姉妹と双子
「《幻影》スキルには単純な命令しか出来ないはず、ならば本体を狙うまでです!」
「ふふふ」
「どっちが本体かな?」
「口調的にどちらも本体のようですね」
エカテリーナは到底理解できないが、剣を構えた。前後にいるアリアを眺め、どちらが本物かを見極めようとしている……が、もはや、答えは出た。
「アリアの精神を分けて……前後に別れたんですね。面白い」
「はっ、不愉快な」
「何が面白いのか、僕には分からないなぁ」
「アリア二人ならば遠慮なく全力を使わせていただけますわね」
「全力、ですか」
「ならばこっちも全力だ!」
僕が突っ込んだ。短気な相方を眺め、私は呟いた。そしてそのまま糸を操る。とりあえずエカテリーナの妨害をする、が、
「見えていますわよ」
「あら吃驚」
「そっちの方が頭の良いアリアですわね」
「よく分かりましたね」
「え!? どういう意味!?」
*****
「では私が前に出ますわね」
「ええ、それが良いでしょう」
「そしてそろそろ決着を付けましょう」
「ええ」
アリアは剣を両手で、上段に構えた。それに対し、エカテリーナもまったく同じ構えを取った。そして振り下ろした。
「はぁっ!」
「せゃぁっ!」
「とりゃっ」
「え!?」
エカテリーナは自分の心臓を刺し貫いているそれを眺め、何も言えなかった。そして――
「まさか、そんな使い方をするなんて」
「混ざったせいで、色々と躊躇いが消えたみたいですよ」
「消えなくて良いものを消してしまいましたか……余計なことを言いましたね」
光となって消えるエカテリーナはそう言い残した。そして
「そろそろ私から剣を抜いても良いのでは?」
「うん、そうだね。ごめんね、突き刺して」
「いえ。私もアリアですから。エカテリーナが二重人格を作っていないのが悪いんですよ」
なんだその暴論、聞いていた誰もがそう思ったがアリアは一人に戻り、そのまま自陣へと戻ってきた。
「三日間続けて戦っていたからねぇ、疲れたよ」
「一日一話更新だから……四じゃない?」
「メタい会話をしてんじゃないわよ……それで? 次はどうするの? 旦那行く?」
「旦那って僕?」
「アリアの旦那がシンじゃないのなら誰って話になるけどね」
「私―!」
「帰れ」
レヴィの拳がマモンに受け止められた。さらに続けての拳をマモンは軽々と避けて
「まだ戦っていないのは魔王、ジャック、私、レヴィ、ベル、セプト、シエル、シェリちゃん、エミちゃん、シン、エミリア。それからマグナとオバマ、マリアとアジアンかな?」
「僕とアスモ、ブブとルシファー、サタンは戦ったから多分そうだね」
「ふーん……なら、私が行こうかしら」
「シェリ姉?」
シェリルはにやり、と笑って
「姉の方が凄いってところ、見せてくるわ」
「Excuse me!」
「え?」
声がした方を全員が向いた。そこにいたのは二人組だった。一対一、と思っていたからこそ戸惑っていると
「次は二対二でお願いしても良いですか?」
「それが通じるなら俺らもそれでやりたかったんだけどよ」
「兄さんの言う通りだね」
「なら私―!」
兄弟の会話をぶった切り、エミが手を高く掲げた。それに周囲は笑った。そして
「ならエミ、片方は任せたわよ」
「シェリ姉こそ、大丈夫なの?」
「例えエカテリーナだろうと、向こう全員だろうと勝てる自信はあるわよ」
「それは無差別爆撃って言うんじゃないかな?」
アリアはシンの腕の中でそう言う。ちなみにシンはアリアを抱きしめているわけではなく、アリアに腕を動かされてその形になったのだ。
あれ以降、柘雄の中から性欲という物は消え去っていた。だからこそ、父親のような気持ちでアリアを膝に乗せ、抱き抱えるような形になっていた。
「アリア」
「ん? どしたの、シェリ姉」
「今度、あなたに挑むから」
「うん、良いよ。改めて、って思って良いかな?」
「ええ、そうよ」
シェリルは錫杖をしゃん、と音を立てて振るった。そしてアリアに背を向け、歩き出した。それを眺め、エミも言わないといけないのかな、と思いながら姉の背を追った。
*****
「エミ、どっちが良い?」
「えーっと……剣を持っている方?」
「そう。なら私はグローブの方にしておこうかな」
「うん、お願い」
「相談は」
「終わりましたか?」
「ええ」
「うん」
相手二人はわざわざ見逃してくれた。それにシェリルは感謝と同時に甘さを感じつつ、錫杖を構える。それは錫杖と呼ぶにはとても短い。爪楊枝ほどの長さで、太さはトイレットペーパーの芯ほどだ。
「《雷鳴鳴り響く天門》が一人、《双子剣》のエイネ」
「《雷鳴鳴り響く天門》が一人、《双子拳》のケイネ」
「《魔王の傘下》が一人、《七剣魔女》シェリル」
「その妹、エミ」
空気読めよ、みたいな目を三人から向けられたがエミは気付かず、剣と扇を構え、エイネに向けた。それに対し、シェリルは両手を組み、ケイネと向き合った。
「エミ」
「なに?」
「良く、見ておきなさい」
「シェリ姉?」
シェリルは妹の言葉に反応せず、その背中に翼を広げた。漆黒の翼を広げ――その姿が掻き消えた。
「っ!?」
「え!?」
「速いなぁ」
目で追えたのは遠くから眺めていたプレイヤーぐらいだった。そして――
「《セブンソード・メテオ》」
「っ!? 上!」
「遅い」
七本の剣が地面に立っている拳士に向かって降る。しかしそれは小刻みなステップで避けられた。
「《ハンドレッドソード・メテオ》」
「この程度で!」
「終わらないわよ。《サウザンドソード・メテオ》」
「っっっ!?」
「《ミリオンソード・メテオ》」
一本一本には微々たるダメージしかない。それはダメージ目的の魔法ではないのだから。一瞬でも動きを阻害できれば、続けて当たり続ける。だからもう、100万本の剣のうち、一本に被弾した時点で終わりなのだ。
「ミリオンは無敵、ミリオンは最強、ねぇ」
懐かしい漫画だ、と思いながら目を閉じて
「《ビリオンソード・アーツ》」
制御不可能なそれを無理矢理制御する。10億本の剣を一本ずつ操るわけじゃない。ただの群体としていくつかを操る。
「って、終わっちゃってるか」
地面が爆発で抉れまくっているのを見て、やり過ぎたかもしれない、とシェリルは思った。
*****
「行くよ!」
「来なさい!」
エミは半身に構え、地面を蹴った。そしてそのまま、扇を投擲した。それは回転しながらエイネに迫ったが
「《アークスラッシュ》! 《ミーティアメテオ》!」
「《藍噛》!」
真下からの、そして真上からの連続斬りが高速の斬撃と噛み合う。攻撃のようなスキルだが、実際はただの防御用スキルだ。だが
「っ!?」
「止められないとでも思っていたの?」
「五月蠅い!」
剣が肩に突き刺さった。しかしエミの動きは止まらない。ダメージを受けながらも、前に出る。剣技では敵わない相手がいる、それをエミは深く理解していた。だからこそ
「戻れ」
「え?」
ブーメランのように戻ってきた扇が背後からエイネに迫った。だが
「甘いです!」
「っ!? 嘘ん!?」
扇が剣で弾かれ、エミは動揺した。
エミは負けていません
次回に続きます
感想ください




