狼
「エカテリーナ、どうしたの?」
「いえ、ジャパンで予選が始まるそうですから」
エカテリーナはギルドメンバーが各々自由に過ごしている中、生中継を見ていた。
「さぁ、アリア。またあなたと剣を交える時が来ましたわ」
エカテリーナは詠うように呟いた。
*****
「さてと、どうするの? 1回戦の相手は《聖堂騎士団》らしいけど」
「そうだな……エレナたちは数が多いからな。俺たちとは大違いだ」
「そりゃ少数精鋭ってやつだろ」
アスモの言葉に魔王が笑みを浮かべていると
「魔王、俺は活躍出来なさそうだから行かせてくれ」
「ジャック……何を考えているんだ?」
「おいこらどういう意味だ」
「そういうことなら俺も行こう。ジャック一人じゃ荷が重いだろうな」
「おいこらどういう意味だ」
「言葉通りの意味だ」
ブブとジャックのやり取りを眺めているアリア、その頭の上でひよちゃんが丸くなって寝ていた。ちなみにその様子はマモンが動画として保存していた。そしてシェリルとシンと共有していた。
「それじゃジャックとブブ、あと二人くらい出て欲しいんだが」
「だったら僕が」
「アリアは最後だ。アスモ、シエル。行けるか?」
「ん、良いぜ」
「構わないけどよ、魔王はいつ出るつもりなんだ?」
「気が向いたらだ」
いつだよ、とシエルは思いながらすでに始まっている九州予選大会の動画を眺めていた。ちなみに《魔王の傘下》は九州予選では最後の方だ。だからこそのんびりとしている。
「ん、スカイたちか」
「相手は無名だねぇ」
スカイとガイアは前線に立っていない。他の名前も知らないプレイヤーたちが正面から突っ込んでいき、殲滅をしていた。圧倒的なそれを見て、エミが少しビビっていた。
「ず、随分と総力戦な感じなんですね。思っていたのと違いました」
「そうか? スカイたちはまだまだ手加減をしているけどな」
「え!? アレでですか!?」
こう言った戦闘を経験していないアリスは戸惑いの声を上げる。しかし周囲の誰も戸惑っていないのを見て絶句していた。
「良くも悪くも少数精鋭だからね。僕だってあの程度ならあっさりとやれちゃうよ?」
「言われてみればそうですね。人数が多いだけって言えますね」
アリスはそう言うが、アリスが思っていたのはスカイたちに殲滅された方だった。しかしアリアが言っていたのは両方の合計だった。そして時間は流れーー
「さてと、そろそろだな」
魔王が呟いた瞬間、全員が光に包まれて……大きな森の中に立っていた。そして
『続いての試合は! 誰もが認める最強ギルド! 半数以上がカンストと言う凄まじいプレイヤー、総勢20人にも満たないにも関わらず、圧倒的な存在感! 《最強》アリア! 《魔王》ディアボロス! 《天魔弓》マモン! 三人を筆頭のそのギルドの名は《魔王の傘下》っっっ!!』
「ふん……まるで芸能人だな」
「俺ら、一切何も言われなかったな」
「まぁ、あの三人は嫌でも目立つしな」
「え? 私って目立ってないの?」
レヴィの言葉にみんなで笑いつつ、相手が登場するのを待つ。
『対するは入団者に装備を調えさせる優良ギルド! 総勢500名を超えるギルドを束ねる団長、《聖女》エレナに率いられるそのギルドは! 《聖堂騎士団》っっっ!!』
「総勢500人を超えるらしいぜ」
「うちの何倍だっけ?」
アリアが指を折りながら計算をして
「25倍?」
「よく出来たわね、アリアちゃん。はい、飴」
「ありがとー」
ステータス向上の飴を軽々と渡すマモン、それを躊躇無く口に放り込むマモン。そして
「酸っぱいよぅ」
「あっははははは」
「むぅぅ」
アリアは口の中で飴を転がしながら、頬を膨らませる。それを見てマモンは高笑いをしている。
「……魔王。良い試合にしましょう」
「殲滅するつもりは無い」
「鋭意、努力しましょう」
エレナはにやり、と笑って魔王と握手を済ませた。そしてそのまま踵を返し、自軍へと戻って行った。
「魔王、挨拶くらいちゃんとしなよ」
「こちらからは四人しか出さないんだぞ? 良い試合かそれは」
「……エレナたちは弱くないよ」
「強くもないよ」
アリアの呟きをばっさり切り捨てるマモン。それにアリアはため息を吐いて
「シエルとアスモ、ジャックとブブが出るんだよね?」
「ああ、その予定だ。だが万が一にも負けそうになれば遠慮なく頼れ」
「分かってるっての」
「まぁ、なんとかなるだろ」
「負けはせんさ」
「……ふん」
それぞれが得物を握りしめーー
『試合、開始っっ!』
*****
指揮系統を潰すのが戦いにおいては重要だ。だがそれを気にする者はいなかった。四人が四人とも、目につく者へ仕掛けたからだ。
「シエル……久しぶりですね」
「そうだな。エレナが元気そうで何よりだ」
「今からあなたに元気を奪われると思うんですけどね……」
エレナはそう言いながら剣と盾を構えた。そしてそのまま腰を落として
「《聖堂騎士団》リーダー、《聖女》エレナ」
「《魔王の傘下》下っ端、《双大剣》シエル」
「参ります!」
飛び込んできた。シエルは若干不思議に思いつつ、大剣を振り下ろした。一撃必殺の威力を孕んだそれはエレナの持つ《聖女の聖盾》に逸らされた。そして突き込まれる細剣。だがそれはさらに振り下ろされたもう一本の大剣と打ち合い、阻まれた。
「っ!」
「おらよ!」
大剣二本での交差斬り、しかしそれはつっかえのように差し込まれた細剣に止められた。
「へぇ、止められんのか」
「結構ギリギリなんですけどね……っ! はぁっ!」
つっかえが抜けた。それにシエルが少し蹈鞴を踏んだ、その瞬間、顔面に向けて突きが放たれた。
「っ!? マジか!?」
「あなたが思っているほど私は弱くありません!」
「……いや、正直私も強い方じゃないんだけどよ」
「ご冗談を」
エレナは息を整えつつ、盾を構えた。その体が隠れる程度には大きな盾、それを突破する方法はーーある。だから
「悪い、エレナ。手加減止めさせてもらうぜ」
「構いませんよ!」
エレナの突きを大剣の腹で受け止めて地面を蹴って背後に跳ぶ。靴が地面を削る感触を心地良く思いながらーー両手を空にする。空に浮いた剣をエレナが見上げている。そして
「《ヴォルフ》!」
「っ!? 《変身》スキルですか!」
「ご名答!」
シエルは笑った。その様相は銀色の髪に銀の耳、金の瞳。そして銀の尾が生えていた。
「狼!?」
「ははっ!」
シエルの姿が霞んだ。エレナは直感的な衝動で盾を突きだした。するとその盾に強い衝撃があり
「っ!?」
吹き飛ばされた。その最中、シエルが剣を掴んでいるのが見えた。見えたが
「速い!?」
「狼だからな!」
「っ、《リンク》!」
視界内の動きが急激の遅くなった。だが
「まだ届かない!?」
「っち!」
剣を剣で逸らし、盾で剣を逸らした。そのままエレナの剣がシエルを貫こうとするがーー
「悪い、技術じゃ敵わないからステータス任せだ」
「……それも一つの力でしょう」
エレナはその拳を細剣の柄で心臓から逸らしたがーー逸らしきれなかった。そして肺を打たれ、
「……やはり、強いですね」
「お前もだよ」
シエルは半分以上減っている自分の体力を眺めながら、光となって消えるエレナを見送った。
テスト前だろうと更新は続ける
それが私のジャスティス(受験前? 知らんな)
とりあえず単位を落とさない限り更新は続ける
そして最終話の構想はようやくできあがったよ
次回はジャックたちの戦闘場面となります
そしてシエルの下っ端というのは実力的なものです
技能は無く、力任せにぶん殴るスタイルなのでエレナが同ステータスなら負けていました
六月ですよ六月
もう梅雨が来ますんで皆様、洗濯物にはお気を付けください




