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滅べよバレンタイン

「それでアスモ、空を飛んで石を捕まえれば良いんだね?」

「ああ、頼むぜ。俺から遠ざかっていくあれ、見えるか?」

「んー、よし。あの金色の石を取れば良いんだね?」


 アスモが頷くのを眺め、アリアは地面を蹴った。しかしその背中に翼はない。螺旋大陸の中央付近に浮かんでいる石目掛けて跳躍したのだった。だが


「え!? 僕は石を持っていないのに!?」

「マジか!? 協力者がいなかったのが仇となったのか……」


 基本アスモが調査するのはこっそりと秘密に、だ。だからこそ一人で調べていた。それが今回、裏目に出た。


「石ごとに微妙な特性があると思ったけど……アリア! 全力で取れ!」

「おーるらいと!」

「欧米か」


 古いなー、と思いながらアリアは背中から漆黒の翼を広げた。光を反射せず、全てを吸収してしまいそうなそれは悪魔の翼と言う他無い。


「んっ」


 地面を蹴る。そのまま翼が大気を叩き、急加速する。反応できるプレイヤーはほとんどいない速度、だが石はそれに反応した。急速接近するアリアの視界から高速で消え去った。


「っ!? 《透き通る翼(クリアウイング)》!」


 自分のAGIに補正がかかるスキルを使い、高速で上昇する。空中に浮かぶ一つだけの石は目立ち、しかし追いつけない。


「速過ぎる……!」


 《透き通る翼》でも追いつけない。それほどまでに圧倒的な速度で引き離されていく。ならば


「《水晶の翼(クリスタルウイング)》!」


 《透き通る翼》からの正式進化、さらに


「《アストライア―》!」


 純白の翼を広げ、単純な大気を叩く力を増やす。その急加速で石を追い抜けた。だが


「っ!? 嘘でしょ!?」


 重力に従い、落下する石。それは当然のはずなのに、どこか異常に思えた。だがアリアは動揺を即座で振り切り、体勢を逆転させ、4種類の翼で、それぞれ4対の翼で大気をぶん殴った。都合32枚の翼が大気を叩けば衝撃波が放たれるが、それがアリアに追いつくことは無い。


「ん」


 空間移動のような高速の移動、それが新たにソニックブームを産み、アスモや、もっと多くのプレイヤーに小さくないダメージを、そして全損を与えている。だが


「追いつけないどころか、加速した!?」


 うへぇ、というのが内心の声だった。だがそれと同時にアリアはニヤリと笑っていた。自分を上回る速度なんて、そうそういないのだから。エカテリーナぐらいだ、と思いながら剣を抜く。


「壊すなよ」

「ちょっとキツいかもしれない」

「マジかー、そいつぁ困るなぁ」

「《糸陣結界》!」


 四方八方上下左右に渡る糸の檻、それで逃げ場を無くそうとするが


「貫通した!?」

「嘘だろおい!?」

「っ、ひよちゃん!」

『ちぃ!』


 アリアの填めている腕輪が燦然と輝き、溶けるようにして消える。そして光は巨大な鳥を形取り


『ちぃぃぃぃ!』


氷獄の不死鳥(ひよちゃん)》はその大きな翼を広げ、羽ばたく。それだけで自らの行動を阻害する邪魔な糸の檻を凍てつかせ、砕いた。きらきら、と舞う氷の結晶、それに紛れる石だが


「見逃さないよ」

『ちぃ(氷獄散雪)!』

「《糸陣結界》《剣閃結界》!」


 糸の檻が、斬撃の檻が石を逃がさないように閉じ込める。結界が正しく結界の効果を発揮している間にアリアは動いた。


「《テン・コマンドメンツ》、《音速の剣》!」


 姿を変える《テン・コマンドメンツ》。それは青系統の色に染まり、アリア自身の動きを加速させる。さらに元々握っていた剣は鞘に収められ、新たな剣が引き抜かれていた。


「《無銘真打》!? あの石にエカテリーナほどの強さを見出したのかよ!?」

「アスモ、悪いけど石がどうなるか分からない」

「本末転倒過ぎるだろそれ!? 何とか無傷で捕まえてくれ!」

「無理を言わないで!」


 アリアの二本の剣が高速で閃いた。それは石を見事に捕らえたかのように見えたが


「っ!? 避けられた!?」

「石にそんなことを考えられるのかよ」

「石に意思があっても良いじゃん」

「ぶふぁっ」


 唐突に噴き出したアスモはどうしたのだろう、そんな風に思いながら高速で斬りつけ続けているが、一撃足りとも当たらない。仕方が無い、


「《セブンソード・アーツ》!」


*****


「ごめん、思いっきり叩き込んだから砕けた」

「いや、良い。こいつ、むしろ砕けた状態が本来の状態らしい。良くやってくれた、って言うべきなのかな?」

「言いたまえよ、アスモ」

「うわ、言いたくねぇ」


 アスモは深くため息を吐いて


「サンキュ、助かった……でも良いのか、これ」

「え?」

「アジアンに上げれば良いんだよな? お前はそれで良いんだな?」

「今のステータスに満足しているし。レベルが下がってもすぐに元通りになるし」


 そりゃ素晴らしいこって、とアスモは嘯きながら10個の石を眺める。それらは糸などで繋がっていないのに、繋がっていた。円環状のそれはアスモの手首の周囲を回転している。


「アリア」

「ん、どうした? また石が出てきた?」

「うんにゃ、ちょっちまずいことになっているかもしれない」

「どんな感じで?」

「さっきのアリアの無茶苦茶な戦闘のせいで色々と影響を及ぼしていたっぽい。なんか色々とクレーム付けられるかもしんないから帰るぜ」

「ん、了解」

「あ、待って!?」


 アスモが伸ばした手を睥睨し、アリアはニヤリと笑って地面を蹴った。そしてその姿は瞬く間にアスモの視界から消えた。

 置いて行かれた、アスモがそう思うのに時間はかからなかった。


*****


 あっという間に一月が過ぎ去り、二月も第二週に入ろうとしていた。


「と、言うわけでチョコレートです」

「あ、ありがとう」


 何とも色気の無いバレンタイン、柘雄は卒業間近の先輩から逃げたのも相まって少し、疲れていた。それを気遣うアリアに感謝しつつ、柘雄は自分のベッドにカバンを放り投げた。


「疲れた」

「お疲れ様、柘雄。やっぱり高校でもモテていたの? モッテモテだったの?」

「僕がモテて嬉しいのはアリアにだけだよ」

「あらまぁ、嬉しいことを言ってくれるねぇ」


 言葉通りで満面の笑み、そしてそのままアリアはくるりと回転して


「アイラビュー」

「me too」

「いぇー」


 はしっと抱き付いてくるアリアの頭を撫で、柘雄は微笑む。もう、あの時のようなことは繰り返さない。ベッドの上に邪魔なカバンを置いたのもその理由の一端だ。


「アリア」

「分かっているよ。結婚するまでは、まだしない」

「誕生日に押し倒してきたのに?」

「アレは……若気の至りだよ」

「今も充分に若いけどね」


 アリアの小柄な体を抱きしめ、柘雄は目を閉じる。そのままアリアの髪の毛に指を通していると


「柘雄―、ただいまー」

「あ」

「お母さん、帰ってきたみたいだね。それじゃ、私はこの辺りで帰るとするよ」

「はい、柘雄。バレンタイあらアリアちゃん、いらっしゃい」

「お邪魔しています、お義母さん」

「泊まっていくの?」


 話が速過ぎる、柘雄が自分の母親に戦慄していると、アリアは落ち着いて


「明日も学校があるので、またの機会に」

「いつでも大歓迎よ。ほんと、柘雄には女の子の友だちがいなくてね……アリアちゃんのおかげで未来があるようで良かったわ」

「未来?」

「亜美は結婚しそうにないし、柘雄は……うん。孫の顔が見られないと思っていたのよ」

「産みますよ」

「ありがとう」


 女の会話について行けない柘雄は、とりあえず天井でも眺めていた。そして――


「今晩、食べて行ったら?」

「え」

「亜美もきっと喜ぶわ」

「アリア、食べて行きなよ」

「柘雄がそう言うならそうします」

「愛されているわねぇ」


 母親の視線はどうしてこう、生暖かいのだろう。


去れよバレンタイン、バニッシュだ


大学のテストが難しいもう嫌



家の近所に海があるんですが花火の音が五月蠅いです

個人でやるのは楽しそうだけどもう少し音量の調節してください(無理)

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