進んでいく日常
「人間なんて常時発情期、ねぇ。兎が可哀想だと思わない?」
「そんな話を聞かされる私たちが可哀想だと思う」
きりの辛らつな言葉に、アリアは息を吐いた。
*****
「それでこのクリスマスツリーをぶった切って」
「はーい」
アリアは腰を落とし、右半身を背後に傾けて息を吸った。そして目を閉じて
「っ!」
高速の掌低が木の幹を打ち、弾き飛ばした。そして断面は綺麗な丸太となっていた。そのままアリアの蹴りや拳が次々と木を倒していく中、それを眺めているアリスは深い息を吐いた。
「どうしました、アリス。アリアが何かご迷惑でも?」
「オバマ、あなたはあんなアリアを見ても何も思いませんか? 旦那がいてそれなのに落ち着きのないアリアを見て」
「そうですね……落ち着いていたり、大人びたアリアを見ると吐き気を催しますね」
「え!? そこまでですか!?」
「まぁ、私は肉体を持たないのでおそらくコレが吐き気だろう、と判断しているだけですが」
オバマの言葉にアリスはそっと微笑んで、オバマの頭を撫でた。そして
「アリス、なんですか?」
「可愛いから撫でたくなったんですよ」
「可愛いですか? そう言われたのは初めてです」
「可愛いですよ。結婚したらオバマのような子が欲しいです」
「それは外見的な理由でですか? 内面的な理由でですか?」
「オバマだからですよ」
望んだ答えが返ってこない。それは初期の頃は腹立たしかったが、いつの間にか慣れていた。そしてアリスの答えはある種の喜びをオバマにもたらした。
「アリス」
「なんでしょう?」
「ナイスマザーしていますね」
「あ、ありがとう?」
独り身だなんて言えない。アリスは内心でほろりと涙をこぼした。そして――アリアの蹴りが最後の木を蹴り倒した。
「押忍!」
「なんだかアリアの口調がおかしいのですが。いえ、いつもおかしいのですがおかしいのベクトルが違うと言いますか」
「オバマ、大丈夫よ。そんなところをひっくるめてアリアはおかしいのですよ」
「なるほど。さすがはアリス、分かりやすく人に教えるのが上手ですね。職業は何を?」
「さて、なんでしょう」
結局、オバマはそれが分からなかった。ちなみにアリスの職業は銀行勤めだが、自営業でパンを売っている。それを明日香がしょっちゅう買いに来ているのだが、お互いが気付いていない。
*****
「瑠璃」
「何よ」
「これから予定ある?」
「ないけど……亜美、仕事は終わったの?」
「クリスマスイブから休みなのよ」
何そのホワイト、と瑠璃が動揺していると、何故だか分からないがさっさと車に乗せられ、車が発進したそして着いたのは
「アリアの家じゃないの……なんで連れて来られたの?」
「ちょっと筆舌に尽くしがたい事態が起きているのよ……」
瑠璃が嘆息すると同時に、庭の方から鋭い風斬り音が聞こえてきた。それは鈍いながらもアリアの剣が放つ音にそっくりだった。
「もしかしてコレって……」
「瑠璃の想像とは違うと思う……見た方が早いよ」
どういうことだろう、と思いながら庭を覗き込むと、アリアが何故かバットで素振りをしていた。しかしその素振りは決して、野球の物では無かった。逆手に握り、そのまま振るい、さらに回転して連続して振るい、
「中々面白い感覚ですね」
「アリア……いえ、オバマ?」
「おや、瑠璃ですか。不法侵入ですよ」
「気にしたら負けよ。それに何故だか分からないのだけど、亜美に連れて来られたのよ」
「亜美が……と、いうことはお母さんを探しているのですね。ですが現在は外出しております、日を改めて、もしくはしばらく待ちますか?」
「待つわ。どうしてオバマが表に出ているのかも気になるし」
「アリアは寝不足なので眠っています。ですが私は肉体の疲れを感じないため、普段出来ないことを色々と楽しんでいるのです」
それ、目覚めても疲れてるやん。思わず瑠璃は内心で突っ込んでしまった。すると亜美は瑠璃の横を素通りし、縁側に腰掛けた。
「相変わらず、大きな家ね」
「アリアのご両親の稼ぎも凄いのですが、ご先祖様がどうも凄かったらしく、このような家を何軒か相続されているそうです」
「そうなの?」
「ええ。ですがアリアたちの親戚は少なく、アリアたち3姉妹に相続してもまだ余っているようです」
「羨ましいわね」
「ですが現在は掃除などもしていないため、使うのに時間がかかりますよ?」
だとしても、だ。そう思っていると
「おっと、車の音が。では私は一眠りするので、瑠璃も一緒に寝ましょう」
「え?」
オバマに手を引かれ、瑠璃はアリアの部屋に連れ込まれた。
*****
「改めまして、こんにちは、亜美さん」
「こんにちは、二階堂さん」
「わざわざ出向いていただいたのにお待たせして申し訳ありません」
亜美は頭を下げられ、少し戸惑いながら目を伏せた。すると
「柘雄くんのことです」
「……何か、しでかしましたか?」
「いえ、どちらかと言えばうちの馬鹿娘が柘雄くんにご迷惑を掛けているのではないのか、と」
「柘雄はへたれなので振り回してくれるような子が良いのです」
「ですが……どうやら、馬鹿娘が押し倒した、と聞いたのですが」
「……」
知っていたとは言え、かなり困った。すると
「柘雄くんに直接聞くのは憚られるので……亜美さんは、何か聞いておりませんか?」
「柘雄はそういうことを言わないので……ですが、柘雄はそういったことには奥手なので、アリアのような積極的な子に救われていると思います」
話のすり替えのような言葉にアリアの母親は目を閉じて
「ならば良いのですが……」
「それと、一つだけよろしいでしょうか?」
「ええ」
「柘雄とアリアは節度を持って接しております。多少スキンシップが多いようにも見えますが、そういった行為はまだ二度だそうです」
「……そんなことを聞いたのですか?」
「アリアに聞きまして」
アリアの母親は深いため息を吐き、微笑んだ。そして
「柘雄くんに何かがあったら教えてください。例え、アリアが襲ってアリアが妊娠したとしても、です」
「……アリアは中学を卒業するまで、避妊をすると柘雄と約束していると聞きました。きっとアリアなら、守ると思います」
「だと良いのだけれど……子育て、きちんと出来るのかしら?」
心配するポイントはそこなのか、そんな風に亜美は少し、戸惑っていた。
*****
「大晦日だねぇ」
「大晦日だからねぇ」
「そうだねぇ」
「何よその老夫婦的やり取り」
亜美はアリアと柘雄のやり取りを眺めながら呆れる。すると、アリアは柘雄の太ももから頭を上げて
「良いじゃない」
「良いけど。若さが消えているわね」
「えへへ」
アリアの言葉に柘雄は微笑み、そっとアリアの髪を撫でた。そこには彼氏彼女の恋人関係では無く、親戚のお兄さんと従姉妹みたいな雰囲気が合った。本当にこの二人、(規制音)したのだろうか。中々そうは思い辛い。でも同人誌にならありそう、と謎の思考にはしっていた。
「ところでアリア」
「なに?」
「子供の名前は考えているの?」
「もちろん、考えているよ。でも教えては上げない」
「そうなの?」
「うん、僕にも教えてくれないんだ」
柘雄の手がアリアの髪を梳く。それを眺めていると、なんとなく、亜美はこの二人なら大丈夫だろう、と確信した。そして、亜美は二人が自分の部署に来るのなら、先輩特権で使いまくってやろう、と心に決めた。
「アリア、柘雄」
「なに?」
「どうしたの?」
「これからもよろしくね」
「「え?」」
二人は顔を見合わせ、笑って
「「こっちこそ」」
7月中にアリアちゃんたちが3年生になる予定
次回、正月のつもり
アリアと柘雄の二人旅の二本立てでお送りします
今日は07/21ですね
0721ですね




