シリーズ
「アリアは三重人格って本当なんですか?」
「あら、知らなかったの?」
さも当然のように言うシェリルに、きりは開いた口が塞がらなかった。
*****
「で、何か飲む? アリアがいないから料理は無理よ」
「マモンさん忙しそうですもんね」
「マモンは忙しくて良いのよ。暇だと何をしでかすのか分からないから」
「世界大会の決勝みたいに?」
「そうよ」
レヴィは指先でくるくる、とピザの生地を伸ばしながらため息を吐いた。レヴィも地味に《料理》スキルは習得しているのだが、いかんせんスキル熟練度が低いため、こうしてスキル熟練度を上げようとしているのだ。まぁ、中々伸びないため作る機会が無く、そして作る機会が無いから伸びないという悪循環を送っている。
「おぉぉぉーい」
「五月蠅い馬鹿」
レヴィの高速の回し蹴りがマモンの側頭部に叩き込まれる、その直前にマモンの手が閃いてレヴィの足首を掴み、そのままレヴィを一本背負いじみたことをし、床に叩きつけた。そしてそのまま関節を極めて
「いきなり危ないなぁ」
「そこまで対処しておいて危ないなんてほざいてんじゃないわよ」
「あっはっは、ほざき結構愉快滅法」
「リズムで適当なことを言ってんじゃないわよ」
違うよー、ラップ調だよー、とマモンは言いながら空いている片手で次々と野菜を細切れにし、それをフライパンで炒める。どうして片手で出来るんだ、と見ている誰もが思ったが誰もがマモンだし、で納得していた。
「サイトとサンセットはどこにいるの?」
「今は上に行って装備を見ているって」
「あー、高さに驚いているかもね。ちょっち行ってくるよ」
「行ってら。アリアが来る前に戻って来なさいよ」
「はーい」
自由奔放なマモンにため息を吐きつつ、レヴィはピザを焼いていた。そしてマモンが上階にある、カーマインブラックスミス武具店に入るとすでにアリアがそこにはいた。
「あら、マモンじゃない。バイトは? サボりなのね」
「ええ!? なんでそんな風に決めつけるの!?」
「今シフト入っているでしょ。あぁ、まぁ、別に良いけど」
*****
「サンセットはどんな装備が良いの?」
「どんな装備が良いって言われても……ちょっと、まだ考え中」
「だったら片手剣と盾にする? それとも二刀流とか?」
「あ、二刀流ってカッコいいね、それが良いな」
アリアはサンセットの言葉に頷いて、剣の名前を考える。サンセットだから……
「黄昏!?」
「え!? 何がいきなりトワイライト?」
「……むむむ、困ったぜぃ」
「何に困っているのかさっぱり分からないけど独り言なら無視して良い?」
サンセットの言葉にもアリアは反応しない。ちなみにサンセットの意味は日の入り、黄昏の時間帯だ、多分。そして――
「よし、《サンセットソード》と《サンライズソード》で良い?」
「何が?」
そういうやり取りを経て、サンセットは一線級の装備を手に入れてしまった。防具は初期装備のままなのだが。
「サイトも装備を整えたし、これからどうするの?」
「どうって言われてもね……まだ、何も考えていないよ」
「そうなんだ……んー、サイトは剣士、きりは魔法剣士、サンセットは二刀流かぁ、随分とバランスの悪いパーティだね」
「あ、私一応パーティって言うかギルドに所属しているんだけど」
「僕もそうだよ」
アリアはサイトがそもそもソーニョをプレイしていたことを知らなかったし、きりがどこのギルドに所属しているのかも知らない。だが、別に知ろうとも思っていなかった。そして
「サンセットも同じギルドに入れてあげられない?」
「んー、うちは所属するのに条件があるから」
「そうなんだ。サイトの方は?」
「多分大丈夫だよ……ちょっと、団長としての権限を越えるかもしれないけどね」
「「「え?」」」
サイトは少し、頬を緩めて言った。それに三人が動揺していると、
「別にアリアたちみたいに少数精鋭でもないし、エレナたちみたいな質量押しでもないよ」
「あら、意外と初心者プレイヤーに門戸を開いているから人数だけだと同数程度でしょう?」
「あ、エレナ。いらっしゃお」
「いらっしゃお? なにそれ、流行っているの?」
「噛んだんだよ」
顔を赤くし、頬を膨らませている小動物のようなアリアを眺め、エレナは少し微笑む。そしてそのまま顔をサイトに向けて
「久しぶりね、サイト。相変わらずメンバー勧誘が盛んね」
「僕たちよりも君たちのギルドは待遇が良いけどね」
「装備を揃えるだけよ。入団条件もあるし」
「ははは。こっちは人数が増えても強いプレイヤーはあんまりいないよ」
何故か親しげに話している二人、それを見て、きりとサンセットは明日弄るネタが出来た、と思っていた。ちなみにアリアはエレナのために、お勧め商品を倉庫から持って来ていた。そして――
「エレナ、コレはいくらで買う?」
「えっと……戦乙女シリーズじゃないのよね? 何?」
「シリーズ名は混沌。その名の通り、光と闇の属性を備えたシリーズさ」
「ふーん……え、コレがお勧めなの?」
「うん。防御力と攻撃力が上がって、付与スキルは《斬ダメージ軽減》《打ダメージ軽減》《射ダメージ軽減》《魔ダメージ軽減》《炎ダメージ軽減》《氷ダメージ軽減》《風ダメージ軽減》《雷ダメージ軽減》《地ダメージ軽減》。それに《光強化》《闇強化》《攻撃力増加大》《防御力増加大》《状態異常無効》。そして――《最後の混沌の一撃》」
「ごめんちょっと待って」
エレナは眉間を揉んで
「装備の性能はともかくとして、付与スキルが多過ぎない?」
「やり過ぎました」
実はアリア自身が装備している星獣装備よりも付与スキルだけで見れば優秀なのだ。性能の方では同じ程度だ。
「それと最後の……」
「《最後の混沌の一撃》?」
「それよ……何よそのネーミング」
「いやー、一撃と裁きで悩んだんだよねー」
「知らないわよ!?」
エレナは小さく嘆息して、しかしやはり目が離せないようだ。それほどまでに凄まじい装備なのだ。だが
(アリアのことだし、またあっさりとコレを越える装備を創り出すに違いない……)
そう考えると買うのを躊躇う。だが、目先の欲に飛びつきたくなるのが人間という物で
「おいくらですか?」
「ふーむ、どれぐらいが良い? エレナさえ良ければタダでも良いんだけどね……」
「何が条件!?」
思わず乗ってしまった。そしてアリアのにやり、と笑っているのを見て
(乗せられた!? あのアリアに!?)
馬鹿だ馬鹿だと思いつつ本当に馬鹿なアリアに乗せられてしまった。それはエレナのメンタルにボディブローを放ったような衝撃だった。
「ん、冗談だよ。タダで良いよ」
「……何を考えているの?」
「さぁ?」
(あ、コレ本当に何も考えていない顔だ)
やり取りを眺めていたきりたち三人は結局向こうでもこっちでもそこは変わらない、と納得していた。そして――
「武器も作ろうかなぁ」
「は?」
「いやさ、混沌シリーズに武器が無いってのは僕もどうかと思うんだよね。全部位を揃えてこそのシリーズだよ」
「一理ある、のかしら?」
「ありありだよ」
そういうアリアの装備は確かにバラバラだ。シリーズではないのだ。
「雷の如き一閃を、光のような速度で、闇のように斬り裂く。そんな包丁を僕は作るよ」
「凄いわね…………包丁?」
「うん、包丁。戦場料理人だよ」
何言ってんだこの阿呆娘、とエレナは手加減成しにアリアの頬を引っ張った。
良いよね、カオスって名前
どの辺りがカオスか分からないけどカオスってさ
ソーサラーとか開闢とか終焉とか良いよね
そろそろ大学のテストが近いのでちょっと投稿ペースが狂うかもしれません
ご了承ください
単位をいくつか捨てる覚悟は出来ていますけどね




