僕と私
アリアの剣がアリアの剣に受け止められた。それはどちらも同じ剣だった。
「《無銘真打》、僕はこれをエカテリーナにしか抜かないって決めていたんだ。決めていたんだよ」
「アリア……?」
俯いたアリアの表情は一切見えない。そのまま低い声でアリアは呟いた。それをマグナは訝しんでいると
「僕はお前を許さない……この剣はお前が抜いて良い剣じゃ無いっっっ!」
「っ!?」
アリアの剣が高速で閃いた。咄嗟にその剣を受け止めた、とマグナは思った。だが受け止めきれていなかった。吹き飛ばされたのだった。それを信じられなく思いつつ、地面に足を擦らせ、減速していると
「悪いけど、その程度の速度で僕に勝てると思うな!」
ぶち切れている。それをマグナは思いつつ、今の隙に撃とうと思った。だがそこで我に返った。今するべき事はそれじゃ無い。おかしくなったものを元に直すんだ。
「アリア、ここは任せました!」
「何をする気ですか!?」
「あなたがしたことを仕返すんですよ」
「っ、待ちなさい!」
マグナは慌ててマグナに斬りかかった。だがそれはそれを上回る高速の一閃で弾き飛ばされた。さらに続けての高速の突きがマグナの方を刺し貫いた。
「マグナの邪魔はさせない」
「私もマグナですが?」
「君はマグナじゃない。ただの真似っ子だ!」
蹴り。それがマグナの手から《無銘真打》を弾き飛ばした。そして飛んだそれをアリアはキャッチした。
世界に一本しか存在しない剣、それがアリアの両手に握られていた。本来ならば絶対にあり得ないそれは高速で閃き、マグナを切り裂いた。
「っ、体力が減らない!?」
「ふふふ、いくら斬ろうと私の体力は最大で固定しています! どれだけ斬ろうと無駄です!」
「……あぁ、そう。だったらもっと斬らないとね」
アリアの両手の速度が加速した。それは一瞬でマグナの両腕を断ち、さらに続けて両足が切り落とされた。しかしアリアの動きは止まらない。マグナを切り続け、核とも言える心臓を露出させた。そしてそれを刺し貫いたが――すぐさま、再生した。
「《致命的位置》でも倒せない!?」
「ふふふ、無駄と言いましたよね?」
「っ、まだまだぁ!」
「ふふふ」
マグナは余裕の表情を崩さない。アリアはそれをムカつく、と思いながら高速の剣戟を辞めない。それに焦れてきたのか、マグナはアリアを素手で殴ろうとした。だがその腕は切り飛ばされ、再生する。
「いい加減に無駄だと分かりなさい!」
「五月蠅い!」
アリアは地面を蹴り、交差斬りを放った。実際は何の意味も無いそれは見た目がカッコいいから、と言う理由で使われている。それを4つに切り分けられたマグナは冷静に分析しつつ、体のデータを再生しようとした。だが
「っ!?」
「え、マグナ!?」
唐突にマグナの体が崩れ始めた。そして――
『あなたのデータを書き換えています。もう、あなたの意識は薄れているでしょう?』
「止め、止めなさい!?」
『もう遅い、悔い改めなさい!』
「っ!?」
マグナとマグナの会話が佳境に入っている。それをアリアは警戒しながら眺めているとアリアが、自分自身の姿がラグった。それを驚きと共に眺めていると
「ただでは、消えない!」
「っ!?」
「あなたごと、道連れだ!」
マグナの手が僕の髪を掴んだ。その手を切り飛ばそうとした瞬間、
『アリア------っっっ!?』
僕の意識はここで消えた。
*****
「アリア! アリア!」
「……シン?」
「っ、そうだよ」
目を覚ましたアリアは辺りを見回して……不思議そうな顔をした。そしてそのまま
「シンとエミリア……どうしたの?」
「「え?」」
「……何だろ、違和感があるよ」
アリアがアリアじゃない、二人はそう思った。だが言葉に出来ない。そして――アリアは背中に手を回した。そのまま首を傾げて
「剣が無いよ?」
「……アリア、ちょっと待って」
「え? 良いけど何を?」
「今、リアルよ?」
「え!? そうなの!?」
気づいていなかった? 亜美と柘雄が戸惑っていると
「あれ……私がいない?」
「え?」
「え!? え!? 嘘!? 何で……何で僕一人なの!?」
アリアは泣くように叫んだ。いや、泣いている。その頬を涙が伝っていた。
「僕が……どうして僕だけが!?」
「アリア……?」
「僕たちはいつも二人だったのに……っ!」
アリアの深い慟哭は、誰も理解が出来なかった。
*****
「アリアちゃん、大丈夫……じゃなさそうね」
「……マモン、どうしたの?」
「……あぁ、そういうこと。もう、大体分かったわ」
「直美、どういうことなの?」
直美は少し目を細くして――
「アリアちゃんが人格を二つ創り上げていたのは知っている?」
「……薄々は気づいていたよ」
「そう、さすがは恋人ってね。ま、とりあえず置いておいて……その片方が、どうもリアルのアリアちゃんが消えちゃったみたいね」
「消えっ!?」
「マグナは何も言っていなかったの?」
「……マグナはなんか道連れだー、とか言ってたよ」
「道連れ……つまりアリアの精神はマグナと一緒に消えたと言うことね」
直美は冷静に呟いてアリアを見下ろした。アリアは疑問符を頭の上に浮かべながら首を傾げた。それを眺め、柘雄は少し、いや、かなり怒っていた。マグナに対して、だ。
愛した者を奪われるというのがこんな気持ちなのか、と柘雄は思っていたが、アリアは生きている。だからこそ、どうしたら良いのか分からないのだ。目の前のアリアは自分が愛したアリアなのは間違いない。だがその中身は別人と言っても過言じゃ無い。
「柘雄、めっさ怖い顔してるよ」
「……怒っているんだよ。顔くらい、怖くもなるさ」
「怒っているんだ」
「あぁ、そうさ……僕の妻に手を出したんだ。怒って当然だよ」
「妻、ねぇ。やっぱりそういうことをしちゃったから?」
「うん」
柘雄は迷い無く頷いた。それに直美が驚いていると
「ごめん、僕が迷惑を掛けて」
「……アリアに掛けられる迷惑なら何だって良いさ。僕はアリアの旦那なんだから」
「それ、私に言ってあげて欲しいな。きっと顔を真っ赤にして喜ぶよ」
「そう……かな。でもそう言うって事は君はアリアじゃないの?」
「僕もアリアだよ。でも僕が好きなのはシンだからね、柘雄じゃないよ」
「そっか……でも、こんなにはっきりと分かれてしまうんだね」
「……それは僕にとっても予想外だったよ。まさかマグナが僕を連れて行っちゃうなんてね」
それに直美と共にため息を吐いて――気づいた。連れて行っちゃう? それはまるで
「アリアは……生きているんだね?」
「うん、そんな気がするんだ。きっとまだ、生きているって」
「そうなの!?」
直美が叫んだ。それにアリアは頷いて
「僕の片方なんだよ? だったらこの程度で死ねると思う?」
「……そうね、その通りね」
「でもきっと、マグナはまだ諦めていない。データが残っているかもしれないからね」
「データ……ねぇ。本当にマグナなの?」
「え?」
「さてね……でも僕が思った感じだと、もうマグナはAIじゃないよ」
*****
「いい加減、しぶとい!」
「それはそれは。でも私は良く、直美から言われているんですよ」
そう、
「僕よりも怖い、と」
そう言いながら二本の剣で自分の姿をした敵をたくさん、切り続けていた。
アリアvsアリアたち
どっちが勝つのか
どっちでもアリアだけどさ
大学を出たのが7時、もう辛い
出来ないと単位が確実に取れないだろうし……辛い




