三つどもえ
「何だあれは!?」
それを見ていたプレイヤーは思わず叫んだ。真紅の瞳に純白の髪、そしてその頭から生える二本の長い白い耳。まるで
「兎……か?」
「っ、やれ!」
「まだ終わってないぞ!」
魔法が放たれた。しかしその兎の動きは変わらなかった。ゆらり、と揺れながらゆっくりと近づいてきている。そしてーー
「《アストライアー》」
ぼそり、と呟かれた。そして魔法が着弾してーー爆煙が一瞬で晴れた。そこに広がっていたのは純白の翼。四対の翼。
「何故ダメージを受けていないんだ!?」
絶叫のような叫び、それを聞いて一人は気づいた。
(まさか《アストライアーの羽衣》の変化を利用して!?)
変化にはプレイヤー自身の状態が一瞬固定される。それはつまり、ダメージを受けるのが本来としてもダメージを受けられないのだ。そしてその兎はそれを利用して
「死ね」
憎悪に満ちた言葉を吐き、一人を切り刻んだ。両手両足が失われた。だが
「死ねない!?」
「死なせないけど死なせてあげる、何度も何度も切り刻まれてーーエミの苦しみを受け止めろ!」
兎は真紅の瞳を爛々、と輝かせて叫んだ。
*****
「マモン、そっちはどう?」
「全部生け捕りにしたよ……殺したいのを押さえるのが大変だったわ」
マモンは縛ったプレイヤーたちを放り投げた。それは地面に激突し、苦しげな声が聞こえた。
「そのままむさ苦しさを味わっていなさい」
「や、随分落ち着いたみたいね」
「……ま、色々したからね」
マモンは顔を逸らす。そして
「急所を蹴り上げたなんて言えない……」
「言ってるでしょ……でも私、それしてないからしよっと」
ゼウスとトールの股間が高威力の蹴りを受ける。その感触にシェリルが笑みを浮かべていると
「っがぁぁぁぁぁぁぁ!」
獣のような叫びが聞こえた。それにマモンは尖っている耳をぴくぴく動かして
「アリアちゃん、ぶち切れ中みたいね」
「いつも通りじゃないの。それよりもこいつら、どうするの?」
「エミちゃんに止めを刺させましょう。私たちはもう充分やったからね……」
「なら私がやるわ」
「それなら私が」
そうマモンが言った瞬間、純白の閃光と真紅の閃光が森の中を駆け抜けた。次々と倒れる木に二人が警戒していると
「アリアちゃん!?」
「シェリ姉……邪魔するなら斬るよ?」
「……マモン、これどういうこと?」
「さぁ?」
「邪魔するの?」
「え!? なんのこと!?」
「邪魔するならシェリ姉だって!」
アリアの姿が加速した。そして目の前で剣を振りかぶっている。咄嗟に蹴ろうとするが
「残像!?」
「遅い」
背後からの声に慌てて前に跳ぶ。そしてそのまま体勢を立て直して
「《サウザンドソード・メテオ》!」
「シェリちゃん!?」
「マモン! アリアちゃんを止めるのを手伝いなさい!」
「あぁもう……分かったわよ!」
矢が放たれた。千本の剣が降り注いだ。しかしそれらは一本もアリアに当たらない。何故ならアリアがそれら全てを避けきっているからだ。そして
「邪魔をするなら斬る!」
「邪魔しなかったらあいつらを殺すつもりでしょ!」
「それの何がいけないのさ!」
「それは私がするからよ!」
「え? 私がするつもりだったんだけど?」
マモンと目が合い……
「《サウザンドソード・メテオ》!」
「《ミーティア》《メテオ》《スプレッドアロー》!」
「秘剣二刀流の型ーー鉞!」
千本の剣がアリアとマモンに迫る。それを正面からマモンは撃ち墜とし、その隙を狙って動くアリア。マモンに迫る剣をシェリルは防ぐ。
謎の三角関係が出来上がっていたそれを見て一箇所に纏められていたまだ生きている《オリュンポス》のメンバーは愕然とする。今までに最強ギルドだった自分たちが比肩するのすらかなわないと理解できるほど、その三人の戦闘は圧倒的だったのだ。
誰もいない方向に矢を放つと、当たろうとしているかのようにアリアがそこに移動する。何もないのにシェリルが避けると、そこにアリアの斬撃が通る。一歩先を行くどころではない。
「なんなんだよ……」
トールは呻いた。すると
「これ、とってよ」
「……え?」
「だーかーらー私をとっとと解放して!」
「あ、ああ」
慌ててトールがエミを縛っていた縄を解くと
「……許さないからね」
「……ああ」
エミはその返事に満足したように頷いて
「装備、返して。全部あんたが持っているでしょ」
*****
「っ、邪魔だよ!」
「アリアちゃんがね!」
マモンの蹴りとアリアの剣が交差し、剣が止められた。そのまま勢いを乗せた回し蹴りで小柄な体が浮くが
「《セブンソード・メテオ》!」
「ち、シェリちゃんも邪魔よ!」
七本の剣がマモンを切り裂こうと迫る。しかしマモンは恐るべき反応速度で一本を射貫き、それの爆発を使って誘爆させ、七本全てを消し飛ばした。しかし
「っらぁっ!」
木を蹴って高速で剣を振り下ろすアリア。マモンはそれに反応しきれずに一撃を受けるが
「惜しい惜しい」
「っ!?」
「至近距離過ぎて無理、でしょ?」
顔面の矢を放った。殺すつもりだった。だが
「《レインボーソード・メテオ》!」
一本の虹色の剣が飛んできた。それはアリアちゃんを殺すと確実に当たってしまう軌道だった。だから咄嗟にアリアちゃんの体を投げる。肩から剣が抜ける気持ち悪い感触があるが避けた。しかし
「っ、《エウローペー》!」
「《レインボーシールド》!」
反射された虹色の剣が、虹色の壁と激突した。そして広範囲にわたる大きな爆発を起こした。誰もがダメージを受けたが全損していない。だからこそアリアたちは再び激突した。そして
「秘剣星の型ーーアンドロメダ!」
「星降ル夜ニ!」
「《サウザンドソード・メテオ》!」
高速の剣戟、天高く射た矢が降り注ぎ、千本の剣が津波のように迫った。そしてそれは同時に激突し、爆発が起きた。何も見えないほどの濃煙の中でもまだ、戦いの音は続いている。
「あぁっ!」
「はぁっ!」
「せやっ!」
二本の剣と双剣、それと創られた虹色の剣が斬り結ぶ。下からの切り上げを双剣が防ぎ、高速の突きを二本の剣が阻んだ。拮抗しているかのように見えるそれはーー即座に終わった。アリアが柄で双剣を叩き落とし、シェリルの手首を蹴りあげた。
そのまま連続斬りが放たれようとしたがーーそれは、アリアが避けたことで不発に終わった。妨害したのはマモンじゃない、シェリルでもない。一つの扇だった。
「……何の真似かな、エミ」
「お姉ちゃんたちが喧嘩しているから止めようと思っただけ。ダメかな?」
「ダメじゃないけど邪魔だよ。斬るよ?」
「斬れば?」
エミの言葉にアリアは頬をひくつかせて
「随分と言うようになったね……斬らせてもらうよ」
「あっそ。シェリ姉、マモン!」
「え?」
「なに?」
「お姉ちゃんを倒す、手を貸して」
「はぁ?」
「んー?」
「貸しなさい!」
「「はい!?」」
エミの低い声に二人はビビった。だから思わず頷いてしまった。そしてそれをアリアはぼーっと眺めて
「で? 結局三人が相手なの?」
「うん、そうだよ」
「なんで?」
「あいつらを斬るのは私がやるから」
「ふーん……なら、良いや」
瞬間、アリアの姿が掻き消え、エミの背後で剣を振りかぶっていた。
いやはや随分と長く続いているなー
とりあえず次回はアリアvs3人をお送りします
とりあえず明日補講があるからこの辺りで




