間も経たずに解けましたけどどうなったんですか? って言うかどうして停学になったんですか?」

「ん、えーっとね、セックスしたから?」

「え、マジですか!? たったそれだけで停学!?」


 やっぱりうちの学校って校則が厳しいのかもしれない。アリアは薄々そう感じていた。ちなみに私立なので仕方が無いとも言える。


「生徒会長が停学だなんて初めて聞きましたよ」

「僕もだよ……でもきっと、何も変わらないし変えられないよ」

「校則って生徒会長でも手を出せないんですか?」

「生徒会長にそんな権限は無いんだよ……それに僕は女子生徒の大半には嫌われているしね」

「そうなんですか?」

「うん。私の旦那様が去年まで在校していたんだけどね、女の子にモテモテだったんだ」

「それは……痴情のもつれ?」

「まぁ、刺されたりしたけどね」


 ピュアホワイトが絶句していると、アリアは微笑んで


「真白ちゃんもエミも可愛いから、そういうことには気をつけてね」

「え、私可愛いですか?」

「うん、可愛いよ」


 椅子に座りながら足をぱたぱたさせているアリアを見て、ピュアホワイトはお前が言うか、と思った。が、口には出さなかった。


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