ウイルス
「マグナ、撃ち漏らす必要はありません。右側をお願いします」
「ではオバマが左側を担当してください」
「無論、そのつもりです」
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「さてと、オバマ。あなたの戦い方を見させていただきますよ」
右の銃が巨大な鬼を撃ち抜いた。さらに続けて左の銃で狼人間を撃ち抜く。そのまま右の銃と左の銃で撃ち続けて――
「なんと言いますか、意外と弱い相手ばかりのようですね」
「そりゃまぁ、この辺りは別に難易度が高いわけでもないし、マグナは弱くないからね」
「それもそうですね」
マグナは二丁の銃を使い、自分が宣言した方向のモンスターを一体も撃ち漏らさない。一体も撃ち漏らさない、だからこそ弾丸が次々と減っていく。マグナは補充しなければ、と思っていた。だが
「オバマがまだ引いていないのなら、私も引けませんね」
*****
「こう言うのを一騎当千というのですね」
オバマは斧で辺りを薙ぎ払い、そのまま続けて槍で刺し貫いた。さらに続けて斧を振り下ろし、その衝撃で群れの体勢を崩して
「なんというか、これが私たちなんですか?」
随分と弱い、オバマは拍子抜けしながら殲滅を続けていた。しかしオバマの槍が、斧が何もかもを残さない。それをオバマが少し切なく思っていると
「オバマはどうして斧と槍を使うの?」
「何故、それを気にしているのですか?」
「んー、別に。でも剣を使っても良さそうだと思うけど?」
アリアの言葉にオバマはその通りだ、とも思った。だが剣を使わないのは自らへのけじめでもあった。アリアの真似をし、剣を使う。もうそんな真似はしたくないのだ。そんな想いがオバマの中にしっかりと根付いていた。
*****
「運営自粛、ですか? それは随分とふっかけてきましたね」
『ふっかける? とんでもない』
優が眉を顰めていると、相手の男はにんまりと笑って
『そちらは犯罪者を匿っているのでしょう? でしたらそれを公表されるのは困るんじゃないんですか?』
「犯罪者、ですか? 一体誰のことを指しているのでしょうか? 当方には皆目見当も付きませんね」
『惚ても無駄ですよ……先日のそちら発のAIが起こした騒動ですよ。よもや忘れたわけではありませんよね?』
優は少しため息を吐きたくなりつつ、冷静に対応しようとした。だが
『まぁ、件のAIをこちらに引き渡していただけるのなら、この電話はなかったことにしても良いのですが』
「……」
それは困る。だから――
「社内で会議に掛けてみます。その後、お電話ください」
『良い返事を期待していますよ』
通話が切れ、優は深いため息を吐いた。そのまま椅子に深く腰掛けて
「中々お疲れのようだな」
「ええ……もう、電話相手があんなのばかりなら二度と電話をしたくありません」
「そう言うな、先方の言い分が間違っているわけじゃないんだろう?」
「オバマを引き渡せ、と言われましても?」
「それは……難しいな」
「ええ、難しいですね。オバマのコピーはありますが……オバマの本体は嘘か真か、アリアさんの中にいますからね」
「おそらく本当だろう。あの雰囲気、アリアが醸し出せるとは思えない」
「そうですね」
二人揃ってため息を吐く。そしてそのまま時計型デバイスを操作して
「もしもし、シェリルか?」
『達也さん? 珍しいですね、どうしました?』
「少し事情があってな。マグナに替わってもらえるか?」
『構いませんよ……マグナ』
『あー、電話ですか。初めてなので少し時間がかかりますね』
そして
「こんにちは、達也」
「……電話回線を通じて飛んできたのか? 随分と規格外だな」
「アリアから先に言われていましたので。準備はしていました」
達也は自分の時計型デバイスを気味が悪そうに眺めて――笑った。
*****
「それでは向こうの何もかもをぶっ壊すプログラムを組み、流し込めば良いのですね?」
「それは犯罪だぞ? 痕跡を残すな」
「達也!? 前半と後半が真逆ですよ!?」
「ふん、例え潰れたとしても俺は困らん。とりあえずは潰してくれ」
達也の言葉にマグナは少し目を細くした、つもりだ。肉体が無いのだから。しかしマグナはそれも構わない、と思っていた。肉体が無かろうと自分は人間だ、と心から信じているからだ。
「ですが本気で潰したとしたらここが疑われます。それについてはどう考えていますか?」
「俺たちにそれをなせる技術はない、そう言い張る。幸いにもお前たちは俺たちの手元にはいないからな」
「私たちはアリアの物です……が、一応達也もお父さんと認めてあげなくもないですよ」
「良い。俺を父さんと呼ぶのは優が産む子だけだ」
「達也……もう」
優が少し顔を赤くしている。それをマグナは穏やかな気持ちで見つめていると
「アリアに伝えてくれ。しばらくはマグナとオバマを連れてここに来るな、と」
「分かりました。それではごきげんよう」
「待て。まだ話は終わっていない」
「そうですか?」
「ああ。向こうを潰すのは構わないが直接的な手は止めてくれ」
「……ええ、そうします」
そうしてマグナが去った後、達也が振り返るとそこには困ったような表情の優が立っていた。そして
「今の、間接的に潰せ、という命令のようでしたね」
「まさか。たまたま、そうなってしまうだけだろう」
達也は人の悪い笑みを浮かべ、言い切った。それを眺め、優は今日の晩ご飯は辛めの、達也の好物は避けておこうと思った。
*****
「そう言うわけでよろしくお願いします、直美」
「……リアルアリアちゃんの中に入ったってどういうことよ。そんなこと、可能なの?」
「今回のはおそらく奇跡に近いでしょう。アリアの脳内の使われていない領域に私を染み込ませたのですから」
直美は顔を顰める。目の前の椅子に座っているこの少女が得体の知れない者に思えて仕方がなかったからだ。だが少し、先ほどの言葉に引っかかりを覚えた。
「オバマ、染み込ませたってどういう表現なの?」
「はい。いつかアリアがそこの領域を使う際に、最初に消えるのが私と言うだけです」
「……そう。それじゃ、アリアちゃんに替わってもらえる?」
「分かりました……ん……どうしたの、直美?」
「ううん、何でもないよ」
直美はアリアを抱きしめていた。それにアリアが戸惑っていると……直美は泣いていた。どうして、とアリアが思っていると
「アリアちゃん……良かった」
「え? どうしたの?」
「……オバマを頭に入れて、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だと思うよ。考え方も変わってないし、勉強は相変わらず出来ないし」
「出来ないの?」
「うん。宿題の問題解いてって頼んだら怒られたんだ」
少し間抜けなその話に、直美は頬を緩ませた。
*****
「アリア、今日の昼ご飯は僕が作ろうか?」
「んー? 良いの?」
「うん。宿題、頑張っているみたいだし」
それは残しておいて夏休みの残りが少ないと言うだけだ。だが柘雄はそこに目を瞑っている。そして――
「昼ご飯食べたら世界大会の最終予選だね」
「うん」
ちなみに昨日の星獣イベントはアリアがやる気を出さず、ぼんやりと眺めている間に終わっていた。ちなみにその間に考えていたことは、宿題終わるかな、という悲しみに直面していた。
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次回、世界大会最終予選




