トランプタワー
9大罪装備を創り上げる。アリアの目指す物は不明瞭ながらロマンに溢れていた。だが全て、呪いを反転させた物だった。
「《嫉妬の山口》って何?」
「《ナイフ》だよ」
「《憤怒の岡山》って何?」
「《片手杖》だよ」
「《傲慢の鳥取》って何?」
「《短刀》だよ」
「何なのこのネーミング!?」
思わずきりが絶叫した。そしてそれにアリアは訳が分からない、と言うように首を傾げて
「良いネーミングでしょ?」
「アリアのセンスが分からない!」
さめざめと泣くきりを、アリアはただ眺めるしか出来なかった。
*****
「どうして装備の名前が県名なの?」
「ふっふっふ。知りたい?」
「んにゃ別に」
「聞いてよ!」
アジアンは顔を寄せてくるアリアの額を指で押して
「それじゃどうして装備の名前が県名なの?」
「インビジブル愛媛という物を知っている?」
「……ごめん、意味が分からない」
「そういうことだよ!」
「どういうことだよ」
※作者が見ている某メダロット弐CORE実況の影響を受けているからです。
「それにしても随分と色々創ったんだね」
「9種類創らないといけないからねぇ」
「義務じゃないんでしょ? なんで創ったの?」
「ロマンだから」
「……そっか」
アリアが良いのなら良いかな、とアジアンは思考を放棄した。その結果、
「……これは、何なの?」
「《漆黒に染まりし純白の怠惰な黄金虫》」
「……色はともかくカテゴリーは?」
「外見は本だけど《グローブ》だよ」
「もう何が何だか分からない……」
「まだまだ甘いね。精進したまえ」
「歳下のアリアに言われたくない。って言うか今アリア、何歳よ」
「この前の誕生日で14だぜ!」
「若!?」
アジアン、つまり杏奈の現年齢は17。4月が誕生日なため、一足早く18歳になるのだが……自分が14の頃はどんなのだったか、と思い出していた。
「あの頃が懐かしいなぁ」
「戻りたい?」
「戻ってもこっちはこっちで楽しいし。どっちも楽しかったら良いんだよ」
「なるへそ」
アリアの頭を撫でながら、アジアンは遠くを見るような眼をしていた。その眼はきっと、昔を懐かしんでいる。アリアがそう思いながら9大罪装備を店内に置いて
「よし!」
「ちなみにどうして怠惰だけ県名じゃないの?」
「作者が県民に怒られるかもしれないって思ってびくびくしているの」
「なら書き換えなさいよ」
「しかしそれを敢えて書き換えない系作者」
アリアのどや顔にアジアンは呆れながら9大罪装備を眺める。どれもコレも歪で、狂おしいほどに不気味な装備だ。だが不思議と惹かれる物がある、と思いながら値段を眺めていると
「……アリア、正気なの?」
「ん?」
「値段設定よ……」
本気、ではなく正気、と問いかけた。するとアリアは驚くほどに妖艶な笑顔を浮かべて
「罪は誰もが背負う物、でしょう?」
「値段関係ないやん」
「あら、そうかしら? 罪を抱いているのを自覚しているのなら、容易く手に入れられるのでは?」
「……あぁ、そう。リアルのアリアの方なのね」
「良く分かったわね、アジアン。でも値段設定は私じゃなくて、僕がしたのよ?」
「そうなんだ……」
『欲しけりゃ取ってけ』と書いてある値札を眺め、アリアは嘆息する、自由すぎるアリアにはアリア自身が手を焼いているようだ。
「おっと」
「ただいま、アジアン。どうも色々と情報が錯綜しているみたいだねぇ」
「あら、やっぱりそうだったの? ごめんね、手伝わせて」
「良いよ。アジアンのためだからね」
アジアンが現在探している物の出所、その情報を掴んでいるプレイヤーはほとんど存在していない。だからこそ、二人は必死になって探しているのだった。
「アリアも何か知らない?」
「うーん、知らないなぁ」
幻と呼ばれているアイテム、それがどこで入手できるか。それが現段階でほとんどのプレイヤーの頭を悩ませていた。
「ステータス振り直しのアイテム、ねぇ。画像加工じゃないの?」
「かもしれないけど」
「希望を持つことは重要だよ」
「ま、頑張ってね。僕はここでのんびりしておくから」
「「はーい」」
アリアは逆手に握った包丁で魚を捌く。超高速の斬撃が魚を綺麗に斬り裂いて
「よっと」
「三枚おろし……だと!?」
「何という速度……!?」
「なんでそんなに驚いているのさ?」
アリアは首を傾げながらジャグリングのように投げた野菜を空中で斬り裂く。斬り裂かれた野菜は吸い込まれるようにぐつぐつ、と煮える鍋に飛び込んで火が通される。出汁は鳥の骨、網に入っているそれを引き上げて
「次はどうしようかなーっと」
魚をダイレクトに放り込むアリア。鳥の出汁に魚、と突っ込んではいけない。何故か合ってしまうのだから仕方が無い。そう思いながらマリアは眼を細くして
「唐辛子、入れないの?」
「うん、それは個人でって感じ? それにこれ、辛さメインじゃないし」
「なるほどね。辛さメインだと何になるの?」
「カレーとか担々麺?」
*****
「アスモ、何か分かったか?」
「とりあえず結果から言えば、だ。振り直しアイテムは存在していたよ」
「存在していた……? まさか《悪魔龍皇剣》のようなサーバーに一つのユニークアイテムか?」
「んにゃ。どうも調べていた感じだとよ、情報が錯綜しているって言ったよね?」
魔王が頷くと、アスモは我が意を得たりと言うかのように頷いて
「錯綜させていたのはNPCだった。それも高度な偽装のされたAIが管理している」
「……ほぅ」
「んでもって、だ。とりあえず全部調べてみたんだが全て嘘、って感じだった」
「……終わり、じゃないんだな?」
「ああ。情報はバラバラのダンジョンやエリア、果てには街中だったんだけどさ……共通して石が落ちていたんだよ」
「石……いや、それは普通じゃないのか?」
「その街が《星が見える丘》だとしても?」
あの街、確か《隕石》以外の石が存在しないエリアだった。だがアスモの口ぶりから分かる通り、
「《隕石》以外、か。それで、その石全てを集めてきたのか?」
「いや、1カ所だけまだだ。どうにも難しいんだよな……」
「どう難しいんだ? モンスターか? それとも他の条件か?」
「言うなればアレだ、斥力だ」
「石同士で斥力が発生しているのか? 反発し合うとでも?」
「ああ、その通りだ。しかもアイテム欄にあっても反発し合うからな、俺が持てるのは9個が限界だ」
「10個揃えれば振り直せるわけだ……よな?」
「今のところはそうとしか言えないな」
アスモは頷いて、炭酸飲料を飲む。
「いつ飲んでも美味い物が良い物だ」
「確かにそうだが……それで、どこにあるんだ?」
「最後の石はどうにも俺が9個集めた時点で逃げ回るようになっている。ぶっちゃけ俺の機動力じゃ敵わない」
「なるほどな。アリアならどうだと思う?」
「分からないけど多分いけると思うぜ。現在忙しいらしいから無理だって言われたけど」
その頃のアリアはトランプタワーを作っていた。トランプ2セットを使っての壮大なタワーは、崩れることなくそそり立っていた。
「それでアスモ、アイテムについての情報は何か分かったか?」
「ああ、あちこちのNPCと話してみると『やり直す』ってフレーズが異常なまでに出てくるんだ。他に何をやり直すかって言うと経験値ぐらいだしな」
「なるほどな……アリア以外に機動力が高いのはマモンぐらいか?」
「俺、マモン頼りたくない」
「……そう言えばそうだったな」
マモンを少し怖がっているアスモの言葉に魔王は頷いて
「俺なら出来ると思うか?」
「無理だろ」
この頃、アリアは新たなトランプをとりだして4セット目に入っていた。
作者の家にはポケモンのトランプがあります
なんだか最近書くのが楽しくなくなってきた……
明日テストだからかもしれない




