決勝はまた、同じ
「ふっ」
地面が弾け飛んだ。そう錯覚するほどにエカテリーナの踏み込みは鋭かった。そしてそのエカテリーナの動きを目で追えた物はごく僅かだった。
矢のように引き絞られた愛剣が腰だめに構えられ、神速の突きが纏めて三人を刺し貫いた。さらに続けて、振るわれた愛剣が二人を切り裂いた。《細剣》とは名ばかりの剛剣が振るわれる度、周囲からプレイヤーが消えていく。
「演奏している気分ですわね」
「《ヘブンズストリングス》!」
「あら、無粋な」
演奏棒のように振るわれる愛剣が糸の盾に阻まれた。しかし――ぷつん、ぷつん、と音が聞こえる。一本ずつ、ゆっくりと、しかし確実に斬れていっているのだ。それにエカテリーナは笑みを深め、相手の糸使いは顔を顰めた。そしてそのまま糸で陣を織ろうとしたが
「生憎と、アリアならその程度、剣を使いながらでも、十全に熟せますわ」
「っ、なにを!?」
「アリアの使う剣技はアリアの作り上げた物、なればこそ、私も同じように剣技を創り上げていてもおかしくないでしょう?」
「《糸陣防の型》!」
糸が複雑に絡まり合い、まるで蜘蛛の巣のように巨大な盾を創り上げた。そして自慢げに笑い、
「この糸は《デスヴェノムスパイダー》の糸だ。ここまで厳重な陣を織ればいくらお前でも斬れないぜ!」
「アリアなら笑って言いますわね」
「なんだと!?」
「フラグ、ですわ! 《雷鳴の如き一突き》!」
神速の一撃が複雑で、厳重な糸の盾を刺し貫いて――一撃で男のプレイヤーの体力を全損させた。さらに隙を狙っていたプレイヤーを切り倒した。
*****
「次の相手ってブラジルだっけ?」
「ええ、そうよ」
*****
「次の相手って中国だっけ?」
「ええ、そうよ」
*****
「次の相手はようやくエカテリーナたちだね!」
「いえ、待ってください、アリア。随分と時間が飛んだように感じたのですが」
「え? 気のせいじゃないの?」
「私も感じました」
アリアはマグナとオバマに詰め寄られ、目を白黒させていた。アリアにも分からないことはあるのだ。むしろ分からないことの方が多いことを知っている分、分かっているとも言えるのだが。
「魔王、作戦は?」
「必要か?」
「ううん。でもエカテリーナたちがどう動くかも分からないからさ」
「心配せずとも一対一の盤面を創り上げてくる」
魔王はそう言いながら腰のナイフ二本に手を当て、目を閉じた。そして大きく息を吸って
「一年越しの大会だが――勝つぞ」
「うん」
「はい」
「おー!」
三姉妹が頷いて
「そうねー」
「だね」
姉弟も頷いて
「そこまで気合いを入れる必要があるのかね」
「油断大敵って言うし?」
「んー、ま、なんとかなるっしょ」
大学生三人組も頷いて
「兄さんもといセブンスドラゴニックライオネルソードがとちらなければね」
「忘れていたのを蒸し返すな」
兄弟も頷いて
「マリア、頑張ろうね」
「そうだね」
恋人たちは頷いて
「実際俺たちが加わっているってどうなんだ?」
「俺の部署だとしょっちゅうからかわれるぞ」
運営側二人は苦笑して
「頑張るかね」
「出番があれば良いのですが」
シエルとアリスは呟いて
「オバマ、落ち着いていきますよ」
「言われずとも」
二人が頷いて――魔王はそれらを眺め、満足げに頷いて
「行くぞ、出陣だ」
*****
『いよいよソーニョ・スキルズ・オンライン二度目の世界大会決勝! 会場のテンションも最高潮になって参りました!』
『そして早速東側ゲートから入場してきたのは世界二位の称号を持つ、エカテリーナ率いるギルド、《雷鳴鳴り響く天門》! 威風堂々と入場して参りました!』
『先頭を歩くのが《世界二位》のエカテリーナですね。《最強》と個人的な付き合いもあるとか聞いております』
エカテリーナはその実況に頷きつつ、背後を振り返る。20人がここまで着いてきてくれていた。それは心からの感謝と共に――一緒に戦いたいという願いもあった。だから
「勝ちますわよ! 今度こそ、私たちが最強だと証明しますわ!」
前回はパーティ制だったが、とエカテリーナは内心思いながら言い、仲間たちのそれぞれの返事に頬を緩ませていると……怒号が聞こえた。いや、違う。怒号じゃない。もっと――凄いものだ。
『西ゲートより入場して来たのは世界最強ギルド、《魔王の傘下》! 全員が全員、レベルカンストという圧倒的強者ながらステータスに頼り切ることなく、プレイヤースキルまでも高めている反則級のギルドだ!』
『先頭を歩くのはディアボロス! 誰も一筋縄ではいかないプレイヤーたちを纏め上げる手腕を持ち、そのナイフ捌きは世界最強でも正面から挑むのは避けるほど! 誰が呼んだかその名も、《魔王》!』
『そして魔王の傍らを歩くのは少女! しかし侮るなかれ! 誰もが知る世界最強その人なのだから! 《最強》アリア!』
そして実況席はまだまだ、みんなの紹介を続けていたが魔王はそれを無視してエカテリーナたちに向かって歩き出した。それにエカテリーナは気付いて――魔王に向かって足を進めた。そしてそのまま、二人は向かい合って
「どうしますの?」
「一対一で良いだろう。お前とアリア以外はその場で決めて良いだろう」
「まぁ、そうですわね。とりあえずは――いえ、その場その場の方が盛り上がるでしょう」
「ふ」
二人は笑い、握手をした。そしてそのまま互いに背を向け、歩き出した。
「最初は誰が行くんだ?」
「誰でも良いな……そうだな、サタンかルシファーが行け」
「良いけどよ」
「僕たち二人は……」
「そろそろその意識を切り替えてこい。一対一でも戦えるようになってみろ」
その言葉に二人は顔を見合わせて――どちらからともなく、破顔した。そしてそのまま
「俺が先に行くよ」
「じゃあ僕は二番目に」
サタンはニヤリと笑い、前に出た。そしてそのまま、背負っている剣の柄と槍の柄の間で手を揺らしながら、歩き出した。
『《魔王の傘下》が一人、《セブンスドラゴニックライオネルソード》サタン! その剣と槍捌きは弟と揃ってこそ真価を発揮する! 果たして一人でどこまで戦えるのか!』
『対するは《雷鳴鳴り響く天門》が一人、《虚と現世の狭間》ジェーン! その剣は捕らえることが容易ではない! 最強ギルドの一員に、どこまで通じるのか!』
「相変わらず俺の二つ名が酷ぇ……」
「その剣の名前なのでしょう? なればこそ、名誉ではありませんか?」
「俺にはそう思えないよ……ま、お前を倒せば名誉と思えるかもな」
ゆらり、と剣先が揺れている。アリアなら揺れない、シンでも、エミリアでも、だ。リアルなら筋肉不足、で言えるが……それはこの世界じゃ通用しない。ステータス不足なプレイヤーが、世界大会決勝のギルドに在籍しているとは思えない。だからこそ、容易に攻め込めない――それが普通の判断だ。だが《魔王の傘下》は普通じゃなかった。
「《セブンスドラゴニックライオネルソード》、《過剰駆動》!」
「っ!? 何をする気ですか!?」
「受けて見ろよ」
瞬間、サタンが握る剣が七色の光に包まれた。
次回、セブンスドラゴニックライオネルソードはセブンスドラゴニックライオネルソードの名を名誉に思えるのか!?
感想等々お待ちしておりますぜ




