ジェノサイドギター
アリアの剣がマモンを切り裂いた瞬間、《魔王の傘下》の全員が改めて認識した。
アリアが最強だ、と。だからこそ、倒すべき目標だ、と。
*****
アリアの活躍により、暴走したマモンは止められた。そして針鼠状態なのに全損できなかった二人をマグナが狙撃して全ては解決した――ように見えた。
『そろそろそちらさんの会議は終わりましたかな?』
「あ、その件に関しては担当がいますのでそちらにおかけください」
『……その担当の通話番号は?』
「偶然にも存じ上げません」
白々しい、口にしていて聞いている相手も同じ想いだろうと思った。だが優は必死にその場を乗り切ろうとしていた。アリアを、アリアたちを護ろうという強い意志があった。だからこそ
「現在は会議の準備中のため、しばらく手が離せないのですから余計な時間を取られるのは避けたいのですが」
『そう言って逃げようという魂胆ですか? 無駄ですよ』
「無駄、ですか?」
『そちらがどれほど逃げようとしても、こちらが動かぬ証拠を手にしている限り、会議は必ず行ってもらわないと困ります』
それはその通りだろう。そんな風に優が思いながら自分の腕に巻かれている腕時計を眺める。ちくたく、と時を刻み続けているそれは次の用事を表示してくれている。
「そろそろ会議の時間なので、この辺りで失礼します」
『会議が行われたら連絡くださいよ』
「確約しかねますね。そちらのように通話を掛けてくるような暇な時間が少ないので」
言い切り、通話を切った。最後に少し悪意のある言葉を吐いてしまったのは先方が悪い、と自分に言い聞かせて
「もしもし、マグナですか?」
「ふっふっふ、マグナですよ」
「……どうしました? テンションが高そうですが」
「なんとですね、柘雄が私たちの体を洗ってくれたんですよ」
「……仮にもマグナとオバマは女の子ですよね? 婚約者がいる身で他の女の子二人の体を触るのは……」
優は敢えて悪い言い方をする。それに耳を澄ませていた亜美が反応した。そして
「アリアは細部を洗う、というよりは埃を取り除くのが苦手なようです。ですから柘雄がしてくれました」
「そうですか……それでは本題に入ります」
「はい」
「あの会社のデータを大体狂わせてきてください。オバマにまつわるデータを保存しているようです」
「紙媒体やオフラインに存在していると手出し不可能ですが……やってみましょう」
「お願いします。それとアリアさんに替われますか?」
マグナは即座に通話から消え、途端に生活音が聞こえ始めた。そして
『もしもし、優さん?』
「アリアさんですね? 少しお時間よろしいでしょうか?」
『良いよ。それよりもどうしたの?』
「――どうも、AI関連の問題を突いてくる輩がいます。そこには絶対に近づかず、何もしないでください」
『……ん、了解。でも何が起きているのか、説明してくれる?』
そして2,3分の説明が過ぎて――アリアは
『優さん、何かあったらすぐに教えて欲しいな』
「……ええ、それは構わないです」
『私じゃ何も出来ないけど……それで良いの?』
「良いんですよ。あなたを巻き込んでしまったのが私たちの失態ですから」
『――無茶していたりしないよね?』
「しませんよ。むしろあなた方が原因で無茶しないといけないんですが……」
謝られた。それに聞き耳を立てていた亜美が爆笑し、達也に引きずられていった
*****
「いやー、もうそろそろで夏休み終わっちゃうねぇ」
「うん、そうだね。しばらくは離れ離れだね」
「近所だからまた、すぐに会えるよ」
「そうかなぁ?」
アリアと柘雄は荷物を纏めながらのほほんとしていた。ここで暮らしている内に、増えた物もあるし、減った物もあった。それを少し思い出しながら洗濯物を取り込んでいると
「あ」
「う……」
シーツが、赤い血の跡が付いているシーツがあった。それに柘雄は呻き声を漏らす。自責の念だろうか、とアリアは思いながらそれを畳んで記念品として大事に取っておこうと決意していた。すると
「アリア……ごめんね」
「良いよ。むしろ良かったし」
「え?」
「最初は痛かったけどね」
柘雄は顔を赤くしていた。それを眺め、アリアは少し胸が高鳴っていた。が、
「アリア―、柘雄―、荷物を纏めたらさっさと降りて来なさーい」
「え、あ、はーい」
「……分かっているよ」
義姉の声にアリアはなんとなくタイミングの悪さを感じながら、荷物を纏めるのを再開した。そして纏め終わり、玄関の扉を開ける。
「しばらくはこの家にも来ることは無いんだよね」
「アリアが家出したらここに来るんじゃないの?」
「しばらくはしないよ」
「その言い方だと予定があるみたいなんだけど?」
「柘雄と結婚するのに反対されたら家出するよ」
柘雄の顔が少し赤くなり、それを眺めていた亜美はこれ以上はないってほどに顔をにやけさせていた。そして
「それじゃ、帰りましょうか」
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「夏休み明けちゃった……」
「九月だねぇ」
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「もう涼しくなってきたねぇ」
「十月だねぇ」
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「お月様綺麗だねぇ」
「今日はお月見だからねぇ」
「ちょっと待ちなさい」
シェリルの手がアリアの頭に振り下ろされた。それはアリアの頭頂部に微量の痛みを与えて
「時間がかなり飛んだ気がするんだけど?」
「ダメかな?」
「その間に何があったのか言いなさい」
えー、と不満を口にする妹のこめかみをぐりぐりとして無理矢理口を割らせる。
「十二月の文化祭に向けてバンドを組んでみたりしたよ」
「はぁ」
「朝日もきりもノリノリなんだ」
「へぇ」
「それと名前を忘れた彼もだよ」
「おい」
名前を忘れたのは作者だ。シェリルは嘆息しながらメタい事を思っていた。だがそれを口に出したとしても何にもならないので、何も言わなかった。そして――
「音楽性の違いで解散した?」
「え!? 気が早いよ!?」
「遅いよりは速いほうが良いでしょ?」
「……」
アリアは姉の言葉に深いため息を吐いた。ちなみにアリアが演奏するのはピアノ……ではなく、ギターだ。ピアノは朝日だ。
「で、演奏の練習をしているんだ」
「うん、そうだよ」
「柘雄に五月蠅いって言われなかった?」
「……柘雄の演奏が上手だった」
何やってんだこいつら、とシェリルは思った。だが口には出さなかった。そして何故か妹はギターをいそいそ、と出して
「シェリ姉も一曲どうぞ」
「カラオケみたいな言い方してんじゃないわよ……弾くけど」
触れたことがない、だからこそ興味はあった。だから弾いてみると
「シェリ姉も弾けるんだ……凄い」
「アリアちゃんだってこの程度なら弾けるでしょ?」
妹はもの凄い勢いで首を横に振った。
*****
「そう言うわけで弾き方をそれとなく教えてください」
「構いませんが……こちらで?」
「うん、こっちで。料理も同じようにやったら出来たし」
「はぁ……分かりました。少し待ってください、私も弾いてみます」
アリアの作り上げた武器、《ジェノサイドギター》をギターとして、マグナは構えた。ちなみに武器ジャンルとしては斧だ。意味が分からない。昔のロックの壊す用のギターを思い浮かべてしまう。
「行きますね、アリア」
「うん、どうぞどうぞ」
指が弦を弾く。その初めての感触にマグナは驚きつつ、楽しんでいると
「なんだかマグナの外見が可愛いからなのかさ、似合って見えるよ」
「そうですか? なにぶん、初めての経験なのでなんとも言えないのですが……意外とベンベン鳴らしているのも楽しい物ですね。たくさんの人間が音楽を好きなのもよく分かります」
珍しく饒舌なマグナにアリアは苦笑し、自分もギターを構えた。だがマグナの方が上手だった。
作者、生徒会の一人の名前を忘却したなり
誰か分かる人いますか?
一回しか登場していないから忘れていて当然なんですが
前回の文化祭では参加する側のアリアでしたが、今回は開催する生徒会長という立場です




