姑息な勝ち方
「あのアリアの妹がこの程度なのですか?」
「ベーだ。お姉ちゃんが強いからって私が強いわけじゃないしー」
「それもそうですね」
相手の剣士はそう言いながら眼を細くした。ちなみに名前は忘れた。
「《テンペスト》!」
「《クリムゾンスラッシュ》!」
風属性の一閃を炎属性の一閃で迎え撃つ。正確には属性付与のスキルだから、そのまま斬り合うと
「何故扇と剣を使うのですか?」
「ダメかな?」
「ダメではありませんが……異質ですね」
「酷いなぁ」
エミはそう言いながら地面に落ちていた扇を拾った。そして右手に剣を、左手に扇を構えた。そして
「《王聖剣エクスカリボール》、《解放》!」
「え!? 剣が!?」
「《聖扇エクスカリボール》!」
二本の扇を両手に構え、エミは走った。ちなみに現在は扇の二刀流のようなスキルは存在しない。だからこそ、エミはただただ、舞うような連続攻撃で剣と斬り結んでいた。
「あっ!?」
「もらった!」
しかし片手から扇が飛んだ瞬間、距離を詰められた。剣士はにやり、と笑いながら剣を振りかぶり
「《セブンスター》! え!?」
背中に衝撃があった。それに驚いていると――さっきまで、驚いたような表情をしていたエミが、にんまりと笑っていた。そして
「背中に刺さっている扇とこの扇、どっちが危ないかな?」
「っ、喰らいなさい! 《セブンスター》!」
「お断り、だよ。君の背中に刺さっている扇は《蝕みの毒扇》、今もダメージを与え続けるんだからね。でもまだ、油断はしないよ」
「何を言って「おいで、《ニーズヘッグ》、《ヨルムンガンド》、《八岐大蛇》」
エミは距離を取り、笑った。そして程なくして、相手は全損した。
*****
「大分姑息な勝ち方だったね」
「姑息な手を……」
「なんとでも言え」
「それはどうでも良いから次は誰が行くんだ? 魔王行くか?」
魔王はジャックの言葉に小さく息を吐いて
「良いだろう。それとそろそろ順番を決めておきたいのだが」
「どうして?」
「そうしないと誰が戦ったか分からないからだ」
作者が、と魔王のメタ発言に誰も何も言わなかった。それを確認し、魔王は歩き出した。そして
「《雷鳴鳴り響く天門》が一人、副リーダーを務めております《鮮烈》のイリーナと申します」
「《魔王の傘下》が一人、ギルマスの《魔王》ディアボロスだ」
「副リーダーを務めているからこそ、ギルドマスターの苦労の一端も知れるというもの。それも彼女たちのようなトッププレイヤーを纏め上げている手腕は尊敬に値します」
「……随分な高評価だが俺は大して強くはないぞ」
「ご冗談を」
いや、本気なんだが。そんな風に魔王が思っていると相手は腰から二丁の銃を抜いた。そして銃口を向けて
「いざ尋常に」
「ロシアは時代劇が流行っているのか?」
何故尋常にという単語がこんなにロシア在中のプレイヤーたちの口からぽんぽんと出てくるのだ、と魔王は思いつつナイフを二本抜いて
「いつでも、どこからでもかかってこい」
「参ります!」
地面を蹴り、バックステップ。そのまま両の銃での弾丸を掃射した。少し戸惑いながらも銃弾を避けつつ、不可能そうな銃弾をナイフの腹で逸らし、流していると
「む、感電?」
「属性銃弾の威力はいかがですか? ダメージ敵には大して効いておりませんが」
「いや、驚いた。属性銃弾を使うプレイヤーもいるのだな」
「……それは一体、どのような意味でしょうか?」
「レヴィも、マグナも属性銃弾は使わない」
魔王の手はナイフを振るい続けている。もはや、避けようという気概はない。ただただ、全てを弾くという意思だけがそこにはあった。ゆっくりと、ただ流し、ダメージを受けないだけだった。
「これが魔王……っ!?」
「俺がそう呼ばれる原因はマモンにあるがな」
「マモン……ですか。リーナが言うにもっとも警戒すべき相手、だと」
「ああ、俺もそう思う。あいつがもっとも純粋に恐ろしい」
アリアが自陣で驚きの声を上げている、それを魔王は想像した。ちなみにその通りだった。
「しかし攻めてこないのですね」
「ん? ああ、そうだな」
「それはつまり、私を倒すことは出来ないということですね」
「ふむ……それはいささか早計だな」
「そうでしょうか? ここまで攻めてこないことを鑑みるに、攻め手がないのでしょう?」
魔王は嗤った。そしてその姿が掻き消えた。その姿はイリーナの背後にあった。そして首元にナイフを添えて
「降参していただけると助かる」
「……どのようなトリックを?」
「単純な視野狭窄だろう。俺が動かない、と思い込んでいたからこそ、動いたのに反応が遅れたのだろう」
「なるほど……それが最強ギルド、《魔王の傘下》というわけですね」
「ん?」
「ステータスやスキルに頼らないオルタナティブを持ち合わせている、と」
間違いではないが否定するのもどうかと思ったので何も言わなかった。そしてそのまま、手を上げて
「リザイン」
*****
「紳士だなぁ」
「五月蠅いな」
「んじゃ魔王が行ったんだし傘下古参が行くか? 次は俺が行くけどさ」
「ジャックが?」
「なんだその嫌そうな顔」
ジャックは不満げに口元を歪ませ――少し、口を緩ませた。そして
「ベル、レヴィ、マモン。お前たちは本当に楽しそうだな」
「なんだよ」
「なによ」
「ん~? どういう意味?」
「いや、変わらんな、と思っただけだ」
これから死ぬのか、死亡フラグなのか、とマモンが胸躍らせているとジャックは髑髏の面を下げ、顔を隠した。そしてそのまま歩き出して
「《魔王の傘下》が一人、《死神》ジャック」
「……《雷鳴鳴り響く天門》が一人、アストレイ。もう、結果としての勝ち目はありませんが全力で戦います」
「それも良いだろうな……さて」
ジャックは鎌を構えた。そしてそのまま無造作に鎌を振るった。
「え!?」
「生憎とその鎌は受け止めた方がダメージがでかいぞ」
「っ、ならば!」
「で、そっち側の刃は体で受けた方がダメージはでかいぞ」
二枚刃だからな、どうにもならん。そんな風にジャックが呟きながら淡々、と鎌を振るっていると
「おや」
「《突撃》!」
槍の先端が目の前にあった。そう思った瞬間には当たっていた。ダメージは大してない。だが体勢を崩された。そんな風に冷静に考えていると
「《盾殴り》!」
ここでようやく、重槍兵だと気付いた。まぁ、吹き飛ばされながらなのだが。
「ま、この程度じゃ削り切れはしないけどな」
「分かっていますよ! 《グングニール》!」
「お?」
投げられた槍を鎌先で逸らし、そのまま手首を捻って跳ね上げる。そのまま掴んで投げ返す。しかし重槍兵相手に二枚刃の鎌という出血を目的とし、継続ダメージを狙う相手ならば相性は良かったようだ。
「いやさ、継続ダメージで勝つってお前、恥ずかしくないのかよ」
「なんで攻められるんだよ」
*****
「シエル、セプト、マリア、アジアン、ベル、マモン、レヴィ、マグナ、オバマ、アリス、シン、エミリア。誰が行く?」
「……そろそろ、僕が行こう。妻も、頑張っていたからね」
シンは頭の上に立っているアリアを目線だけで見上げ、口にした。
気付いたら文字数80万を超えていまして驚きまして
次回、まだまだ続く
20人って多い




