仕切り直し
「アリア!?」
「アリアちゃん!?」
「アリアが!?」
シン、マモン、オバマが声を出して動揺した。他の者も動揺を隠せなかった。だが一人だけ、動揺していなかった。それは――
「アリアなら大丈夫ですよ」
マグナは自信満々に言い切った。
*****
エカテリーナはアリアの首が空を舞うのを眺め、満足げに頷いて――気付いた。
(何故アリアの体が消えない!?)
「どうしてそんなに驚いているのかな?」
「っ、アリア!?」
「エカテリーナと同じだよ。《不死鳥》の力だよ」
「……あぁ、なるほど」
アリアは万全の状態で笑った。それにエカテリーナも笑った。一度死んだことから、斬られた腕も再生している。だからこそ
「もう一度、仕切り直しだよ」
「ええ、そうですわね」
アリアは地面に突き刺さっていた《悪魔龍皇剣》と《無銘真打》の解放形態、《最強》を構えた。すでに《乖離双刃》は鞘に収まっていた。
対するエカテリーナの手には《悪魔龍皇剣》と《春雷真打》の解放形態、《最強》を構えた。そして二人はそのまま、お互いに円を描くように歩き、タイミングを見計らう。だがお互いに、そんなものがないと理解していた。だから同時に動いた。どちらが先でも後でもない、完全に同時だった。
「《逆巻》!」
「《雷皇剣》!」
アリアは二本の剣を逆手に持ち、回転を乗せた連続斬り。それをエカテリーナは愚直なまでの振り下ろしで押さえ込もうとした。しかしアリアは咄嗟に地面に剣を突き刺し、減速。さらにそこからの逆回転をし、斬りかかったがエカテリーナの剣がそれを阻んだ。
「《バニシングスラッシュ》!」
「《喰らい尽くす者》! 満たしなさい、《キャンサー》!」
エカテリーナの拳、アリアはそれを過剰なまでに距離を取り、避けた。しかしそんなアリアの頭上から滝のような水流が放たれた。
「これならば……少しはダメージを与えたでしょうね」
「むがががが!」
「そんなことはなかったようですね」
水流が散らされている。なんとも非常識なその光景にため息を吐きつつ、剣を握りしめる。あの中心にいるのはアリアだからだ。警戒すべき、ライバルだからだ。
「さてと」
ちゃき、と剣が音を鳴らす。それを心地良く思いながら地面を蹴る。いまだに水流は続いているが、それもあと3秒で終わる。ならばこそ、その隙を狙う。
「《明日への雷鳴》! これで!」
「それはどうかな」
「なっ!?」
アリアの姿がなかった。どこに消えた、そんな風にエカテリーナは思いつつ、咄嗟にその場を離れる。何か危険な気がしたからだ。そして――地面が砕かれた。アリアの剣が地面を割っていたからだ。
「今のは……どうやって避けましたの?」
「んー、水を切って切って切りまくっていたら嫌な予感がしたから飛んだんだ」
「相変わらず獣のような直感ですわね」
「獣、かぁ」
アリアは少し笑った。しかし
(今のを防ぎきれるのならば恐らく何とかなるしょうね)
(うーん、結構ギリギリな感じだったんだけどさ)
(ならば私が補助しましょう。しっかりと動きなさい)
(うん!)
アリアは地面を蹴った。直後、その姿が霞んだ。
(見失った!?)
「去れよゴースト、《バニッシュ》だ!」
「っ、《リブラ》!」
「ぼへみあん!?」
アリアの高速の連続斬り、それがエカテリーナの体を斬る度にアリアの体力がエカテリーナと同量減っていく。それはつまり
「星獣としてのリブラと同じ能力なんだ……」
「アストライアーの力を使わなければ、ですが」
「……エカテリーナは僕と似ているけどさ、その過程が全然違うよね」
「ええ、まったくですわね」
肩を竦め、やれやれ、と口に出す。エカテリーナもまったく同じ動作をし、剣を構えた。もう、その手に《悪魔龍皇剣》は握られていない。握られているのは《最強》、ただ一本のみだ。
「そろそろ決着を付けましょうか」
「うん、そうだね」
「《雷鳴鳴り響く天門》ギルドリーダー、エカテリーナ」
「《魔王の傘下》メンバー、アリア」
同時に前に出た。アリアの握る《最強》がエカテリーナの握る《最強》と甲高い音を立てて激突をした。さらに続けて連続で斬り結んでいると
「楽しいですわね」
「うん! でも長くは続かないね!」
「まったくですわね!」
アリアの剣が私の肩を掠めた。それに動揺した瞬間、アリアの目が光ったように見えた。そして――
「光あれ、《オルタナティブの残光》!」
「なんで一々中二臭いんですの!? 《雷光》!」
アリアの突きが私の突きと正面から激突し、奇跡的なまでにその状態で硬直した。剣先と剣先が激突したまま、ぴくりとも動かない。どちらもが力を込めているから釣り合っている、それを同時に理解して剣を引いた。さらに回転して剣を振るったが
「っ!」
「にゃぁっ!」
同時の剣だった。
*****
アリアは理解していた。今の自分じゃエカテリーナに叶わない、と。《変身》スキルの獣人形態、《兎》でも速度で差が付かない。だからこそ、勝てない、と思っていた。
「だから追いつく!」
「っ!?」
エカテリーナは戸惑った。アリアが剣を鞘に収め、蹴りを放ってきたからだ。咄嗟に剣を振るい、脚を切り落とそうとしたが分厚いかもしれない靴底に止められた。そして蹴られた。
「いきなり、なにを!?」
「さて、なんででしょう」
「っ、アリア!?」
「ええ、アリアですよ!」
剣を振れないほどの至近距離からの拳、それをなんとか受け止めようとしたが
「え!?」
「生憎と、縛らせてもらいました」
「っ、《七星天靴》! 《二重解放》!」
「うぇ!?」
飛んでいる。それを眺めつつ、アリアは糸を構える。しかし糸は妨害と防御くらいにしか使えない。それは僕には使い熟せない。だから私が代理で演算をしている。
(右斜め上からの斬撃、体の動きから察するに連撃かと)
(ん、分かった!)
(それから背後に森が近づいてきています。足場が悪くなっていることに気付きなさい)
(マジ!?)
アリアは振り返りたくなった。だが自分を信じて振り返らない。そして地面を蹴った。
「え!?」
「さぁ、追いかけておいでよ」
「っ、無論!」
戦場が森の中に遷移した。
*****
「《糸陣結界》」
「……なるほど、森から出さないという意思表示ですね」
「うん」
半ドーム状のそれを眺め、エカテリーナは小さく息を吐いた。逃げ場はどこにもない、つまり
「ジャパニーズ背水の陣……ですわね」
「うん、ここから先は、だけどさ」
「ですが全ての星獣を揃えた私に勝てるとでも?」
「勝つしかないんだよ」
アリアは地面を蹴り、跳んだ。そしてそのまま木の幹を蹴り、加速しつつ方向転換。さらにそれを続けて――すでに残像が発生していた。
「質量のある残像?」
「ふふふ」
「さてどうでしょー」
「あ、違うんですのね」
「「バレた!?」」
どういう原理か分からないけど、質量を持った残像……いえ、
「《幻影》スキルですわね」
「「またバレた!?」」
前回死ななかった理由、蘇生したから
次回、決着が着くと良いなぁ




