表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
292/401

旅行

 除夜の鐘が108、鳴る。人間の煩悩の数だけ鳴っているのだ。


「それって四苦八苦のギャグらしいよ」

「え? どういうこと?」

「四苦は4と9,八苦は8と9,それぞれを掛けて足すと36+72で108なのよ」

「え!?」


 アリアは指を折り曲げ、本当だ、と呟いた。


*****


「しっかし寒いねぇ」

「そうだねぇ。温暖化が進んでいるのにね」

「うん」


 ちなみに温度としては9℃、冬にしてはかなり暖かいのだが……それでも、人間にとっては寒いのだ。アリアは小さく身震いをして、柘雄の手を握った。


「ん」

「温けぇ」

「そうかい」


 柘雄はアリアの手を握り返した。それにアリアが温々していると


「ところでアリア」

「なに?」

「何をお祈りするの?」

「えーっと、無病息災?」

「そっか。普通だね」

「うん、私と柘雄の無病息災」

「他は?」

「そこそこの無病息災」


 アリアらしいや、と柘雄は思いながら神社の階段を上る。日本三大愛宕と言われている愛宕神社の階段は、緩やかな傾斜の舗装された山を登った先にある。だから散歩や筋トレなどで走っている人も多いが、元旦の今日は誰もがゆっくりと歩いていた。


「あ、アリアじゃん。お久」

「……誰?」

「ええ!?」


 そんなやり取りが幾度か繰り広げられたり、


「お久しぶりです、江利先輩」

「がるるるる」

「え!?」


 柘雄に声を掛ける女にアリアが威嚇したり、


「あけおめ、アリア」

「あけましておめでとう、きり。挨拶ぐらい略さないでしなさいよ」


 リアル寄りのアリアの言葉にきりが苦笑し、柘雄に頭を下げて去って行った。


 アリアの人格は柘雄といる時だけ、混ざる。甘えたいアリアの、そして大人びたアリアの二つが混ざる。それを理解している者は眺めている者だけだ。


「帰り、どうする? 鳩の餌でもあげる? それともおみくじ引く?」

「んー、いわいもちが食べたい」

「それじゃ、食べて帰ろうか」


 ※いわいもちとは、愛宕神社にある店です。作者が神社に行く際にはほぼ毎回買っていました。本編とは関係ありません。


*****


「一刀両断!」


 アリアの手刀が木の幹を斬り裂いた。そしてずれた断面を蹴り上げて


「《アストライア―》!」


 高速で飛翔し、続けて蹴りつけた。一体全体、どういった原理か分からないが木の皮がすっぽ抜け、幹だけが天高く飛んでいった。さらにアリアは高速で剣を抜き、そのまま斬り続けて


「よっし」

「何それ」

「ふっふっふ」

「聞いて驚け見て笑え!」

「なんでマモンが言うの!?」


 驚愕するアリアを眺め、マモンは笑う。そして


「それじゃ、私はそろそろ落ちるね」

「うん、お疲れ様。また明日ね」

「また明日」


 アリアは切った板を肩に担いで手を振る。そのままマモンがログアウトしていくのを見送って


「さてと」


 アリアがしようとしているのはログハウスを作るということだった。アリアは自分で何が出来るのか、の限界を模索しているのだ。何のためか、自分でもいまいち分かっていないのだが。

 そうしてできあがったログハウスはちぐはぐな物だった。だが、その中で寝転んでみると、意外とテンションが上がった。そして


「ぷぎゃ」


 あっさりと倒壊し、アリアは板に押し潰された。やはり剣を釘代わりに使おうとするのが無謀だったのだ。それを少し、改善すべき点だとアリアは思いながら崩れた天井から覗く星空を眺めた。


「……」


 空はどこまでも広い。きっと、限界など無いんだ。だからこそ、人々は空を求めて飛び立つのだろう。僕もそうだ。空を飛びたかった。


「飛べたら、案外どうって事も無いんだよね」

「そうなんだ」

「うん、そうなの」


 柘雄の手を握りしめながら、アリアは言う。シンの手は温かく、すべすべだ。柘雄の手もそうだ。だから安心しながら握って


「シンはどこかに行きたいって思ったことはある?」

「無いよ。僕は今の生活が続けば良いなって思っているし」

「僕とのいちゃいちゃ新婚生活は?」

「楽しみだよ。でも今は今しか無いから」

「深いねぇ」

「浅いよ」


 アリアとシンは苦笑しながら並んで空を見上げて


「旅行、楽しみだねぇ」

「うん、そうだね」

「驚く顔も楽しみだよ」


 ふはは、と暗い笑みを浮かべる。そして――


「楽しみなことだらけで、幸せだねぇ」

「そうだね」


*****


「それじゃ、行って来まーす!」

「行ってらっしゃい。柘雄くんに迷惑掛けないのよ?」

「分かってるって!」


 分かっていても無自覚で迷惑を掛けるでしょうが、とお母さんは思っていた。だが何も言わず、手を振った。そして


「おはよう、アリア」

「おはよ、柘雄。亜美もおはよう」

「おはよう、アリア。忘れ物は無い?」

「そのつもりだよ」


 そして10分後


「それじゃ、楽しんできなさい」

「うん、ありがとう、お姉ちゃん」

「ありがとう、亜美。お土産買ってくるね」

「気にしないで良いわよ」


 亜美はそう言い、車を発進させた。それを見送り、二人で一緒に地下鉄へ。


「そう言えば予約は取ったの?」

「ううん、取っていないよ。でも調べた感じだと空いているんだって」

「そうなんだ」

「今時は機械化の方が速いからねぇ。それでも、って耐えているんなら凄いと思うけどさ」

「そうだね」


 地下鉄で博多駅へ、そしてそのまま鹿児島本線へ二人は乗り込んだ。


*****


「暇だ」

「暇だねぇ」

「そう思うなら他の仕事を手伝え、馬鹿息子」

「酷い言い草だね」


 真理愛はため息を吐いて杏奈を見つめた。すると杏奈は小首を傾げ、


「どうしたの?」

「ん、何でも無いよ。でもお客さん来ないし、のんびりしていても良いんじゃない?」

「そうだけど、またお父さんに怒られるよ?」


 肩甲骨まで黒髪の長髪を一纏めにし、真理愛はため息を吐いて


「どうせ客なんてそうそう来ないのに……」


 真理愛がそう言った瞬間、入り口の扉が開かれて


「「ようこそおいでくださいました、お客様」」

「……おおう、こいつは吃驚だぜ」

「そうだね」

「「え?」」


 2人が下げていた頭を上げると、そこに立っている二人の男女が笑っていた。そして赤系統の髪をした少女はにへら、と笑って


「初めまして、になるのかな? マリア、アジアン」

「アリア……なのかな?」

「アリアみたいだけど別人かな?」

「本人だよ!?」

「あはは」


 そして、アリアの傍らに立っている男は表情を和らげて


「初めまして、シンだよ」

「思っていた以上にカッコいいねぇ」

「嫉妬しているの?」


 真理愛の言葉に杏奈は少し笑って


「あー、クリスマス会行けば良かったなぁ」

「高校二年だからね、色々と忙しかったから仕方が無いんだよ」

「え?」


 柘雄が少し、驚いたような声を漏らした。それにアリアが首を傾げると


「ひょっとして二人とも、歳上なの?」

「そうだよ。真理愛先輩と呼びたまえ」

「杏奈先輩って呼んで良いよ」


 ノリ良いなこの二人、と柘雄は思ったが自分がカーマインブラックスミスで働くよりも先に、彼らがアリアと付き合えるような人だったのには気付かなかった。そして


「それで今日は宿泊なの? それとも休憩?」

「どうしてラブホテル風の問いかけなのよ……アリア、シン。どうするの?」

「宿泊だよ。しばらく泊まらせてもらっても良いかな」

「良いよ。どうせ客は今、0だし」

「あちゃー」


 アリアは額を手で叩いて


「それじゃ、泊まらないといけないね」

「あ、避妊具いる?」

「「っ!?」」

「……杏奈、さすがにその質問はどうかと思うよ?」

「でも新婚さんでしょ? 新婚旅行じゃないの?」

「あ、そっか。気が利かなかったよ、ごめんね」

「「謝られても困る」」


 アリアと柘雄の揃った返事に真理愛と杏奈は腹を抱えて笑った。


そろそろ300話なんで記念に絵とか描いてくれても構いませんよ?

エロっちぃ絵でも構いませんよ?

薄い本(陵辱系無し)を描いてくれても構いませんよ?


次回、宮崎県での日々

ロシア、観光、うっ、頭が……


四苦八苦のネタは高校時代の友人に教わりました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ