選択
「お帰りなさい、アリアちゃん。ちゃんと礼儀正しくしてきた?」
「そのつもりだよ」
娘の顔を見るに嘘は無さそうだ。しかしロシアから帰ってきた当日に彼氏さんと一緒のベッドで寝てきたと聞いた瞬間は戸惑ったけど。
*****
「それでこれから星獣だっけ?」
「そうよ……それよりもアリアちゃん、《ポルックス》と《カストル》のどっち装備がドロップした?」
「えっと……」
メニューを開き、アイテム欄で確認すると
「あれ、どっちでもない。《双子の釣り合い無き刀》だ」
「それって一番のレア装備じゃないの……ゆずってくれ たのむ!」
「やだ」
「そう かんけいないね」
「む?」
「殺してでも 奪い取る」
「アイスソードじゃないよ!?」
アリアは驚きつつ、その刀を抜いた。鈍い輝きのその刀はもの凄く弱い、だが
「二本揃えば完全型……本来なら《ポルックス》と《カストル》を揃えて真の力が発揮されるんだけどね」
「アリアちゃんのはどっちかあれば良いんだし。どっちとしても使えるのが《双子》なんだよね」
マモンの説明口調に苦笑しつつ、刀を鞘に収める。
「でもマモンが刀を使えるの?」
「余裕余裕。矢として使えるから」
「ええ!? 飛ばすつもりなの!? しかも消費アイテムと同等扱いで!?」
「如何なる物を捨ててでも戦う価値があるのなら私はそうする」
なんだか主人公っぽいことを言い出したマモンを無視して刀をそっと握りしめて
「エミリアはどんなのをドロップしたの?」
「なに? 私のドロップした装備? そんなに取引がしたいの?」
「ううん別に。カーマインブラックスミスで売ろうかなって考えているんだ」
「売ってくださいアリア様!」
一瞬で態度が豹変したエミリアに苦笑して
「オークション……でも良いけどこれ以上お金があってもなぁ。また金庫を増設しないといけませんしね」
「……なんだか演技臭い」
「あら、別に売らなくとも良いのですよ?」
「エカテリーナが移っているみたいね」
口に手を当てておほほ、と笑っている。そんなアリアを眺めてマモンとエミリアは苦笑していた。
((上品とはほど遠い))
そう思いながら。
*****
「っ、はぁぁぁっ!」
「はぁっ!」
正面から二本の刀が交差する。その衝撃でどちらもが吹き飛ばされそうになるが、その衝撃を利用して回転する。そのままの勢いで一閃するが
「っち!」
「ぁぁぁあああああ!」
アリアの刀が首を飛ばそうと迫る。しかしその刀は相手の握る刀の柄で刃をかち上げられ、斬撃を避けるために下がる。下がった勢いのまま、しゃがみ込みつつ納刀、そして
「《居合い・羅刹》!」
「っ!」
「えっ!?」
当たれば一撃、そんな絶対の威力を秘めた刀はスキルも無しに軽々と防がれた。そして返しの一刀。
「腕が!?」
「遅い!」
一閃。アリアの腕が高く飛び、続く二閃目がアリアの残る片腕を高く飛ばした。しかしまだ動きは止まらない。振るった勢いのままに刀を下げ、高速の突き。それはアリアの心臓を刺し貫いた。
「ぬぁーっ!? 負けたーっ!」
「どうしたの? 欲望にでも負けた?」
「むぅぅ……強いよ、強過ぎるよ」
「欲望が?」
「勝てないよ……」
「それは良く分かるわ。私もそうだし」
「……レヴィ、何を言っているの?」
「え?」
格ゲーの相手はいつも強いだ。でもあいつら、強過ぎるよ。
「……もっと強くならないとなぁ」
「これ以上強くなられたら困るから止めてよね。第一アリアが負ける相手ってなによ」
「んー、多分結構色々に負けているよ? 銃を使ってもレヴィに勝てないし弓矢を使ってもマモンには勝てない。ナイフも多少使えても魔王には勝てないし魔法もシェリ姉に勝てるとは思えない……きっとその辺りでも勝たないと僕は最強じゃないんだよ」
それで良いのか世界一位、と思っていたが口には出さない。でもこれだけは言わせてもらおう。
「アリア、世界一位なんてくだらないわよ」
「……レヴィ、それ、どういう意味さ?」
「そのまんまの意味よ」
「っ!」
アリアが怒っている。でもこれは前から思っていて、いずれ誰かが言わなければならなかったこと。だから私が言う。大学生で親しい、直美の次に親しいと思える私が。
「柘雄と世界一位、どっちを選ぶの?」
「え…………え…………!?」
「柘雄と世界一位のどちらかしか選べないとすれば?」
「あ……え!? で、でも共存できるよね!?」
「出来るかもね。でも、どっちか選ばないといけなかったら?」
「……どうして……」
レヴィは何も言わない。ただ見透かすような目でアリアを見つめていた。そして――
「選べないの?」
「っ、五月蠅い!」
「そうやって叫べばどうにかなるとでも?」
誰もが甘やかしているのなら私ぐらい、悪意を教えなければならない。世の中に出る、社会に出るアリアが悪意と会っても負けないように……
「柘雄と結婚は決まっているのに選べないのね」
「五月蠅い五月蠅い! 私は……」
「……」
嫌な役目はいつも俺だ。前にもこう言った記憶がある。元々は好きなゲームのキャラの台詞だった。だけど周りが優しいのならばその役を背負うのは私が適任だろう。
「選びなさい、柘雄か、最強を。どっちもなんて選ばせない」
「……それは絶対に? どちらも選べないの?」
「今が予行演習よ。そう遠くないうちに子を持つ親となるのならば……ね」
「……そう。それは瑠璃の気遣いなのね」
「ふん」
銃を抜いてアリアの額に突きつける。そのまま引き金を引く。驚くべき反応速度でアリアは背中から倒れ込み、倒立の要領で銃を蹴り上げた。
「瑠璃」
「なによ」
「柘雄のお嫁さんが最強でも良いよね?」
「尻に敷かれそうね」
それと
「レヴィよ」
「あぅ」
額を指で突かれたアリアは、その威力に押し負けた。
*****
「そう言うわけでアリアは選べなかったわ」
「レヴィが失敗したか」
「だが奴は我ら4人の中でも最弱」
「次はこの魔女のシェリルが相手だ」
「何悪のりしてんのよ」
部屋の電気を点ける。それにシェリルとマモン、エミリアが顔を顰める。アリアを気に掛け、しかし優しい馬鹿たちだ。
「ま、アリアの意思がどうなろうと悩ませたし少しは変われるんじゃないの?」
「それで成功と言い張る気か、貴様」
「言い張るわよ。第一マモンが私の役目をすれば良かったのに」
「え? やだよ、嫌われたくないもん」
こいつは、と思いながら拳を振りかぶったレヴィ。それを迎え撃とうとするマモン。しかし
「そろそろ落ちるわね。明日も早いし」
「社会人は大変ねぇ」
「九時五時じゃないけどそこそこホワイトなのよ。やることやれば何も言われないし」
「ホワイト、ねぇ。私たちも卒論終わったら就職よね」
「私は実家だから楽ちん楽ちん」
振り上げた拳はマモンの手の甲に逸らされて
「甘い!」
「小癪な!」
その後、マモンとレヴィの手先での争いは二人がログアウトしても続いていた。
*****
「マグナ」
「どうしました?」
「柘雄と結婚する、その準備をお願いしたいの」
「お願いも何も同居しているでしょう?」
「まねー」
アリアは清々しい笑顔で頷いた。
いつかは選ばないといけない選択肢
今回はどちらも選びましたが――
アリアちゃんのイラストが見たい今日この頃
誰か描いてくださいお願いします
一週間ほど読み專になろうかと思案中




