ダークリベリオン
「最後に残ってまで、私を倒すつもりなの?」
「うん、そうだよ。シェリ姉を倒したマモンを倒す、仇討ちだよ」
「ほーぅ」
「まぁ、負ける方が悪いのだけれどね」
アリアはそう言いながら双剣を抜いた。マモンの放つ絶え間ない矢は小回りの利かない長剣の類い、ましてや《悪魔龍皇剣》など論外その物だ。
アリアが地面を蹴った、それが理解できたのは地面が弾けたからだ。そして一歩でトップスピードに乗り、首を狙った一閃を放ったが
「それは読んでいたりする」
「っ!?」
いつの間にか放たれていた矢が空から降ってきた。それを迎撃するために腰を捻り、剣を振るおうとしたが
「《パラライズアロー》!」
「……《糸陣盾》」
「わぉ」
マモンは驚いた、とでも言いたそうな言葉を棒読みで言う。そしてそのまま剣を、シェリルを刺し貫いていた剣を拾った。
「穿て、《英霊》!」
「《バニシングスラスト》!」
消滅に全てを委ねた剣、それで高速の矢を避ける。さらに続けて双剣を握って
「いくよ、アリアちゃん!」
「こい!」
アリアの剣が上下左右からマモンに襲いかかる。だがマモンはそれを最適な動きで無力化していき――アリアの髪が散らされた。驚きも疎かに、さらに続けて薙刀を構える。そしてそのままマモンの胸を刺し貫こうとするが
「おっとっと」
「どうして今の攻撃を受け止められるの!? 今のタイミングなら確実に受け止められないはずなのに!」
「アリアちゃんの驚きももっともだけどね、もっと根本的なことを忘れているよ?」
「へ?」
「私が今までにアリアちゃんに対して全力を出したことがないってこと」
それは嘘じゃない。アリアはそれをはっきりと理解しているからこそ、顔を顰めていた。マモンの矢が全方位から迫るのを双剣で切り裂き続けていると
「アリアちゃん、ハンデとして目を閉じてあげる」
「っ、馬鹿にしているの!?」
「だってアリアちゃん、全然強くないし? 最強を名乗るなんて片腹痛しって感じだし? そんなにちっぱいで貧乳な絶壁アリアちゃんが堂々としている姿は呆れ通り越して滑稽だし?」
「よしぶっ潰す」
「無理よ、無理」
マモンの矢が迫っていた。だがアリアの動きに変化はなかった。被弾をするわけじゃない。ただただ前に出るだけで、全ての矢を避けようとしているのだ。だが
「その程度じゃ避けられないよ」
「一体どういう撃ち方をすればこんな風に飛んでくるのさ!?」
「秘密―」
「っ!?」
一本の矢がアリアの背中に突き刺さった。それがアリアの動きを阻害し、さらなる矢を突き立てようと迫るが――
「さっさと避けなさい!」
「あっぽぅ!?」
「あらら、あっち側まで出てきちゃったかぁ」
「ええ、マモン。どうやら今のアリアでは勝てそうにありませんので」
「そう? 今のってのが引っかかるけどそこは流させてもらおうかな」
「ええ、構いませんよ。これからマモンは負けるのですから」
一方、蹴り飛ばされて無理矢理距離を取らされたアリアはマモンと自分自身に近づいていた。こっそり、と。気付かれぬように。そして――
(《糸陣結界》で逃げ場を奪い、新技で斬りますよ)
(うん、そうだね)
一瞬で陣を織る。それにマモンが目を細め、しかしアリアの剣を避けるために目線を外した。そのまま斬り合っていると
「閉じ込めたってわけね……でも、これからどうするの?」
「受けて散ってもらいますよ」
「んー? 大技的な雰囲気?」
「連続技的な雰囲気です」
マモンは少し、眼を細くして――薄らと微笑んだ。そして
「いいよ、おいで。いつでもどうぞ」
「ありがとう、マモン。では――秘剣天の型――十八連」
「秘剣天の型――十八連」
十八と十八合わせて都合三十六連――
「「北斗七星!」」
「名前から予想できないなぁ」
周囲八方、上下左右からの高速の連続斬り、それがマモンを取り囲んだ。だがマモンはその程度で何も出来ずに斬られるだけのプレイヤーでは無かった。
双剣で高速の連続斬りを逸らし続け、さらに続けて反撃も加えていた。アリアとマモンの体力がどんどん削れていく。それを傍観している直美は小さく嘆息した。
(結局アリアちゃんくらいしか強くない)
「もっともっと、もっと楽しませなさい!」
「にゃぁぁぁ!」
「《変身》スキルは一日一回しか使えないから休憩させていただければ楽しませますよ?」
「今よ!」
なんだかカオスな会話になっている、とアリアとアリア、それから直美は思っていた。マモンは馬鹿だ。勉強が出来ても、結局は馬鹿なのだ。頭が良くても要領が悪い、勉強が出来ても人付き合いが出来ない。そんな愚か者が多いこの世の中でも輝く者はいる。それがアリアであり、シェリルでもある。だが
「アリアちゃん、そろそろ36回以上斬っていると思うんだけどなぁ」
「別に何百回だって良いじゃん」
「良くないんだけどねぇ」
回し蹴り、それはアリアの剣で受け止められた。だが斬れていない。刃を立てていたのに斬れていない。アリアがそんな風に驚いているとマモンの動きが加速した。
顔を狙っての貫手、さらに続けての足払い。体勢を崩したところへの蹴り上げ。それは面白いようにアリアへと吸い込まれていき――二人は上空に舞った。そして
「「《アストライア―》!」」
「空中戦するには結界が、というか糸が邪魔だなぁ。斬っちゃっても良い?」
「できるものなら」
「構いませんよ」
マモンは遠慮なく双剣で斬りつけた。だが、斬れなかった。それどころか斬りつけた瞬間、弾かれるような感触があった。それに戸惑いながら連続して斬りつけても何の反応もない、だから
「本体を狙うしかないって事ね」
「よく分かりましたね、マモン」
「マモンは頭が良いなぁ」
「頭が良くても馬鹿ですけどね」
*****
「魔王、狙撃準備できました。狙撃許可をください」
「まだだ。アリアが負け、光となった瞬間を狙え。その瞬間なら少しぐらい油断しているだろう」
「ですがこの銃を使って狙撃なんて不思議な感覚ですね」
マグナの手に握られていた銃の名は《アーク・ルクス・マグナ》、何故かは分からないが狙撃銃の形態も勝手に作られた。もちろんアリアがテンション任せで作り上げたのだ。
「ですが魔王、何故マモンはこのような暴挙に出たのでしょうか?」
「……マモンだからだ」
「なるほど」
そんな納得を元AIにされるほどにはマモンは変人だと周囲から認識されていた。
*****
「《飢えた毒》!」
「っ、危ないなぁ」
「ふふふ、これが解離性同一性障害の有効活用という奴です」
「そんな使い方をするための物じゃないと思うんだけどねぇ」
マモンは攻撃を軽々と避けつつ、自分の体力をそっと確認した。アリアの体力が残り4割なのに対し、自分は3割。近接系プレイヤーとしても軽装のアリアに遠距離系プレイヤーの軽装、その差はほぼない。つまり
(完全な実力差……)
少し笑う。まだまだ、この小娘には敵わない。ずっと強くなったつもりだったが、この小娘には敵わない。だからこそ笑う。
(何がおかしいのやら。まぁ、マモンの頭がおかしいのはいつも通りだけどさ)
(五月蠅いよ、直美。そもそもアリアちゃんは私よりもずっと弱かったのにいつの間にか追い抜かしていたんだよ? 面白いでしょ?)
(ごめんちょっと意味が分からない)
マモンは笑い、目の前まで迫っていた剣を素手で掴んだ。ダメージは小さくない。だが掴み、そのままアリアの額に双剣の片割れを突き立てようとした。しかし――
「《闇の叛逆》!」
返しの一撃が、喉を刺し貫いた。
ダークレクイエムとスターヴヴェノム、RUM、クリストロン、アロマ系は単品買いする予定
しかしマモンは強過ぎる気がしてきた




