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夏休みの補講

「そういうわけで柘雄と同居する許可が欲しいです」

「ダメって言ったら?」

「同居するよ」

「なら聞かないで良いんじゃないかな?」


 お母さんの言葉に頷く。でも、とお母さんは口を開いて


「同居って大変じゃない? アリアちゃんも柘雄さんもまだ学生だし。掃除洗濯、大丈夫なの?」

「そのつもりだよ」

「……そう。でもまだ心配。夏休みだから良いかもって思ったけど……」

「良いよ」

「お父さん!?」


 思わずと言った様子でお母さんが叫んだ。しかしお父さんは首を横に振って


「アリアちゃんは受験をしないし柘雄くんもまだ一年生だ。だから今が一番良いと思うよ」

「……でも」

「心配なのは分かる。でもアリアちゃんは子供じゃない」

「……大丈夫、かな」

「だがアリアちゃん、一つだけ条件がある」


 アリアの眉が顰められる。何を言われるのか、と思っているようだった。そして


「週末は帰ってきなさい。そして夏休みが終わる前に帰ってきなさい」

「……二つだよ……でも、うん。分かりました」


*****


 そういうわけで一緒に暮らすことになったアリアと柘雄。しかし肝心のアリアはまだ、ロシアにいた。つまり上の文章は未来の話なのだ。

 と、言うわけでまだロシアです。


「エカテリーナ、明日はどうするの?」

「ソーデスネ……デハ、カンキョッ!?」

「使い慣れていないんだからロシア語で良いよ」

『……分かりました。聞き苦しかったでしょうね……観光に行きましょう』


 ってことで


「クレムリン宮殿?」

『ええ、かつてのソビエト時代の遺物ですわ』

「遺物……間違っていませんがもう少しマシな表現はないのですか?」

『ありませんわ。私だって初めて来たのですから』

「「え」」


*****


「そういうわけで観光が終わったね」

「いえ、アリア。もの凄い時間の飛び方をした気がするのは私だけですか?」

『いえ、私も観光をしていた気がするのですが……』


 エカテリーナの言葉にアリアは苦笑しながら色々と見回る。売ってある様々な物がアリアの気を引いて止まない。だからこそアリアの両手は塞がっているのだ。


『アリア、持ちますよ』

「良いって良いって。自分で買った物だから自分で運べるよ」


 アリアが買い物にエンジョイしているその時、柘雄は授業を受けていた。授業自体は単純な英語だったのだが


「英語で結婚願望を書けって難しいな」

「江利は婚約者いるから良いじゃねぇか……俺らソロプレイヤーだぞ」

「まったくだ」


 ソロプレイヤーと言われればアリアを思い浮かべる。もっともアリアはもう、ソロプレイをすることが少ない。シンとして、そう思っていると


「江利の結婚願望ってどんなんなんだ? やっぱ婚約者ちゃんとエロいことすんのか?」

「え? した方が良いの?」


 疑問の表情の柘雄に二人は戦慄する。そしてそんな様子を眺めてシェリルは嘆息した。甥の顔が見たい、というのはある。だがまだ叔母さんとは呼ばれたくない。そんな複雑な心境だった。


「そもそも結婚したらエロいことって発想がおかしいよね?」

「そうか?」

「新婚なら裸エプロンじゃないのか?」

「……似合わないと思うよ」

「まったくね」


いきなり会話に参戦したシェリルに二人は仰天し、柘雄は頷いた。


「ど、どうして二階堂さんが?」

「柘雄、言ってないの?」

「言うと何かしら面倒なことになりそうだからね」

「そうね」


 高校の一室で、夏休みの補講を受けている。四人が雑談をしながら書いているのを先生が咎めないのは、ひとえに先生が寝ているからだ。余りの暑さに耐えきれなかったようだ。39歳独身の理由が分かった気がする。とりあえず柘雄は窓の外を眺めて


「……元気かな」

「元気よ。2分前にメールが送られてきたし」

「え、僕には来てないんだけど」

「だってエカテリーナからだもの」


 何でやねん。思わず柘雄は関西弁で突っ込んでしまった。


*****


「アリア、何をしているんですか?」

「あぁ、うん。ちょっと《薙刀》でも作ろうかなって思ったんだ」

「はぁ……」


 マグナが戸惑っているとエカテリーナは小さく嘆息して


「アリアは《薙刀》スキルは伸ばしていますの?」

「うん、スキルレベルは最大だよ。後は熟練度だけ」

「やはりスキルポイントが余りますものね」

「うん」


 アリアは素材を見極める。一流の鍛冶師は素材も真剣に選ぶのだ、と内心で考えていた。その手に握られているのは《神極天魔流アスタリスクハンマー》だ。もはや名前が異常だ。アリアだから。


「軸となる柄は《ヒイロノカネ》、刃は《星喰らいの獣の牙》かな?」

「あら、《フェンリル》を倒していましたの?」

「うん、たまたま出会えたんだ」


 《悪魔龍皇》と同じ、いつどこで現れるか分からないそれを狩った者は世界に二人しかいない。そしてその二人は今、会話をしている。

 アリアは素材を見繕いながら考えた。あの《フェンリル》にエカテリーナが勝ったとすれば僕と同等か、それ以上だ。やっぱりそうだ、と思うとやはりライバルって感じがしてくる。


「ってことで作るよ」

「ええ、どうぞ。私は出ていましょうか?」

「ううん、見ていてもらって構わないよ」


 エカテリーナは頷いて壁際の椅子に座った。そしてそのまま僕の手元を眺めていた。

 アリアはそれを眺めながら素材を並べた。そしてそれをそっと眺めて小さくため息を吐いた。


「っし、作るよ!」

「いぇー」

「わぁー」


 棒読みの二人に苦笑しながらアリアは《ヒイロノカネ》を炉に突っ込んだ。


*****


「っし、出来たよー!」

「お疲れ様です、アリア。ですが随分と嬉しそうですね」

「ふはははは! 素晴らしい性能だよこれは! ひゃっほーぅ!」


 アリアはくるくる回転している。その様子を眺めるエカテリーナ、そしてそのアリアの手を掴んで回転を加速させるマグナ。中々にカオスな空間だった。


「……アリア、私にも何か使わない装備を作ってくれませんか?」

「良いけど……どんなのが良いの? 長柄? 飛び道具? 鞭?」

「そうですね……では杖をお願いします」

「え!? 魔法!?」

「ふふふ」


 その後、エカテリーナの要望通りの装備を創り上げ、感極まったエカテリーナとアリアが抱き合うシーンもあったが


「エカテリーナからおいでよ」

「では遠慮なく!」


 地面を蹴り、エカテリーナの杖がアリアの肩に迫る。しかしアリアの握る薙刀が杖を払い、回転して石突きでエカテリーナを狙った。だがエカテリーナも伊達ではない。エカテリーナの杖がアリアの薙刀を弾いた。


「エカテリーナ……」

「ふふふ、長杖ならば槍や薙刀とも戦える、そう思ったんですが正解でしたね」

「むぅ……中々辛いなぁ」

「それはこっちの台詞ですよ。アリアの薙刀、守りに隙が少ないですわ」

「エカテリーナこそ」


アリアとエカテリーナは円を描くように歩いて相手の隙を探る。しかしお互いにそんなものは無い。そうマグナが勝手に思っていると


「っあああぁぁぁぁぁっ!」

「はぁぁぁぁぁあああっ!」


アリアの薙刀が、エカテリーナの長杖が高速で振られた。そしてそれは交差し、お互いの髪を衝撃で揺らした。しかし二人の動くは止まらない。加速して、加速してー―


「そろそろ止めないと引っ込みがつきませんよ」


マグナが止めるまで続いた。

家の電波が悪過ぎる

やはり学校で書くべきか……

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