肩車
マグナの指が高速で動く。それにより奏でられる音にアリアが目を閉じて耳を澄ましていると
「アリアも一緒に弾きませんか?」
「ん……そうだね。きりたちに迷惑掛けられないもん」
「すでに充分掛けていると思いますが?」
「え!?」
マグナの辛らつな言葉にアリアは泣きそうになった。しかしアリアはそこでは挫けない。まだ、挫けない。挫けても良い場所はある、そこじゃない場所では弱い自分を曝け出す気にはなれなかった。
「それでアリアたちは何の曲を演奏するのですか?」
「えーっとね」
アリアの口から出た曲名はネット上で、動画投稿サイトなどで有名な曲だったのだが……その作者が直美だと、マグナは理解していたため、固まってしまった。
*****
「詰まんねーことするなぁ」
アリアは自分の机の上に置いてあるプリントを眺め、嘆息した。誰もまだ、学校には登校していない。何故だか分からないがアリアたちの学校の校則には、『生徒会長が生徒で一番速く登校すべし』というのがある。意味が分からない。
「たばこ吸った生徒がいたから退学って……自己責任で良いじゃん。どうして学校が関わろうとするのかねぇ……まったくもって分からないよ。それに私に一々知らされたって名前も顔も分からないのに」
たばこを吸って肺がんになろうと知ったこっちゃない。たばこの匂いが臭いのは排気ガスと変わらない。別段、何とも思わない。
(まぁ、法律的に考えると明らかに生徒の方が悪いのですが)
(法律だろうと何だろうと、その退学になった生徒は自分の意思か、他の何かでそれをしたんだよ)
(例えば?)
(知らない。たばこなんて吸ったことも無いし、吸いたくも無いから)
(それが良いでしょう。自分の寿命が大事ならば、ですが)
(大事だよ。柘雄の子を産むんだからね)
(まぁ、性行もこの学校では退学になりかねないのですが)
(なぬ!?)
マジか、とアリアは愕然とした。だが動揺は即座に消えて
「おはよう、アリア。なんだか変な顔をしているけどどうしたの?」
「……コレ。退学処分だってさ」
「ん……三年がたばこ吸って退学ねぇ。未来を潰すって考えると間抜けだね」
「朝日はそう思うの?」
「まぁね。でも、逃げ道としては良い物だって思えるけどね」
「吸ったことがあるの?」
「まさか」
朝日はそのプリントを冷徹な目で眺め、破こうとした。慌てて止めると
「コレってそんなに重要な書類じゃないでしょ。口頭できりと才人に伝えれば良いんでしょ」
二階堂アリア、油谷朝日、桐ヶ谷雛、玖堂才人という生徒たちからなるのが第46代目生徒会だ。ちなみに直美も瑠璃も、流沙もかつて生徒会に所属していた。
「むしろ形に残さない方が彼のためじゃないの?」
「かもしれないけど……一応、二人に見せてから破こうよ」
「そうね……シュレッダー、どこに置いたかな」
「ええ!?」
朝日は相変わらず過激だ、と思っていると再び扉が開いて
「おっはよー!」
「おはよう、きり。早速だけどコレ見なさい」
「へ?」
「見たわね? じゃ、後は才人だけね」
「……退学、ねぇ。たばこって結局葉っぱでしょ? それだったら葉っぱを色々しているお茶もダメなんじゃないの?」
きりは大きく息を吐いて
「やっぱりこの学校、色々とおかしいよね」
「……一概には頷けないね。アリアはどう思う?」
「べっつに。退学になる生徒が多いのは――うん、前にもあったじゃん」
アリアは自分の横腹の怪我を思い浮かべる。正確にはそれを成した彼女を思い浮かべようとして……その顔を覚えていないのに気付いた。正直、アリアにとってそんなに重要な人物じゃないのだ。ただ、刺された程度じゃ少し強いプレイヤー、と同等の意識だった。
「うわ、空気が重い」
「あ、才人だ。はい、目を通したね」
瞬時にびりびり、という音が聞こえた。そしてそれがぐちゃぐちゃに丸められて
「シュレッダーに入れるから」
才人は事情が分からず、全てが終わるまで呆然としていた。
*****
「で、アリアはどうする気なの?」
「別に何もする気はないんだけど」
「あ、そう。なら良いわ……そろそろ生徒たちが登校してくるけどどうする?」
「練習で良いんじゃない?」
アリアはそう言いながらギターを取り出した。そしてチューニングを済ませて
「今は6時半だから始業まで2時間あるね」
何故か部活動等の早朝練習が盛んなこの学校では、一般生徒は始業の2時間前から登校が許可されている。5階にある生徒会室からも、坂道を登っている生徒の姿が見えている。
「んじゃ、始業30分前まで練習、良いね?」
「「おー!」」
「……おー?」
才人はそのノリに、着いて行けなかった。
*****
「アリア、どう?」
「んー、やっぱりアレだね、中々合わないよね」
「まぁ個人個人ではいけているんだけどね、イケイケなんだけどね」
「「古い」」
きりと朝日の突っ込みにアリアはたはは、と苦笑して
「才人、どう思った?」
「正直何とも思っていないけど」
「あれま」
「でもアリアたちは楽しそうに弾けていたから、良いんじゃないの?」
生徒会の常識人、才人は淡々と事実だけを口にして教室に向かおうとした。しかし
「アリア」
「ん?」
「君はひょっとして……あー、うん、やっぱり何でもないよ」
「気になるから何か言って欲しいんだけどなぁ……まぁ、才人が良いなら良いんだけど」
そして15分後
「アリア、宿題やってきた?」
「ふっふっふ、私を誰だと思っているの?」
「誰なの?」
「酷い!?」
朝日の言葉にアリアが吠える。朝日に吠える。それに朝日ときりが笑っている。そんな様子をサイトはぼんやりと眺めていた。どうしてか分からないけど生徒会に選ばれてしまった、その理由がいまだに分からない。
友人たちを選んだのも分かる、その友人たちが仕事が出来るのも分かる。だからこそ、自分が分からない。
「……っ!?」
「あははは」
背中に何か冷たい物が入ってきた。それに驚いているときりが笑っている。畜生、と思いながらそれをなんとかして取り出す。缶のような感触、それは間違ってはいなかったが
「何これ」
「ドクターペッパー」
「……」
よく分からないきりは選ぶ物もよく分からなかった。才人は嘆息しながらぼんやりとアリアたちを眺めていた。
「才人は好きな子いるの?」
「話題がないからって無理に話そうとしなくても良いんだけど」
「あっはっは。で? いるの? いないの?」
「いるけど」
「ほぅほぅ、誰?」
「君」
「はぁ!?」
面倒な相手をあしらいつつ、才人は机に突っ伏して目を閉じた。
*****
「真白、今日時間ある?」
「あるけどどうしたの?」
「いやエロ本から顔上げてよ」
「嫌だ」
真白はエロ本から目を離さない。それにエミは頬を膨らませつつ、ため息を吐いて
「アヤとアスカに会いに行こうよ」
「はぁ?」
思わずエロ本から顔を上げてしまった。それほどまでにエミの言葉に驚いたからだ。
「どういうこと?」
「アヤとアスカに会うんだよ。シアとアーニャは無理らしいけどさ」
「……なんでこんなにいきなりなのか聞いても良い?」
「最初は真白を呼ぶつもりは無かったからね。でも、暇そうに見えたし」
「……確かに暇ね。で、どこに集合なの?」
少し失礼なことを言われた気がするが、まぁ良い。どうせエミのことだ、悪意なんてないのだろう。
*****
「で、どういう状況なの?」
集合場所と言われた店、唐人町の白織屋。そこの扉を開け、店内に入ると何故かメイド服の少女が女性に肩車されていた。
「お? お客さんみたいだぜ」
「んー、エミの友だちだよ」
アリアさんは肩車されながら、ニヤリと笑っていた。
日常編は次回までの予定
文化祭は書くか分かりません
そして九月と十月は消えたのだ……
7/11は弟の誕生日なんですけど17になるんですよね
それに19歳の私が18禁同人誌を買い、弟にプレゼントするのは法律的なアレではどうなのでしょうか?
その辺り分かる方いらっしゃいますか?




