父親二人
「世界大会最終予選は地方なんだね」
「九州地方が、僕たちが最強だよ」
アリアの言葉にマリアは力無く、笑った。疲れているようだった。
「オバマも、準備は良い?」
「ええ。ですが私は参加しても良いのでしょうか?」
「良いよ。だってオバマは僕、つまりアリアだから《魔王の傘下》の一員なんだよ」
いや、その理論はおかしい。誰もがそう思っていたが別に入ることに反対してはいないので何も言わなかった。
*****
「そもそも人間の脳の使われていない領域を使うって言っちゃ悪いけどAIに出来ることなのか?」
「そうですね……アリアが幼少の頃からゲーム漬けなのが相まっているのが原因の一端ではないでしょうか」
「……《深層接続者》だから、じゃないの?」
マモンの言葉にベルが納得し、マグナが首を傾げた。
「アリアは《深層接続者》なのですか?」
「そうよ……アリアちゃんから聞いていなかったの?」
「一切何も言われておりません」
マグナは不思議を感じていた。アリアは何故それを隠していたのか、と。そして――
「マモン」
「何?」
「どうも初戦の相手にアリアたちが張り切っているようです。どこのギルドだったのですか?」
「えーっと……あぁ、なるほどね。そりゃやる気を出してもおかしくないわね」
「相手ギルドの名前は《オリュンポス》、聞き覚えはあるだろ?」
「あぁ……エミを何度も繰り返し、キルした相手らしいですね」
「そうよ……でも、私たちの出番は無さそうかな」
「エミとアリアがいれば充分だろうしな……それにシェリルもいるんだ。あの三姉妹を止められる奴なんているのかね?」
《魔王の傘下》の全員が協力し、戦ったしても勝てる見込みはない。それが全員の正直な想いだった。マモンもアリアと一対一なら良いところまで持ち込める、と思ってはいるが。
「さてと、僕たち家族でやろうか」
「そうね」
「私一人でも充分なんだけど」
「それはここの全員が同意見よ」
「え、僕は無理だと思うんだけど」
シンは少し、困ったような表情で言う。そしてその背中にアリアが抱き付いて
「僕たち四人なら誰にも負けないさ!」
「おー?」
「おぅ?」
「いぇーってあれ?」
エミだけ首を傾げていた。そしてシェリルとシンは手を少し高く上げ、これで良いのか、と思っていた。そして――
「《オリュンポス》の全てを薙ぎ払いに行こう!」
アリアはシンの背中から跳び、木の幹に着地してニヤリと笑った。もちろん幹に垂直に立っているため、その顔はシンたち三人には見えなかった。
*****
「おい、ゼウス」
「なんだ?」
「相手はあの《魔王の傘下》だ。俺は正直気が重いんだが」
「大丈夫だって。あん時よりレベルも上げたし装備も整えた、それから人数も増えたから負けないって」
ゼウスは朗らかに笑った。それを眺め、少し息を吐いて――直後、数え切れないほどの剣が上空から降り注いだ。
*****
「《ミリオンソード・メテオ》……制御は効き辛いけど広域殲滅魔法としては高性能ね」
シェリルはそう言い、自分の成果を誇るように振り向いたが……そこに三人の姿はなかった。それにシェリルは嘆息して、長杖を腰に差した。その頃、エミは高速で走っていた。生き残りを殺すのは私の役目だ、と心に決めていた。
「《セカンド・バース》!」
全身の動きが加速する。五感も鋭利になり、視界がクリアになる。耳から入ってくる音も鮮明となり――見つけた。エミは自分では気づかなかったが、仄かな笑みを口元に浮かべていた。それは楽しそう、や面白い、などの明るい笑顔じゃない。復讐を目前にした、期待の笑顔だった。だからこそ
「邪魔をしないでよね」
「僕は構わないけど……アリアは嫌みたいだよ?」
「ふーん……だったらシン、少し協力してくれる?」
「内容にもよるけどね」
そして、その結果
「お姉ちゃん、シンを殺されたくなければそいつらを譲って」
「汚いよ!?」
「何とでも言え……そいつらを斬り殺すのは私なんだから」
「っ」
アリアは渋々、嫌々と言った様子で剣を鞘に収めた。そしてそのまま《オリュンポス》の構成員から離れて――エミの反応できないほどの速度で剣が突きつけられていたシンを抱き抱えて、距離を取っていた。その目にはもう、エミは映っていなかった。
シンは剣を鞘から抜こうとした、がアリアに手を掴まれた。何故、と思い顔を向けるが
「シン、エミがやりたいらしいからさ……ね?」
「危険じゃないかな?」
「僕の妹だよ? そうそう負けるはずがないじゃん」
「……そうだね。頑張ってね、エミ」
「ありがと、お義兄ちゃん」
「ぬ」
シンは少し戸惑った。だがアリアはそれを眺め、笑っていた。そしてエミは振り返らず、剣と扇を構えた。そのまま地面を蹴った。
「お前たちに復讐する時を、本当に待っていた!」
「エミ……」
エミの剣が、扇が暴れ回る。暴風のようなそれは何も残さず、次々と薙ぎ払っていった。アリアを彷彿させるそれを見ていたのは、シェリルだけだった。アリアたちはいちゃついていたのだった。
*****
「《セブンソード・メテオ》《マジック・アブソーブ》《アトリビュート・アロー》!」
全てを薙ぎ払う矢が放たれて、
「《アトリビュート・メテオ》!」
全てを消し飛ばす魔法が放たれて、
「《電磁加速砲》!」
全てを貫き通す弾丸が放たれて、
「これさ、もしかしなくても俺たちの出番ってないんじゃないか?」
「薄々感づいていたことを言わないで欲しいな」
アスモの言葉にジャックは苦笑しながら言った。だがそれは共通認識だった。誰もが自分たちに叶う相手がいるとは思ってもいなかったし、現実、そうだったのだ。だからこそ、《魔王の傘下》の全員は思っていた。
『自分たちが全力を尽くせるのは《魔王の傘下》の中にしか存在しないのではないか』
と――。唯一比肩できるエカテリーナはアリアの獲物だから、という理由で思考から真っ先に抜け落ちていたのだが。
*****
「…………」
「どうした? 随分と考え込んでいるようだな」
「……ブブ、お前の意見を聞きたい」
「ほぅ。魔王が俺に相談とは珍しいな」
ブブは愉快そうに頬を歪めた。そして魔王はそんなブブを眺め、表情を変えずに
「《魔王の傘下》は解散した方が良い、そんな風に考えてな」
「ほう? それは随分と面白い発想だな」
「お前もそう思うか?」
「ああ。笑いがこみ上げてくるな」
ブブは言葉通り、高笑いをしてにやり、と笑った。
「俺たちに比肩するプレイヤーは俺たちしかいない。だろう?」
「さて、な」
「魔王、俺はお前の意見を良いとは思っている。だが、それがお前の望んだ通りの解決をするとは思えない」
「……軽く説明してくれ」
「もしもこのギルドに愛着のある奴がいたのならば……それはきっと、言い終わり方ではないだろうな」
「……あぁ、お前の言う通りだな」
「で、どうしてそんなことを思い出したんだ?」
「……妻が妊娠してな、色々と考えているんだ」
結局は現実か、とブブは思ったがブブはすでに父親だったから、分からなくもなかった。
次回、色々とすっ飛ばして世界大会開始
最後に不穏な空気を漂わせつつ、また明日!




