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双子座の墜ちる時

「さてと、アリアがいないが特に何も変わらないだろうな」

「いや、あの動く的がいないと結構辛いんじゃないのか?」

「さぁな」


 魔王はナイフ二本の柄を握りしめ、ギルドホームの窓から外を眺める。まだ出現していない。だが


「準備をして、出現と同時に高火力の一撃を叩き込め。ベルとシェリル、レヴィとマモンが初撃を。そこから俺たちが追撃する。良いな?」

「良いけどよ、遠距離攻撃スキルがない俺はどうしたら良いんだ?」

「だったら追撃の追撃だ。とりあえず二回の攻撃で行動に変化が訪れるだろうな」


 魔王の言葉に頷きながらシェリルは剣を抜いた。その剣は鏡のようにシェリルの美貌を映している。だが


「近接攻撃は届かないと考えた方が良いのかもね」

「動きにも寄るな……だが双子座だ、獅子座みたいに地面を走り回るタイプでもおかしくないだろう」

「だいぶシュールな気がするんだが」

「走り回る双子を大勢で囲んで……か」

「薄い本ねべっ」

「どうしてそういう発想に行き着けるのか疑問しかないわ」


 レヴィの言葉にマモンはふはは、と笑う。しかしマモンはそのまま目を閉じて


「そもそもレグルスだってニャンニャンをみんなで囲んでぼかすかやっていたんだよ? それと大差ないじゃん」

「……レグルス。お姉ちゃんが戦ったんだよね?」

「そうよ。まだあの頃は私はいなかったわ」


 エミの言葉にシェリルは応えつつ、剣を鞘に収めた。そして杖を抜いて


「魔王、あとどれくらい?」

「そうだな……10分くらいだろう」

「そう……」


 シェリルは少し悩んでいる。それをマモンはそっと見守っていると


「アリアちゃん、今頃どうしているかな?」

「心配?」

「ちゃんと眠れているか心配。まぁ、エカテリーナとマグナとアリアちゃんから何故か同じメールが届いたりしたんだけどね……」


 それはマグナが最初に、そしてアリアがマグナの手助けを得ないで速攻で送ったの、それとエカテリーナがアリアなら送らないだろうから、と思って送ったのの三つだ。だが


「シェリちゃん、その写真のコピーをください!」

「私にも一枚」

「……僕も、良いかな?」

「シンは良いわ。残り二人は何に使うつもりなの?」

「もちろん自分用」

「お父さんたちに見せる」


 なんなのよそれ、シェリルはそう思いながらシンにコピーデータを送信した。そして魔王は席を立って


「時間だ。行くぞ」


*****


 シンは少し困っていた。何故なら自分が配属されたパーティはエミリアとエミ、シェリルとマモン、レヴィのリアルでも関わりのあるプレイヤーたちだったからだ。そしてマモンはさも当然のように


「そろそろアリアちゃん押し倒した?」

「「はっ!」」


 シェリルとレヴィの回し蹴りが左右からマモンの脇腹を打った。地面に崩れ落ちるマモンを見下して


「星獣が来る前になに阿呆なことやってんのよ」

「だからって蹴ることないでしょ……」

「足があるから仕方ないのよ」

「無かったらどうしていたの?」

「殴ってた」


 マモンのモンクを全て無視してレヴィは銃を抜いた。シェリルは剣と杖を、エミは剣と扇を構えた。シンとエミリアは高速の一撃、《居合い》スキルのために刀を抜いていない。だが


「来た!」

「モンスター名、《ポルックス》と《カストル》ね……双子座の由来まんまね」

「そうなんだ、詳しいね」


 エミの言葉にマモンが頬を緩ませている。アリアじゃなくても良いのか、とシンは思いながら地面を蹴った。同時に地面を蹴ったエミリアを追い抜いて、腰の剣に手を添えて


「《居合い・天眼斬》」


 弱点を見極めて放つ。しかしその刀は高速で動き回る《ポルックス》を掠め、《カストル》に至っては掠ってすらもいない。それにシンは歯噛みしている、それを眺めてシェリルはため息を吐いた。足手まとい、と言うべきなのだがシェリルはシンがどうしてそんな失態を晒したのかを知っているからだ。


「――シン、少し我に返りなさい」

「え?」

「《セブンソード・アーツ》」


 一本はシンに、残りの六本は自身とシンを《ポルックス》と《カストル》から護っていた。まぁ、シンに剣が刺さったのは事実なのだが。シンは自分の肩を見つめ、戸惑いながらシェリルを見た。その顔は戸惑い以外の何も無かった。


「シェリル?」

「なに腑抜けてんのよ。アリアちゃんがいないからって」

「……別に、腑抜けてなんかいないよ」

「あっそ。だったらアリアちゃんが帰ってきて、みっともない姿を見られても知らないからね」

「んむっ」


 思わず息を飲んだ、そんな様子のシンを眺めてシェリルは大きくため息を吐いて


「歯ァ食い縛れっ!」

「え!?」


 《カストル》の体にシンが叩きつけられた。そしてそのままシンが振り回され、《ポルックス》と《カイゼル》に次々とダメージを与えていく。

 シェリルはシンを振り回しながら《ポルックス》と《カストル》を攻撃し続けている。シンはすでに何が起きているのかを理解していたが……何故か魔法使いのはずのシェリルの握力が強く、抜けられない。しかしシンが何かを言うよりも速く、シェリルはシンの腰の刀を抜いて


「《ダブルテンペスト》!」


 高速の16連撃。どうしてシンがシステム的にも剣扱いされているのかはAIマグナの悪のりとしか言えない。そして迫っていた二体を弾き返して……シンを地面に叩きつけた。


「っ!?」

「いい加減にしなさい。アリアちゃんを欲しければ私を越えて行きなさい!」

「……」

「アリアちゃんにそんな姿を見られて、呆れられても知らないよ」


*****


 っち、と舌打ちをしてしまった。それをシンが少し悔やみながら顔の真横に刺さっていた刀の柄を掴む。そのまま体を起こしつつ、刀を引き抜いて目を閉じた。

 アリアがいない。寂しい。腑抜けている。あぁ、そうさ。腑抜けないはずがない。


「……アリア」

「名前を呼んでもアリアちゃんはもう、いないのよ」

「……その言い方だと、まるで死んだみたいだね」


 少し呆れながら刀を鞘に収める。そしてそのまま目を開けて


「っはぁっ!」


 《居合い》スキルではない居合い。しかしそれは《カストル》の左腕を斬り飛ばした。そしてそのまま手首を返し、右肩を刺し貫いた。

 直後、蹴りかかってきた《ポルックス》の攻撃を避けるため、一歩下がった。その勢いのままに納刀し、腰をかがめる。溜めて――踏み出した。そのままの居合いで


「《カストル》は全損ね……アリアちゃんへの渇望がここまでとはね」

「下卑た欲望だったら?」

「(規制音)を切り落とす」


真顔のシェリルに問いかけたマモンの表情が固まった。


*****


『あら、ツゲオと同居していませんの?』

「うん、してないよ」

『何故?』


えーっと、とアリアは思った。いや待て、そもそもどうして私は責めるような瞳で見つめられているの?


『恋人と結婚する前に同居しないといけません。これは私からの絶対の指示です』

「え? 同居?」

『相手のことをよく知るために必要ですのよ……まぁ、勢い余って妊娠してもそれはそれでありですわね』

「妊娠……子供……ツゲオの?」


両手を頬に当ててきゃー、と悲鳴を上げるアリア。その様子を眺めてエカテリーナはさっさと結婚しろ、と思った。

次回、柘雄爆ぜろ

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