俺の歌を聴け!
「シェリちゃんも柘雄も久しぶり~!」
「あ、はい。久しぶりです」
「も~ぅ、柘雄が硬~い」
直美は笑っていた。すると人混みが綺麗に割れてー―
「お、学長先生だ。お久しぶりでーす」
「お久しぶり、直美さん。相変わらず元気そうで何よりです」
「それだけが取り柄ですから」
「それ以外の取り柄の方が多いでしょう……」
何故だか分からないが直美は学長先生と仲良く話していた。それにシェリルと柘雄が戸惑っていると
「あの問題児生徒会長が随分と外見は大人らしくなりましたね」
「あっはっは、問題なんて起こした記憶が無いんですけど?」
「屋上で昼ご飯を食べられるように、と言う演説をするために生徒全員を体育館に集めて授業をボイコットするように煽動したでしょう?」
「ありましたねー」
「後は夜中に生徒を集めて花火を無断であげたり」
「ありましたねー」
何してんのこいつ、と柘雄は思った。だがシェリルは昔に見た記録にあったので、それをしたのが直美と知って納得していた。そんな阿呆なことは彼女くらいしかしないだろう、と言う確信が持ててしまった。
「それでアリアちゃんは……っと、演奏中かぁ。少し遅れちゃったかな?」
「さぁね。でもアリアちゃんの演奏する曲は3曲らしいから」
「なら良かった」
直美が安堵していると、一団とざわめきが大きくなった。そして――
「ラスト一曲! いっくよー!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」
体育館が揺れた、と錯覚するほどの声に直美たちは段上に顔を向ける。そこに立っているのは3人、一人はドラマーなので座っていた。ちなみに後に聴いたのだが、才人はドラム経験者だったらしい。
「アリアちゃん、楽しそうね」
「そうね。私が生徒会長だった時は、あんな風に出来なかったわ」
「シェリルは良くも悪くも質実剛健だったからね……悪いわけじゃないんだけどさ」
「そうなんだ、シェリちゃんならなんでも出来そうなんだけどね」
二人はお前が言うな、と思った。そして体育館内は、かなりの熱気を放っていた。
*****
「お疲れ様、と本来なら言うべきなのでしょうけどね。楽しめた?」
「うん、楽しかったよ」
「なら良かったわ」
瑠璃は頬を緩めながらアリアときり、朝日と才人を眺める。そして
「4人はこれからどうするの?」
「柘雄を探しに行くよ」
「今は止めなさい。あの馬鹿が今柘雄たちと一緒にいるわ」
うぇー、と顔を顰めるアリア。それにきりは笑って
「それじゃ、僕はここで別れるよ。他の友人たちと回るからね」
そんなこんなで、4人は別れて体育館の中を歩く。人混みの中でもひときわ目立つ、カーマインの髪を目指して歩いていると
「あら、エミ。エミもここの生徒だったのね」
「そうですよー」
「アリアが変なことしていたらきちんと止めてね? 学校内で止められるのはエミぐらいしかいないのだから」
「はい!」
*****
「柘雄、あーん」
「さすがにこんなに注目されていると恥ずかしいんだけど……」
「良いから」
柘雄は少し困りつつ、アリアの差し出しているたこ焼きを口に含む。
「あふい」
「そりゃできたてみたいだからね」
「でもおいひい」
口の中が熱いのか、柘雄は上手く話せていない。そんな柘雄も可愛い、とアリアは思いながら新たに爪楊枝で次のたこ焼きをセッティングした。
「え?」
「スタンバーイ」
「……アリアも食べなよ。美味しいよ?」
「んー、あっつ!?」
口に含んだアリアははふはふ、と必死に呼吸している。そして
「うん、美味しい」
その笑顔を盗撮しようとしている直美に無言の腹パンを放ったが、見事に受け止められた。
「危ないなぁ、瑠璃」
「黙って殴られなさい犯罪者予備軍」
「酷いなぁ」
直美と瑠璃は何故かサインなどをして、ファンの相手をしていた。伝説の生徒会長、松本直美の名前は偉大なのだ。
*****
「リンク、イン」
いまだに慣れない自分を切り替える言葉を口にする。それと同時に意識が自分の部屋から遠離っていき……そして、サンセットとして地面を踏んだ。
「やぁ、サンセット」
「才人……あなた、そんな金髪になりたいの?」
「いいや、別に。でも自分から遠ざけてみても面白いかなって思ったんだ」
言われてみれば私にもその気持ちはある。だが
「それにしても金髪碧眼はないわー」
「そう言うサンセットは黒髪茶目だね……まぁ、持っている物が物騒その物だけどさ」
確かに私が持っているのは危険その物だ。そう思っていると
「あ、いたいた。何話しているの?」
「きりも変わらないね」
「そうだね、変わってないね」
「なんの話!?」
きりが驚き、それに二人が笑っていると――始まりの街に、巨影が落ちた。それは徐々に小さくなり――地表に烈風が吹き荒れた。それにきりたち3人が動揺しつつ、己を護っていると
「っ!?」
「天使!?」
「そんな良いもんじゃないよ、アレ」
きりだけがその存在を正しく理解していた。そして――
「遅かったね、アリア」
「そりゃ僕はここを拠点にしていないからね。きりもそうでしょ?」
「ま、そうだけどさ」
「サイトに関しては一切何も分からないけど」
アリアは翼を広げたまま、地面に降り立った。そしてそのまま背中から生えている純白6対、水晶2対、薄緑2対、都合20本の翼が溶けるように消えて
「とりあえずこの姿で会うのは初めてかな。僕が《世界最強》アリアだよ」
「あ、どうも。きりです」
「サンセットです」
「サイトです」
「他人行儀!?」
愕然としているアリアを見て、結局はアリアと二人は理解した。きりは分かっていたからこそ、何とも思っていなかった。そして――
「それじゃ、行こうか。レベリング」
「ぶっちゃけアリアがレベリングを手伝うのはかなりチート臭いんだけど」
「え? 装備を揃えないだけマシじゃない?」
「これでも?」
サンセットが持っている《危険その物》はアリアが作った棍棒だ。ちなみに棍棒の理由は朝日に、サンセットに似合いそうだからという意味不明な物だった。ちなみに受け取った際に、「私は蛮族か」と呟いた。イナババのような者だ。
「それで、どこでレベリングするの? ドラゴンでも狩りに行く? それとももっと強いの?」
「レベリングだからそこまで強いモンスターに挑む理由がないでしょ」
「えー?」
現在のアリアのレベルは8999,カンストだ。それに対してきりは1892、もう少しで2000だ。そしてサイトが867でサンセットが1だ。
「きりもレベル上げたいんでしょ? だったらもっと強いモンスターと戦った方が良いじゃん」
「ま、そうだけどさ」
「大丈夫だって、僕一人で三人を守り切れるよ」
「……まぁ、アリアがそう言うなら任せるよ。サンセットもサイトもそれで良いよね?」
きりの言葉に二人が頷くのを確認して、アリアは手を高く突き上げた。そして
「おいで、《生態系の頂点に立つ者》!」
『ちぃぃぃぃ!』
太陽の光を遮るほどの巨大な何かが飛んでいた。そしてそれは高速で地表へと向かい――アリアの頭の上に止まった。
「紹介するね、僕のテイムモンスターのひよちゃんだよ」
「何よそのネーミング……」
「サンセット、馬鹿にしちゃダメだ。ひよちゃんは、かなり強いんだよ」
「え? どういうこと?」
「サンセット、ひよちゃんはすんげー強いんだからきちんと敬意を払わないと」
「だからどういうこと?」
サンセットのその疑問は、ひよちゃんの背中に乗って四人が移動している最中にあっさりと氷解した。
「あ、《烈風の鷲》の群れだ」
『ちぃ(《アイステンペスト》)!』
一瞬だった。
にゃ!




