二対一
「二回戦の相手はアメリカなんだね」
「まぁ、のんびりしようぜ。まだ一回戦の途中なんだしよ」
「だねー。ちょっと色々見てくるよ」
「行ってらっさい」
アスモはひらひら、と手を振った。それを眺めながら、扉を開けて廊下を歩く。待機室を出て、全世界のプレイヤーが集っている大きな部屋に行くと
「アレが世界最強……」
「ちっちゃいな」
「声を掛けたら斬られるぞ」
「聞こえないようにしろよ」
「聞こえるだけでも斬られるぜ」
そんなことしないよ、と思い、顔を向けてみると一斉に顔を背けられた。僕が一体何をしたって言うんだ、と思っていると
「おい、嬢ちゃん」
「ん……君は、アメリカの?」
「覚えてくれていたのかい? 嬉しいねぇ」
頭の上にアメリカの国旗が表示されているんだけど……、とアリアは思ったが言わなかった。なんとなく言ったらダメな気がした。だからそのまま無視して
「それで僕に何の用かな?」
「ん、ああ。気にすんな。ただの宣戦布告だ」
「宣戦布告?」
「ああ。今年は負けない」
「ん、今年も僕たちが勝たせてもらうよ」
アリアはアメリカンなプレイヤーが苦笑しているのを眺め、剣を抜いた。さらに続けて逆手に握り直して
「危ないなぁ、エカテリーナ」
「あら、アリアならきちんと反応できると思いましたわ」
「なら良いよ」
アリアは振り向いて、エカテリーナと抱き合った。そしてそのまま剣を鞘に収めて
「エカテリーナ」
「どうしましたの?」
「決勝で会おうね」
「……アリア」
「え?」
エカテリーナは眼を細くしていた。そしてそのまま――
「あなた、様子がおかしいですわね」
「え!?」
「何かありましたの? それとも二重人格の向こう側が出てきましたの?」
「それって私のこと? 私なら今はまだ、起きてないけど」
「……本当ですの?」
「うん、僕はそのつもりだよ」
「……アリア、忠告をしておきますわ」
「え?」
「二重人格が再び、一つに戻るかもしれない……その時は、心しておきなさい」
二重人格が元に戻るとき。それが今の僕たちに来るのか、そんな風に疑問に思っているとエカテリーナはふっ、と笑って
「アリア、深く悩む必要はありませんわ」
「え?」
「あなたはあなた、その意思を強く持ってください」
*****
「僕は僕で、私は私で――どっちが主人格だと思う?」
「……どっちでも良いじゃないですか。私とあなたはどちらが主人格だろうと」
「そうかな?」
「ええ。私はリアルワールドのアリアで、あなたがVR世界の主人格。それで良いじゃないですか」
アリアは自分の中で眠っていた彼女と対話して、すっきりした。結局のところ、エカテリーナが何を言いたかったのか分からない。でも納得できないのはいつものことだ。分からないのは分からなくても構わないのだ。
「んじゃー、頑張るぜい!」
アリアはそう言い、立ち上がった。そしてそのまま、剣を抜いて
「アメリカ戦、僕が行っても良いかな?」
「ああ、構わないな。何か問題がある奴はいるか?」
「いねーよ。つかアリアが戦うのなら見てるだけで面白いし」
「兄さんの言う通りだね」
そう言うわけで僕は剣を握りしめ、歩く。アメリカがどこから来るか分からないけど、とりあえず歩いていると
「撃て!」
弾幕が張られた。そしてアリアの視界には弾丸の雨が降り注ぐかのように、見えた。だがアリアにはその程度じゃ、通じない。
「ふっ」
銃弾の雨をを縦断する、アリアはそんなギャグを思いつき、一人で笑いながら弾幕を軽々と避けていた。ちなみにアメリカ側からだと、その程度じゃ当たらないぜ、みたいな笑みに見えたという。だからこそ、アメリカ勢はさらに弾幕を濃いくした。
「ん」
アリアの動きが加速した。アメリカ勢がそう思った瞬間には、アリアはすでに攻撃態勢に移行していた。逆手に握り直した《悪魔龍皇剣 王の鎖》を低い体勢で構え、地面を駆けた。そして一閃。
「およ?」
「危ないな!?」
「当たると思ったんだけどなぁ……」
アリアはぼやきながら剣を振るった。だがそれはアメリカの、さっき話しかけてきた男の銃を掠めるに留まった。そして放たれた弾丸が――アリアの髪を散らした。その結果――アリアの表情が変わった。笑うような表情から真剣な表情にシフトした。それはもう、遊びは終わりだ、という意思表示だった。
逆手に握っていた剣を順手に持ち替え、空いていた片手で新たな短刀を抜いた。《悪魔龍皇剣》と《神鉄鋼刀》だ。そしてそのまま回転し、連撃を繰り出した。
「《スプレッド》《パラライズバレット》!」
「1,2,3……18、くらいかな?」
瞬間、放たれた無数の弾丸がアリアの高速の18連撃で弾かれ、切り落とされた。さらに続けての蹴り、それを利用した遠心力での横薙ぎが銃を切り飛ばした。だが銃は一丁じゃない。新たに抜かれた二丁の拳銃から無造作に弾丸がばらまかれた。それは、レヴィにも、マグナにも届かないほどの技だったがそれをできる者がいたことに、アリアは戸惑った。まぁ、戸惑いながら逃げ惑った。
上下左右に、何もない空間を蹴って移動するアリアを眺め、アメリカのプレイヤーは臍を噛んだ。どうしてあんな動きができるんだ、どうしてあんなに動けるんだ……そんな風に思いながら連射しているが
「どうして当たらねぇんだよぉぉ!?」
「生憎だけどさ、二対一だからだよ」
「二対一だと!?」
アメリカのプレイヤーは思わず、周囲を見渡した。隙だ、と思ったが止められなかった。しかし幸いなことに、攻撃はされなかった。そして――周囲には誰も残っていなかった。だとすれば、何が二対一なのだ?
「まさか、二人組!?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるよ」
「どういう意味だ!?」
アリアはにやり、と笑って剣を振り切った。そしてその軌道上にいた男のプレイヤーの首を撥ね飛ばした。そのまま大きくため息を吐いて
「やっぱ、まだ辛いかもね」
『並列思考なんて出来るはずもないじゃない……って思っていたのを無理矢理実行したのよ。辛くないはずがないわ』
「あー、うん。ごめん……ちょっと頭痛が辛いから、一人に戻っても良いかな?」
『好きにしたら?』
ふぃー、と息を吐きながら自分一人になる。エカテリーナに言われ、少し考えてみた。その結果が二人の共存化、だったけど……思った以上に使えた。私が軌道を読んで、どうしたら良いかを咄嗟に言ってくれる。だから安心して突っ込めた。僕と私が協力すれば、この程度、造作も無い。
「改めて宣言させてもらうよ――僕が、僕こそが《最強》にして頂点、アリアだ!」
*****
「アリアがあのように言うのならば、私も前に出ないといけませんわね」
「リーナ……ではリーナ一人で戦いますの?」
「ええ、そのつもりですわ。ライバルが、アリアがそれをしたのですから」
エカテリーナはそう言いながらじっと、正面だけを見つめた。そしてそのまま、視界を狭め、矢のように愛剣を構え――歩き出した。アリアにできることが、私にできないなんて思えない、と思いながら。
そしてそう、遠くない内に接敵して――エカテリーナは、地面を蹴った。
エカテリーナの真剣な言葉が失敗に終わってしまったぜ
次回、なんやかんやで3,4回戦は終了する予定
消化試合なんて言っちゃいけないよ!
決勝はどうせアリアたちとエカテリーナだなんて言っちゃいけないよ!
これからはオバマと僕アリア、私アリアで複雑な会話が増えるかもしれません
ご容赦ください




