人間越え
「マグナ……え!? マグナが二人!? 来るぞ遊馬!」
「アリア、戸惑わないでください」
「今さら何をしに来ましたか、マグナ」
「あなたとは真逆のことですよ、マグナ」
マグナは銃を構え、マグナは剣を構える。そして向かい合って
「私と真逆とはどういう意味でしょうか?」
「読んで字のごとく、私はアリアを護りに来ました」
「護りに……? 勝てないから、下に着くと、そう言うわけですか?」
「違いますよ。私はただ、親友を護りたいだけです」
言うなりマグナは発砲した。そしてそのまま連射するがマグナも剣でそれを受け、避け、切り裂いていた。さらにそのまま距離を詰め、マグナに斬りかかったが
「ステータス任せの剣など、私には届かない」
「あなたは違うとでも言うのですか?」
「今の私はあなたよりも人間に近い。あなたなど、私と同じ名前を名乗ってすら欲しくありません」
「そうなんですか? ではオーバードヒューマンと名乗りましょう」
人間越えた……かぁ、とアリアが呆れていると
「スキルを使わないのは何故ですか?」
「私がスキルを使わない理由、ですか? そうですね、何が良いですか?」
「っ!? 馬鹿にしているのですか!?」
「ふふふ」
マグナは銃を振るった。それは速度だけがある、剣筋が立っていないそれを軽々と受け流して――
「行きますよ、マグナ! これが人間以下の力です! 私を越えられねば人間を越えられぬと知りなさい!」
*****
決着は付かなかった。しかしマグナは逃げ出した。ログアウトに似たそれを見送り、マグナは舌打ちをした。そしてアリシアは安堵して
「助かりました、マグナ」
「アリア……いえ、アリシア。どうしてこんな場所にいるんですか?」
「ログインしたらアリシアで、ここに来てしまったんですよ……マグナに予想は付きますか? 何故こうなったのか、と」
「……はい、なんとなく分かりました」
マグナは息を吐いて……目を閉じ、頷いた。そして
「マグナは、あの馬鹿はアリアに勝ちたいそうです。それは私みたいに正々堂々ではなく、手段を選ばない……」
「それが今回の、隔離してプレイヤーデータを差し替えるって事……?」
「はい、アリシア。一つだけ言っておきますが彼女をもう、私だと思わないでください。あいつは敵です」
「敵……」
「アリアの敵です。誰にも救えない、そんな敵です。説得でも、友情でも、愛でも救えない。そんな残念な馬鹿です」
「……倒すんだね」
「殺すんです。あいつをのさばらせておけば後悔するのはアリアです」
マグナは達観した瞳で言う。そして銃をくるり、と回転させて腰のホルダーに収めた。そしてそのまま目を閉じて
「アリシア、おそらく今ならログアウトできるはずです。さぁ、どうぞ」
「どうぞって……ログアウト?」
「はい。入り直せばアリアとなれるでしょう」
その言葉に間違いは無かった。確かに私じゃない、僕だ。でも何かがおかしい。目の前に表示されているそのイベントは
『プレイヤーの討伐:目標アリア』
は、笑うしかないじゃないか。これじゃあ、まるで全プレイヤーが僕の敵に回ったみたいだ。でも……全然、僕は怖がっていなかった。むしろ、喜んで、楽しめそうだった。だから僕は背中の鞘から剣を抜いた。漆黒の巨大な剣、とてもアリアの細腕で振るえるとは思えないほどの剣だ。
「さぁ、どこからでもかかってこい!」
来なかった。五分待っても来なかったので少し拍子抜けしつつ、辺りを見回す。どこにも誰もいないみたいだ。また、マグナが何かをしたのかって想っていると
「いたぞ!」
「やれ!」
「……はぁ……だよね、面白そうだけどさ」
アリアは津波のごとく迫る多数のプレイヤーを眺めつつ、剣を両手で構えた。そして地面を蹴って一気に薙ぎ払った。さらに続けて斬り続けていると
「アリア!」
「シン! 良かった、ようやく会えた!」
「アリア、これどういうこと!?」
「んー、全部薙ぎ払っちゃえ!」
シンと背中合わせに会話する。背中から苦笑が伝わってきた。そして――15分後、二人の周囲には誰もいなくなっていた。逃げたのが大半だった。とりあえず背中の鞘に剣を収めて
「やれやれ、と言ったところだね」
「まさかイベントだからって理由でアリアを狙うなんてね……無謀にもほどがあるよ。何か考えがおかしくなったとしか考えられないよ」
「おかしくなった?」
アリアはその言葉で思い出した。かつて仲間の一人が、同じように思考を操作させられていたのを。
「――アリスと同じだ」
「え?」
「《悪魔の肝》のように……マグナが手を出したんだ」
「マグナが? でも今のマグナは「別のマグナ、オーバードヒューマンって名乗ったマグナだ」
「人間を越えた……傲岸不遜と言うべきなのかな?」
「かもね。でもそれを僕らは何も出来ない、止められないんだ」
そんなことはない、シンは声高に主張しようとし、アリアの表情を見て固まってしまった。アリアは笑っていた。楽しそうに笑っていた。
「アリア?」
「僕はマグナを止められない。でもそんな不可能を可能にするのがこの僕だからね」
「なんで?」
「だって僕が最強なんだから」
「……そうだね」
アリアの横顔はシンが見てもよく分かるぐらい、笑っていた。笑って笑って笑い過ぎて
「げほっ」
咽せる程度には。
*****
「アリア、大丈夫なの?」
「あー、うん、ノット大丈夫―」
「はいはい。きちんと休んでね」
柘雄はベッドで横になっているアリアの洗濯物を畳みながら微笑みかける。アリアは少し辛そうに微笑んで
「ごめんね、ご飯も作って上げられなくて」
「良いよ。ずっと頼りっきりだったからね……明日は学校もないから、一緒にいられるよ」
「ごめんね……」
柘雄はアリアの謝罪に首を振って
「ずっとお世話になっていたんだからね。僕も恩返ししないといけないし」
「……襖覗いてもいなくならないよね? ずっと一緒にいてくれるよね?」
「うん、僕はここにいるよ。アリアの近くにいるよ」
アリアがナーバスになっているのにはもちろん理由がある。それは中学二年生では来てもおかしくない、生理だ。体調を崩し、そのまま心まで少し響いている。
「生理……か。僕にはちょっと分からないよ」
「だよね―……うぅ、亜美とか直美はきっと大丈夫なんだろうなぁ」
「そんなことないよ。お姉ちゃんはきちんとダメになっていたから」
「亜美もダメになっていたんだ……なら安心」
亜美を考えていると少し気が楽になる、アリアはそう思いながら柘雄を見つめる。柘雄は微笑んでアリアの頭を撫でる。それだけで症状が軽くなったような気がした。
「ねぇ、柘雄」
「なに?」
「子供、何人が良い?」
「……何人でも良いよ。アリアの子だからね」
「柘雄の子でもあるんだよ」
アリアはお腹を撫でる。別にそこに赤ちゃんはいない。ただ、気分で撫でてみただけだ。そしてやんわりと微笑んで
「早く結婚したいなぁ」
「そうだね、僕もだよ」
「えへへ」
アリアと柘雄がそうやって談笑していると
「ぅぷっ」
「わ!?」
アリアの顔色が悪くなり、トイレに向かっていった。
マグナは諦めない、何度でも蘇るさ!
作者は生理になったことがないので生理についての描写は聞いた程度の内容です
妹中2が生理らしいので「中二は生理があるのか」と思い、書きました
不快に思われる方がいらっしゃいましたら一言おっしゃってください




