虚しい勝利だ……
「アリア、とりあえず一旦体勢を立て直しましょう」
「立て直した方が良いのかな?」
「良いと思いますよ。これからはもっと激しくなりますからね」
そうなんだ、とアリアは思いながら装備を確認する。耐久も大して減っていないし、ということで
「マグナは弾丸の補充はしなくて良いんですの?」
「はい。まだまだ余裕がありますから」
「ならば構いませんわ」
エカテリーナは細剣の柄に手を当てて、頷いた。アリアも二本の剣の柄を撫でて、マグナは銃をホルダーから抜いて
「行きましょうか」
*****
アリアの剣が噛まれた。咄嗟に手首を捻ってその牙ごと頭を切り裂いた。そしてそのままもう片方の剣で眼を刺し貫いた。
「そんな様子をエカテリーナはのんびりと眺めていた」
「あら、マグナもでしょう?」
「そうですね」
二人で笑いながらアリアの奮闘を眺める。またしてもアリアの握る剣が噛みつかれている。それを振り解いてアリアは《火山龍》を斬り倒した。さらに続けて《火山龍》を斬り倒すが
「多いよ!?」
「ふふふ」
「無限沸きのようですね」
「もしかして全層無限沸き!?」
「ままままさかそのようなことが」
「ぬぁーっ!?」
アリアの蹴りが《火山龍》の顎を砕く。そして一撃で全損したのを無視して蹴り続けている。
「無限沸きって設定するのにどれだけお金がかかりましたっけ?」
「10Gですわね」
「意外とかかりますね」
「アリアの作ったダンジョンでは無限沸きはあるのでしょうか?」
「ありそうですね。まだ攻略しきっていないので分かりませんが」
「九州に行ったら挑まないといけませんわね」
二人が談笑を続けていてもアリアは戦い続けている。そして
「エカテリーナ、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
マグナの弾丸とエカテリーナの細剣が《火山龍》を沈め始めた。そしてそのままアリアが奥の扉を開けて
「マグナ! エカテリーナ!」
「分かっていますが……きりが無い!」
「各個撃破ですか……AIながら見事ですね」
「この程度、私ならもっと効率よく出来ますよ」
「あぁ、そうですね」
「良いからさっさと行ってよ!?」
必死に扉の前で戦っているアリアに謝りつつ、二人は悠々と扉を潜った。
*****
「前衛をどうしよっか。さっきまでエカテリーナはのんびりしていたから戦いたいんじゃない?」
「まぁ、そうですね。マグナはどうしますか?」
「私は必要とあらば援護しますよ」
そう言うマグナに頷いて、私は扉を開けた。そしてそのまま歩いて剣を抜く。アリアが作ってくれた最高の剣、《春雷》、それを九州に行った際に鍛えてもらった《春雷真打》だ。
「あぁ、久々にこの剣を振るえますわね」
「何、縛りプレイでもしていたの?」
「いえ、これが強過ぎるだけですわ」
エカテリーナは艶然と微笑みつつ、それを振るった。そして振るったモーションのまま前にでた。真下から切り上げるモーションの細剣を受け止めようとする《王》。しかしエカテリーナの動きが加速した。
《春雷真打》の特性の一つ、《過剰加速》。必要以上に加速してしまい、制御が難しい。だがエカテリーナは使い熟せる。
《王》は握っている棍棒が切り裂かれたのに動揺し、そしてそのまま真っ二つにされた。そしてその背後に潜んでいた《暗殺者》を刺し貫いて、エカテリーナの背後から迫ってきていた《騎士》を回転して蹴り飛ばした。
そしてそこで我に返ったのか
「私が創ったダンジョンを私が戦闘で攻略させますの!?」
「はは、今さら」
「今さら過ぎますね」
アリアは笑いながらその拳で《拳闘士》の拳を受け流し、懐に飛び込んだ。そしてそのまま地面を蹴り、飛び上がり、アッパーカット。決して身長が足りないから飛び上がったわけじゃない。
アリアはそう自分を誤魔化しながら回し蹴りで《剣士》の持つ剣を蹴り折って、さらに遠心力を乗せた二段目の回し蹴りで蹴り飛ばした。
「マグナも働いてよ」
「働きたくないでござる」
「どこからその知識を得たのさ!?」
「ふふふ」
「謎過ぎるよ……」
「「アリアが言いますか(の)?」」
「むぅ」
少し拗ねたアリアは背後から音も無く近づいてきていた《暗殺者》を殴り潰した。さらにそのまま蹴りで《舞踏士》を壁に叩きつけた。そしてアリアはため息を吐きながら
「さっさと進もうよ。もうこの辺りにも飽きたし」
「そうですね」
5分後
「で、ここの中ボスがエカテリーナなの?」
「正確には私のデータをコピーしただけの存在、《結晶の塔》のボスと同じですわ」
「じゃ、弱いんだね」
「……まぁ、そうとも言えますわね」
エカテリーナは少しだけ目を閉じて、剣を鞘に収めた。そしてマグナの肩を叩いて
「アリア」
「うん、分かっているよ。エカテリーナを倒すのは僕の役目だって」
アリアはエカテリーナの手で髪の毛をくしゃくしゃにされながら剣を抜いた。その剣の名は《無銘真打》、エカテリーナの《春雷真打》に対抗するために創り上げた処女雪のように純白の細い剣だ。
「ん」
アリアが地面を蹴った。それはもう一人のエカテリーナの反応速度を上回り、背後に移動するまで反応されなかった。そして振り向かず、前に出ながら振り向くエカテリーナ。背中を切ろうとしたが避けられ、アリアは少し驚いていた。
突きが飛んできたのを避け、その剣に《無銘真打》をそっと当てる。そのまま引いて剣身を斬り飛ばした。そして空いている片手を胸に向けて、アリアのと比べて豊満なそれに叩きつけた。まるで揺れたのを憎々しい、とでも思っているかのように。さらに続けて胸に蹴りを放ち、吹き飛ばす。
「アリア……」
「まるでおっぱいに恨みでもあるみたいですね」
「ええ……アリアの絶壁は良いものですのに」
マグナがぎょっとしている、それにエカテリーナは気づかずに自分自身のコピーが打撃で次々とダメージを受けているのを眺めていた。さらにアリアは地面を蹴り、頭から胸に飛び込んだ。そして壁に叩きつけた。そこからまた地面を蹴り、跳び上がった。下から上に跳ねるそれをアリアは睨み付け、サマーソルトを放った。
「……虚しい勝利だ」
ぼそり、と呟いたアリアを二人は温かい眼差しで見守っていた。
*****
「そういうわけで強くなりたいんです!」
「私の修行は厳しいよ」
「承知の上です!」
「ならまず死ね」
「予想以上に厳しい!?」
何でやんばるさんのネタなのよ、と思いながらレヴィは二人のやり取りを眺めていた。剣と扇を使うエミにエミリアが剣を教える、それは良いだろう。だが
「どうしてエミリアなの?」
「だってエミリアはお姉ちゃんより歳上だし」
判断基準が分からなかった。そしてエミは頭を下げて
「お願いします!」
「……良いわよ。でも、手加減はしないから、そこから学び取ってね」
エミリアはそう言い、腰の剣を引き抜いて
「構えなさい」
「っ、はい!」
謎のテンションの二人が激突する前に、レヴィは二人を表に放り出した。
日常で使える言葉「虚しい勝利だ……」
次回はエカテリーナのダンジョン、深層へ
感想ください




