世界大会
世界最強ギルドを決める戦い、それが《世界大会》だ。だが
「アリア」
「ん?」
「手を抜いてくれ。俺たちも少しは戦いたいんだ」
「んー、良いよ。マリアとアジアン、アリスも前に行きなよ」
アリアは頑張って三人の背中を押そうとするが、生憎と手が二本しか生えていないため、両手と頭を使って押していた。それに押されている三人は苦笑して、マモンは動画を撮っていた。その結果、
「マリアとアジアン、アリスとセプト、ジャックとシエルか」
「あれだねぇ、ダメージ目的と小手先系でみどとに別れたねぇ」
「みどと?」
「みどと?」
「見事だよ!?」
髪の毛に近くなるまで、顔を真っ赤にしたアリアを見つめ、シンは可愛いなぁ、と思っていた。そしてそんな弟の横顔を眺め、エミリアは気持ち悪い笑顔だなぁ、と思っていた。そして――
「マリア、お前が指揮をしろ。俺たちは従おう」
「え、指揮を? 良いんですか?」
「ああ。ジャックも異論は無いな?」
「ん、問題無しだな。シエルたちはどうだ?」
「私はマリアに従うよ」
「では私もです」
「んじゃ私もだ」
「……分かりました。ではジャック、セプト。あなたたちは現在位置から左右に散開し、適度に薙ぎ払ってください。シエル、アリスは正面に突っ込み、撹乱をお願いします。そして程良く撹乱した後、私とアジアンが正面から一気にぶっ潰します」
マリアの速効で創り上げた作戦に、五人は頷いて
「それじゃあ……作戦開始!」
同時に走り出した。そしてアジアンの服の裾を掴んで
「アジアンはまだだってば」
「あ、あはは……みんな走り出したから走らないといけないかなって思って」
「分からなくも無いけどね……とりあえずアジアン、通話お願い。僕は準備しておくから」
「ん、了解」
アジアンはメニューを操作して、四人と同時に話せるような通話状態にして
「アリス、シエル。状況が進んだ場合、伝達をお願いします。セプトとジャックは状況が想定外に進んだ場合の報告をお願いします」
『分かりました』
『了解』
『分かった』
『OK』
「マリア、何か言うことはある?」
「特には無いよ……あ、広範囲に広がる毒煙や麻痺毒煙を使うからアジアンから伝達があった場合、即座に非難を」
それぞれから返事があったのを聞き届け、マリアは両手の指の間、都合八カ所で小瓶を八本、挟み込んだ。そしてそのまま目を閉じて――その時を待った。
『アジアン、マリア。聞こえますか?』
「っ、どうしたの!?」
『戦線が傾きました。攻めるならば、今です!』
「マリア!」
その愛する者の声を聞き、マリアは目を開いた。そして走り出した。
「アジアン、一歩遅れてお願い」
「了解! マリアが小瓶を投げるから!」
「っはぁっ!」
返事がある前に投げた八本の瓶が目前までに迫っていた多数のプレイヤーたちの中央で割れる音が聞こえた。そしてそこから――湧き出してきた濃紫色の煙と黄色の煙、それが視界内の、《鑑定》スキルで覗けるプレイヤーたちのステータスに《状態異常 毒》と《状態異常 麻痺》が表示された。
「僕たちは《魔王の傘下》でも弱い方だからね」
「こうでもしないと戦えないからね、ごめん」
アジアンはそう言いながら地面を蹴った。そして自分に気付いていたプレイヤーの首を背後から刺し貫いた。さらに続けて、光となって消えるそのプレイヤーに驚いたプレイヤーの喉を掻き切って
「マリア」
「分かっているよ」
投げた小瓶が爆発した。それを眺め、マリアは少し火薬が少なかったかもしれない、と思いながらエストックで心臓を刺し貫いた。さらに続けて切り続ける。決して剣を交差させない。ただ、一方的に切るだけだ。
僕は力が強くない。アリアほど強くない。だから速度を高めて、一方的に攻撃をするだけだ。
「一つ、二つ、三つ、四つ!」
両手をパン、と叩き合わせて
「《火煙》!」
目を眩ますための魔法を使い一方的な戦闘はさらに加速した。
*****
「しっかし運営も考えてるよね、僕たちとロシア組を、《雷鳴鳴り響く天門》を最後に持ってくるからね」
「アリア、ロシアとはどうする気なんだ?」
「うーん……エカテリーナ以外は、どうでも良いよ」
その言葉に、ジャックは違和感を抱いた。アリアがエカテリーナだけに拘っているのは前からだった。だが……どうでも、その表現が引っかかった。
「アリア……お前」
「ん? どうしたの?」
「……オバマ、お前か?」
「え? オバマならあっちでマグナと腕相撲しているけど?」
「なぬ」
それはそれで気になったので顔を向けてみると思っていた以上に全力でやっていた。それに少し絶句していると
「やっぱりオバマが混ざったからなのかな、ちょっと変になってた?」
「本から変だったがベクトルが変化した、と言うべきかな……まぁ、とりあえずはロシアまで休むか?」
「うん、そうするよ。みんなもやる気マンゴスチンみたいだし」
「やる気……なんだと?」
やはりアリアは分からない、とジャックが再認識をしていると――上空から、雷が降り注いだ。しかしそれは誰にもダメージを一切与えなかった。全て、ベルの左手が吸収したからだ。
「この感じ、どうも大して強くは無さそうだな。俺を100に分割すればこんな感じか?」
「なんだ、その程度なのか。だったらお前一人で充分だな?」
「あー、ま、俺みたいに《魔法吸収》してこなけりゃ問題ないな」
そう言いながらベルは右手を高く掲げて
「進め、《幻影騎士団》」
「あれ、その名前聞き覚えあるんだけど」
「俺もあるな」
アリアはランク3のエクシーズモンスターを、ジャックはかつてアリアをキルしたギルドを思い浮かべていた。そして――ベルの周囲に、ベル自身の影が広がった。そしてそこから湧き出してきた漆黒の騎士たちが一斉に走り出した。
「うーん、壮観だなぁ」
「ベルは騎士とか好きなんだねー」
「そういうわけじゃないが……護るための何かが必要と思っただけだ」
「なんで?」
「お前みたいなのがいるからだ」
アリアは頭を乱暴に撫でられつつ、へにゃり、と笑った。しかし、その様子を眺めて嫉妬している者がいた。マモンだ。まぁ、嫉妬していたのはどっちにも、だが。
「アリア」
「ん~?」
「どうしてみんなはこんなにのんびりとしていて、ベルフェゴールだけが働いているのですか?」
「ん~? それは相手が弱々のふにゃふにゃだからだよ」
「ふにゃふにゃ?」
それは今の、シンの膝枕で幸せそうにしているアリアではないのか、とオバマは思った。だが、空気を読むと言うことを学んだオバマに死角は無かった。だから何も言わず、マグナを探すと
「チェックメイト」
「む」
「25手前のミスが致命的ですね」
「……だな」
ダイアモンドゲームにチェックメイト? と、思いながらアリスとセプトのやり取りを眺める。すると頭に軽い衝撃があった。そして
「エミ、どうして私の頭の上に乗るのですか?」
「オバマが暇そうに見えたから」
「……暇、ですか」
やはり人間は複雑だ、と改めて認識したオバマだった。ちなみに、ベルはすでに相手を殲滅しきっていた。
二度目の世界大会、開始
現在、7月1日に投稿する小説が20話を超えてきて、最初っから投稿しろよ、と思っています




