停学
「あら、アリアじゃない。晩飯食べて行くの?」
「うん」
「そう、良かったわね。そう言えば後でマグナを借りても良いかしら?」
『私は構いませんよ』
アリアが首を傾げていると、時計型デバイスないのマグナが頷いて
『それで亜美、どうしました? 例の件なら、たまたま株価が激落ちして潰れそうになっているはずですが』
「マジグッジョブ。最近優さんが辛そうなのよ」
「優さんが?」
「そ。電話相手がいやな相手らしくて」
『だからと言って会社ごと潰そうとするのは驚きですが』
アリアは自分の知らないところで何が起きているのかを知り、顔を引き攣らせていた。
*****
「AIを奪う、ですか?」
「我が社の未来は明るくない、ならば一気に明るくするために何か燃やさないといけないと思わないかね?」
「はぁ……」
「そう言うわけで原因のAIを奪ってきてもらいたいんだ」
もはや潰れてもおかしくない会社の上の方で、そんな会話があった。
*****
「アリアちゃん、遠慮しないで食べて良いんだよ」
「そうよ。むしろ柘雄が遠慮しなさい」
「お姉ちゃん……」
一家団欒、それにアリアが混じっていることに誰も違和感を覚えない。それは正しい意味でアリアが家族になっている、ということなのだろう。柘雄はそんな風に思いながら目の前の光景を眺めていた。
「アリア」
「ん、なに? どうしたの?」
「楽しいかい?」
「うん、もちろんだよ」
「なら良かった」
アリアは不思議そうに首を傾げながら、お茶を飲み干した。そしてそれと同時に父さんがアリアのコップにお茶を注ぐ。その間、1秒足らず。
「ところでアリアちゃん」
「はい?」
「うちの柘雄が粗相をしてはいないかね?」
「え」
柘雄は思わずため息を吐いてしまった。しかしアリアは微笑んで
「柘雄にはいつも私が迷惑を掛けっぱなしなので……いつも助けてもらっています」
「そうかい……柘雄」
「なに?」
「アリアちゃんに感謝するんだよ」
なんでだよ、と思いながら結構常日頃感謝しているのを思い出した。なんだかんだでお互い、助け合ってばかり。そう思うと
「毎日しているよ」
「ならば良し」
どうして父さんが偉そうなのか、僕は納得できなかった。
*****
「送って行きなさい」
「うん、分かっているよ」
「あら、送っていくの?」
亜美の言葉に柘雄は頷く。実は亜美もアリアを送っていくつもりだったのだが、弟も家族が一緒だといちゃつき辛いだろう、という配慮もあって
「それじゃ、行ってらっしゃい」
「うん、行ってくるよ」
「お邪魔しました」
「「またいらっしゃい」」
「はい」
アリアの笑顔に両親も笑顔になっている、それを眺めて柘雄も自然と笑顔になっていた。亜美は自分の弟が成長する理由となった少女を見ていると、複雑な気持ちだった。
(お姉ちゃんっ子だったのに、随分と変わってしまったのね)
自覚していないが、意外と亜美もブラコンと呼ばれそうな部分があった。
「アリア」
「ん?」
「中三になったら色々と忙しくなると思うよ」
「んー、かもね。でも私、進学しないんだよ?」
「知っているよ。でも、勉強はしないとダメだよ?」
「したくなーい」
「僕もだよ。でも、学生だからしないといけないんだよ」
「にゃー」
「にゃー」
なんとなく猫のような鳴き声を出すと、柘雄が乗ってきた。アリアは少し顔を赤くしながら、今が暗くて助かっていた。するとぽすり、と頭に手が乗せられた。
「……」
「……」
「……どうしたの?」
「何でもないけど、撫でたくなったの」
「そっか。嬉しいよ」
柘雄はそれに微笑みを浮かべ……その表情を硬くした。アリアがそれを訝しみ、その視線の先を見ると
「へ!?」
また、刃物を持った女が立っていた。それはつまり
「もう片方の脇腹も刺される!?」
「なんでそうなるの?」
「え、だってあの時と似たようなシチュエーションだよ?」
「大丈夫だよ、今回は僕が守るから」
「ううん、大丈夫だよ」
「え?」
「僕に任せてよ」
僕、という一人称に柘雄は全てを理解した。だから、頷いて
「怪我しないようにね」
「うーん、確約はしかねるねぇ」
「……」
無言の接近、それにアリアは反応し、腰を落とす。そしてそのまま地面を蹴った。向こうと比べると大して速くないそれは、相手の驚きの表情を眺めながら、蹴りを放てる余裕があった。
「っ!? 死ねェ!」
「やだ!」
振り下ろされるナイフ、それを見切り、アリアは前に出る。予測と違い、少し服が斬られたが肌には達していない。そしてアリアは強く一歩を踏み込んで
「はっ!」
裂帛の気合いと共に、鳩尾に打撃を叩き込んだ。
*****
目の前で吐いている女子を柘雄は冷たい瞳で眺める。別段、女の吐瀉姿に何かを感じることはない。
「……」
背を向け、立ち去ろうとする。すでにアリアは送り届けた。だからこそ、戻ってくる際にわざわざここに来たのだ。
「待って……」
「……」
「二階堂……許せない……っ!」
「君が僕を恨むのなら構わない。でも、アリアを、僕の妻に危害を加えようとするのなら僕は君を嫌い、その邪魔をする」
「なんで……っ!?」
「僕がアリアの旦那で、アリアが僕の妻だからだ」
「……」
そう告げ、柘雄は止めていた足を動かし始めた。そして一人取り残された女生徒は瞳に涙を湛え――嗤った。
そしてその日の晩、学校に一枚の写真がばらまかれた。
*****
「さて、二階堂さん。こちらの写真を見てもらいたいのだが」
「はぁ……分かりました」
「この写真に写っているのはあなたですか?」
「……写っているのは、確かに私です。でも、私じゃありません」
その写真はラブホテルの前で見知らぬ男と一緒にいる私の姿が異常なほどまでに鮮明に写っていた。
「……まぁ、こういった場所は18歳以下は使用できませんからね。それよりも二階堂さん、こちらの男性に見覚えは?」
「清々しいほどにありません」
「そうですか……ちなみにこういった場所を利用した経験は?」
「ありません。全部家です」
「そうで……え?」
「そういうことをするのは全部家です」
アリアが口を滑らせた結果、
「二階堂アリアを四週間の停学に処す」
そんな通達が全校生徒にされた。そしてそれに激高していた生徒たちがいた。
「とりま殴ろう」
「待ちなさいきり。殴ったら手を痛めるわ、バットを使いなさい。どうせ今年も結果を残せなかった野球部のよ」
「その表現はいるのか分からないしそもそもどうして生徒会室にさも当然のように野球部のバットがあるの?」
「「いざというときに振るえるように」」
アリアに負けず劣らず過激な、と才人は思った。が、才人は小さく息を吐いて
「とりあえず先生を殴りに行くのは止めようか。アリアが退学になっちゃうし」
「その時は学園長を人質に?」
「君たちはどこの世界で生きているんだ。それよりもアリアがどうして停学になったのか知らないの?」
「「知らない」」
「……性行為したからだよ。コレは完全にアリアの落ち度、だから君たちが怒るのは筋違いで、学園長を殺すのは間違いだ」
いつ殺すって言ったっけ、と二人は顔を見合わせる。実は才人も怒ってはいた。だが、その正当な理由で納得していた。
「さてと、二人とも」
「なんだい?」
「もしも生徒たちがアリアがいないといけない、って状況を認識したらどうかな?」
「え?」
「は?」
*****
才人が簡単に言ったのは、生徒たちの署名運動だった。だがそれはおそらく、好意的では無い結果に終わるだろう。そこまで才人は言った。だから
「僕たちに出来る、学生に出来る抵抗の一つをしようか」
「それは?」
才人は頷いて
「ボイコットだ」
究極プラネット、グランドクロス!!
300話近いなぁ……ちなみにここから最終話まで加速します
何かしら読みたいシチュエーションなどがあったら感想で言っていただければ書きます
300話記念で絵でも描こうかな、と思ったけど無理だよ、私には




