ロシア
「うーん、やっぱりいつも雪が積もっているわけじゃないんだね」
『ええ、もちろん。日本だっていつも桜が咲いているわけではないでしょう?』
「まぁね」
アリアは窓から覗く景色に驚いている。日本みたいにごちゃごちゃとした建物は少なく、石などで作られた建物が多い。
「ロシアって硬そうなイメージがあったよ」
『どんなイメージをしたらそうなりますの?』
「ロシアって漢字で書くと画数が多いんだよ」
『はぁ?』
謎のアリアの言葉にエカテリーナが戸惑っていると
「エカテリーナ、お久しぶりです」
『あら……その声はマグナですの?』
「はい、エカテリーナ。お久しぶりです」
『お久しぶりですね、マグナ。ところでどこにいるのでしょうか?』
「ここですよ、ここ、ここ」
エカテリーナはきょろきょろ、と辺りを見回して……アリアの手に装着されている腕時計型デバイスを見つめる。そして
『ここですか?』
「そこですよ」
エカテリーナが納得と同時に疑問を抱いていると運転席と座っている席を隔てているアクリル板が動いて
『お嬢様、そろそろ着きますよ』
『あら、もうそんなに時間が経っていたんですの? 楽しい時間こそ速いものですね』
「だねー」
「まったくです」
アリアは荷物を運転手さんに降ろしてもらい、自分で運ぼうとしてやんわりと断られ、頬を膨らませていた。そしてその頬をエカテリーナが突いて
『ふにふにしていますわね』
「私もいつかしてみたいですね」
「むがーっ」
アリアは荷物を持っているため、何も出来ない。そしてアリアのそんな声を二人は笑い、そのまま門番が門を開けるのを眺める。
「……あのさ、エカテリーナ。ひょっとしてエカテリーナの家って貴族とかそんな感じ?」
『どうでしょうか? そういったのは聞いたことがありませんね……ですが言われてみれば確かにそんな気もします』
「エカテリーナの名字はなんですか?」
『ゴルバチョフですわ』
「……貴族ですね。爵位の記録まで探りますか?」
『いえ、そこまでは良いですわよ。それよりもさっさと荷物を置いて今日は休みましょう、アリアも疲れているでしょう?』
慣れない飛行機に疲れていたアリアは少し、ばつが悪そうに頭を掻いた。そして
「しばらくお世話になります」
『お気になさらず』
*****
「アリア、晩ご飯はどうでしたか?」
「うん、美味しかったよ。日本じゃ食べたことが無い味だった」
「寒い地域ですからね、色々あるんですよ」
マグナの言葉に頷きつつ、アリアは鞄の中から着替えを取りだした。それをベッドの上に置いて
「マグナはどうだった? こっちに来て」
「そうですね、強いプレイヤーが結構いるようです」
「ソーニョやってたんだ」
アリアは呆れながらマグナを、時計型デバイスを操作する。何かお土産向きの物を探していると
こんこん
『アリア? 準備は出来てます?』
「うん、出来てるよ」
『マグナはどうしますか?』
「そうですね……ソーニョの方でお待ちしております」
『あら、長風呂はできませんわね』
エカテリーナは扉の外で待つ姿勢を保つ。アリアが荷物を持って扉を開け、
「エカテリーナは何か持って行かないの?」
『ええ。ここは私の家ですもの。すでに準備してありますわ』
「用意周到だね」
『用意周到……ジャパニーズ特有の言い回しですわね』
「四字熟語だよ」
ロシアには四字熟語の文化は無いようだ。そう思いながら諺と言いながら長い廊下を歩く。
『アリア、こっちですわよ』
「まるで迷路だよ……」
『ならば、ダンジョンと思えば良いのですよ』
「……あぁ、そうだね。その手があったね」
エカテリーナはアリアの気配が代わったのを感じ取った。そして
「そうだね、ダンジョンなら僕の得意分野だ」
『まぁ、モンスターもいないただの迷路ですけどね』
「……ま、それもそっか」
アリアは少し、つまらなそうに呟きながら歩いてーー
「うっわ、でけぇ」
『アリア、服を脱いでからですわよ』
「分かってるって。着衣泳なんて体育だけで充分だって」
『あら、そんな文化がジャパンにはありますのね。面白そうですわね』
「そんな素敵なものじゃないよ」
アリアはそう言いながら服を脱いだ。そしてそれを見て、エカテリーナはほろり、と涙を流した。なんと慎ましい……、と。そしてアリアは何故エカテリーナが泣いているのかが分からず、首を傾げていた。
*****
「リンクイン」
『リンクイン』
「リンクイン」
三人で同時にログインする。エカテリーナの、ロシアのサーバーに足を踏み入れる。まぁ、例えロシアのサーバーだろうと景観は同じだ。
「来ましたね、アリア」
「あ、マグナ。そっか、もう二度目だったね。先に来ていてもおかしくないか」
「ええ。それよりもエカテリーナはどこでしょうか?」
「エカテリーナがどこに拠点を構えているか、によるよね。それよりも……この雰囲気、慣れないね」
「そうですか? 私は心地良いですよ」
「そりゃ滅法素敵だね」
注目されている。世界最強のプレイヤーは注目されている。それにアリアは手を振りながら応えていると
「相変わらずアイドルみたいですわね」
「でしょ?」
「アリアはすぐ調子に乗る……」
マグナは肩を竦めつつ、エカテリーナを見つめた。その装いはまるで
「魔法使いのようですね」
「最近、《魔法》スキルを育てているんです。どう? 似合います?」
「うーん、ローブとフードのせいで分かり辛いよ。スカートなの?」
エカテリーナは頷きつつ、ローブの前のボタンを外した。そこには若草色のシャツと深緑色のスカートが。
「むむむ」
「どうしました?」
「可愛いね」
「ありがとう、アリアも可愛いですよ」
エカテリーナは少し笑顔を浮かべ
「それでは行きましょうか」
「うん、そうだね。でもエカテリーナの作ったダンジョンだからきっと難しいんだろうね」
「ええ、もちろん最高難度に仕上げましたわ」
ちなみにそれはエカテリーナもクリアできていない。それをアリアは知らないし、エカテリーナは言わない。だけどこのダンジョンは経験値やアイテムが良いからプレイヤーたちはよくここに挑んでいる。
「アリア、装備はきちんと用意して挑んでくださいな」
「エカテリーナはどうするの?」
「私も挑みますよ」
「エカテリーナが作ったんでしょ?」
エカテリーナは笑って誤魔化した。それにアリアは気づかず、マグナは何も言わずに黙っていた。
「前衛をアリアと私が、後衛をマグナが。良いですわね?」
「うん、良いよ」
「中衛がいないのは不安ですが……まぁ、アリアたちなら大丈夫ですね」
そう良い、そのダンジョンに向かって歩いていると天高く聳える塔が見えてきた。《結晶の塔》だ。
「エカテリーナの作ったダンジョンって地下にあるの?」
「もちろん違いますわ」
「だよね、エカテリーナは高層建築物が好きだもんね」
「ええ」
アリアとエカテリーナは長い付き合いがあるようだ、とマグナが思っていると一人の女性プレイヤーが近づいてきた。
「あら、アリア目当てですわね」
「ん……僕、何もしてないよね?」
「「ははは」」
「ええ!?」
二人の反応に何かしたっけ、と思わず考え込むアリア。しかし相手のプレイヤーはそれに構わず
「私と手合わせしてください!」
そう頼み込んできた。
ロシアって大きいってイメージと雷帝イワンくらいのイメージしか無い
あと寒い
はい、というわけでロシアにアリアたちは来ております
装備している、所持しているアイテムのデータはありますがカーマインブラックスミスに置いてきた装備は持ってきておりません
次回、エカテリーナのダンジョンへ~最後のプレイヤーは噛ませ犬~




