オリュンポス
「アリアちゃん、《種族》はどうしたの?」
「うん、獸人にしたよ」
「ケモ耳アリアちゃん?」
「ケモ耳アリアちゃん」
マモンが謎の踊りを見せる。どうしてそんなに回転しているのか、とアリアが思っていると
「それでアリアちゃんは《召喚》スキルは習得したの?」
「うーん、まだかな。買う予定は無いよ」
「そうなんだ。ま、アリアちゃんにはひよちゃんたちがいるからね」
「うん、そうだよ」
ルフの毛皮に埋もれつつ、アリアは返答する。ちなみに顔は埋もれていて見えない。ついでに言うとカーマインの髪しか見えない。
*****
「マモン、どう変わったの?」
「ん、ん……ちょっと視界良好になったかな。後は木が邪魔なんだけど勝手に避けてくれるんだよね」
「ほっほーう」
アールヴとも言う種族、エルフ。マモンが選んだ種族はそれだった。そして
「うん、弓補正があるみたいね」
「凄いなぁ。随分と強い種族補正だねぇ」
「ま、時間は短いけどね」
マモンはそう言いながら尖った耳を指で触った。そしてぽふん、と小爆発を起こして人間の姿に戻った。そして
「変身ゲージは3分くらいみたいね」
「うーん、時間制限がある強化みたいだね」
「ま、《種族》スキルを伸ばせば時間も強化も変わるみたいだけどね……」
マモンはそう言いながら尖った耳の跡地、丸い耳にかかる髪を引っかけた。そこになんとなくアリアは憧れを感じ、真似してみたが
「むぅ……何かが違う気がする」
「そうね。アリアちゃんの髪は下ろしていないからね。下ろしていても似合うとは思うんだけどね……」
「だったらマモンが弄ってよ。マモンが可愛いアリアちゃんにしてよ」
「むむむ、可愛いのだったら今のままが良いな。でも綺麗が良いのなら下ろす感じ?」
そして5分後、鏡を前にして何度も耳に髪を掛けるアリアの姿が。しかしそれを見たプレイヤーの感想は
(またアリアが変なことをしている)
といった感じだった。
*****
エミは一人、森の中を歩いていた。せっかくの夏休み、今までに知らなかったエリアに足を運んでみようと思っていたからだ。
とりあえず剣と扇を腰に佩いて歩いていると早速モンスターが現れた。だから剣を抜き、片手で構える。そしてそのまま一足飛びに懐に飛び込んで
「んっ!」
ずばん、と音を立てて斬り倒した。さらに続けて振られる剣を避けて
「《スターダストスラスト》!」
高速の連続斬りでモンスターを斬り倒して……周囲に何も残っていないのを確認して腰の鞘に収める。そして
「スキル、使わなくて良かったみたい……はぁ」
姉はまだ遠い。そう思いながら森の中に足を踏み入れていくと
「っ、囲まれた!?」
ギリギリになるまで《探知》と《感知》が反応しなかった。それはつまり相手が《隠蔽》系統のスキルを習得しているからだ。と、いうことは
「プレイヤー……それも、多い」
アビスとの一件で学んだ。それはプレイヤーの誰もが良い人では無いということだ。主に姉。だからこそエミは逃げだそうとしたが
「っ!?」
「逃がさねぇよ!」
「《パラライズバレット》!」
「《パラライズアロー》!」
「っ、《巨扇防扇》!」
咄嗟に抜いた扇が巨大化し、盾のように弾丸や矢を防ぐ。しかし
「網!?」
「やれ!」
網を避けるべきか、一瞬悩んだ隙にエミの小柄な体は網に覆われていた。そして
「この網は麻痺毒が塗ってある針で編まれているのさ」
そんな声が聞こえた。計画されたPKだ、とエミは思いつつ、逃げ出す隙を探していたがーー何故か録画が始まった。PK共がそのプレイヤーに向かってピースとかはしゃいでいるから間違えようがない。そして
「これから処刑を開始しまーす」
屑が。エミは動かせせない口でそう口汚く罵った。
*****
「アリアちゃん⁉︎ どうしたの!」
「……」
アリアちゃんの表情が変わった。昔の狂ったように強くなろうとしていた時期のような表情に。
まずい、と思いアリアちゃんの頭を抱きしめて
「どうしたの?」
「ふぇふぃふぁふぁふぁふぇふぁ」
「ふぇふぃ?」
日本語に聞こえないので口を開放すると
「エミが狩られた」
「……そぅ」
マモンの雰囲気が変わった。一番怖い時のマモンだ。アリアはそれに気付き、ブルリ、と体が勝手に震え始めた。そして
「どこで? いつ? 誰に? どうして? どうやって?」
「ちょ、落ち着いてよ、マモン。もうエミはどこかの街にリスポーンしているんだから」
「……馬鹿なの? 途中で街の中に運ばれていたのを見ていないの?」
「見たけど……それが?」
「リスポーン地点を押さえられたのよ。もう、エミちゃんに自由は無いかもしれない」
マモンはそう言い、窓を開け放った。そしてそのまま
「羽ばたけ、《アストライアー》!」
「あぁもう……《アストライアー》!」
そして、《天高く聳える塔群》にいたプレイヤーたちは空を飛ぶ天使を二体見た、という噂が立った。
*****
屑共が。もう何度目になるのかも分からないがエミはため息を吐いた。すでに腕が切り落とされたのが13回、足が切り落とされたのが9回。性的なことは出来ないと分かっているからこその行為だろう。
アリアもシェリルもそうだが、感情が高ぶれば高ぶるほど、逆に冷静になる。だからこそエミはもう、諦めの領域に片足を突っ込んでいた。
「……飽きないのね」
「それじゃー次はどんな殺し方をしましょうか! 視聴者の皆様!」
「あいつ、やっぱ発想貧困だな」
「言えてる」
軽いノリの会話から中学生か高校生だろう、とエミは判断していた。そしてギルド名、《オリュンポス》というのまで判明していた。だが逃げ出せない。状態異常技ばかり使われ、逃げられないようにして殺され続けている。
(オリュンポスね……お姉ちゃんが聞いたら喜びそう)
エミがそう思っていると
「それでは続いての殺し方が決まりました! 解体ショーでございます!」
「悪趣味な……」
「悪趣味だな……」
何故か知らないけど近くで見張っている男がため息を吐いた。そして私を見て
「最強ギルドという者がどれほどのものとは分からなかったが……ハメには耐性が無いみたいだな」
「……あっそ。あんたら何をしたいのさ」
「……腕試しだな」
そしてナイフを持ったプレイヤーがにやにや笑いで近づいて来るのを、エミは達観した瞳で見つめていた。そのままナイフがエミの肌に触れそうになった瞬間、それは起きた。
「敵襲だ!」
「迎撃しろ!」
敵……?
「《オリュンポス》なんて聞いたことも無いギルド、それに敵がいるんだ」
「棘がある言い方だな……」
「棘の無い言い方をされるとでも思ったの?」
「……」
その男はため息を吐いて目を閉じた。そして
「ここは俺とゼウスが護る。他は迎撃に迎え」
*****
「魔王、それってどういうことなのさ!」
「言った通りだ。《魔王の傘下》としてはエミを取り戻すのに手は貸せない」
「どうしてさ!?」
アリアが魔王に詰め寄るが
「アリア。個人で行くのは良い。だがその《オリュンポス》というギルドが敵ならば……人数は少ない方が良いだろう」
「どういう意味さ!」
「《魔王の傘下》として蹂躙は出来ない。だから三人くらいで吹き飛ばしてこい」
アリアはその意味をじっくり考えて
「どういう意味?」
分からなかった。
時間無いのでスキップ!




