ゾンビ作戦
「前衛はマモン、レヴィ、シェリル、ベル。それにアリアとシンだ。だがぶっちゃけて言えばこの戦闘に前衛後衛を分ける必要は無い」
「そうね……でもどうして私が前衛なのか聞いても良い?」
「レヴィは火力が高いからな。もはやこの戦闘では防御力は意味をなさない」
ふーん、と全員が納得していると
「それと《魔王の傘下》を解散する」
「「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」」
「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」
*****
「さてと、作戦会議といこうじゃないか」
「何を話し合うつもりなんだよ」
「この状況で話し合う時間があるとも思えませんけど?」
「拙者も同意見で御座るな」
「ご主人様の考えが理解不能です」
僕は集まってもらった全てのプレイヤーを見回して
「話し合う内容はもちろん《アザトース》対策だよ。僕らは《アザトース》に軽々とやられちゃったからね」
「やられた、か。あんなの勝てんのかよ」
「うん、勝つよ。だからこそ、ここに僕はいるのさ」
そして一斉にそのメッセージを送信した。
「対専用ギルドを立ち上げる。ゾンビ作戦で《アザトース》を討つ」
「ゾンビ? 死に戻りを繰り返す気かよ」
「うん、そうだよ。だからこそ僕は《アザトース》の敵対圏内を調べ、そのギリギリの位置を囲むようにギルドホームを買った。それが今、君たちがいる場所だ」
転移アイテムを送りつけ、そのメッセージでここに来い、と呼ばれたプレイヤーたちは現在位置を把握した。そして
「僕たちは《アザトース》を討ち倒す。手を貸して欲しい」
*****
「クトゥルフ神話系装備、または珠を使わないとダメージが通らないか……そりゃ随分な情報だぜ。なんせここにいるプレイヤー総数、1000を越えているんだぜ?」
「うん、そうだね。だから今現在、《魔王の傘下》総員で《ハストゥール》と《クトゥグァ》を狩り続けているよ。それに僕も装備を創っているからね」
アリアは装備を作り上げながらスカイの言葉に頷く。そして
「ほら、こんなのでも戦えるからね」
「なんだこれ……なんだこれ?」
「《オーブ》。《珠》を細かく砕いてそれを他の金属と混ぜた物だよ。これを素材に創っているのさ」
「へぇ」
アリアが手慣れた様子で剣を創っている様子を眺め、スカイは感嘆している。今まで、アリアに剣を創ってもらったことはある。だがこれほど忙しい間なのにも関わらず、一本一本丁寧に、かつ迅速に創っている。それはスカイからしてみれば驚きしかなかった。
「スカイ、少し良いか?」
「ジャック? 俺何かしたか?」
「いや、責めるわけじゃない。だが少し指揮系統が乱れている気がしたんだが」
「あー、そりゃガイアがいないからだろ。あいつならそろそろインするはずだぜ」
「そうか、なら待とう」
ジャックはそう言いながらアリアを見つめた。その表情は父親が娘を見守るような物だった。
*****
「《アザトース》の攻撃はレーザー光線と一定時間、5分の経過で強制全損。随分ときついで御座るな」
「うん、そうだね。だからこそ僕たちはここをギルドホームにしたんだから」
アリアはそう言いながら翼を広げた。そしてそのままの勢いで《アザトース》の攻撃圏内に入った。
螺旋大陸の穴の直径は約1500メートル。半径で750メートル。そして《アザトース》の直径は100メートル程度だ。つまり650メートル以上を飛べる事が戦闘における最低の条件だ。
「リョーマは飛ばないの?」
「飛ぶで御座るよ……ですが拙者はまだ慣れてないので御座るよ」
「そっか」
アリアとリョーマは《アザトース》から放たれるレーザー光線を避けて《アザトース》に迫った。レーザー光線はまっすぐにしか進まないからこそ出来る芸当だ。
「とぅっ!」
「ふっ!」
助走を付けての跳躍、そのまま羽ばたいて《アザトース》の周囲をぐるぐると回転する。隙は無いものか、アリアがそう思っていると
「それでは拙者が先に攻めるで御座るよ!」
リョーマが《禍神斬刀》の柄を掴んで
「《居合い・雪影》!」
「あ」
リョーマの刀が《アザトース》の無機物めいた導体に突っ込んでいった。だがその刀はレーザー光線と正面から激突してーー光を切り裂いた。そしてそのまま《アザトース》に明確なダメージを与えた。
「よし!」
「しっかりとダメージが通るで御座るな!」
「うん!」
リョーマと共に《アザトース》に斬りつけた。だが1億という体力の内から千単位が減ろうとゲージ上では何の変化もない。防御力が高いみたいだ。
「レヴィ! 撃つよ!」
「言われずとも!」
弾丸と矢が《アザトース》の体力をどんどん削り出した。だが
「ダメージ上限があるの!?」
「なんとも面倒な……アリア殿、少し下がるで御座るよ」
リョーマはそう言いながら刀でレーザー光線を打ち払った。どういう原理か分からない、だけど素材に使った《ナイアルラトテップ》の《闇神の呪皮》だ。だから《アザトース》の攻撃を防げたんだろう。
「リョーマ! 上!」
「む!? なんと!」
リョーマに向かってレーザー光線が降り注いだ。無差別、狙いを定めて、そして今の個人集中だ。八割を切ったからだろう。
「アリアちゃん! 危ないよ!」
「大丈夫だよ!」
《禍神の穴剣》でレーザー光線を切り裂いてーー僕はまた、強制全損させられた。
*****
「ダメージじゃないってのが辛いよな」
「うん、そうだね」
アリアは剣を水平に構えて目を閉じた。そのまま連続して剣を振るって
「《バニッシュ》……まだ、使い熟せてない感あるんだよね」
「スキル売って金にしてんだろ? だったら使い熟す熟さない関係ないだろ」
アリアの作り上げたスキルは売られている。マモンやレヴィも金に困れば売っている。
「ん、スキルを極めたいし」
「そんなもんかね」
シエルはアリアを見つめ、考える。スキル関係無しに強いアリアがスキルに注目する、ということは《アザトース》はアリアの目に適ったのだろう。
「……アリア」
「どったの?」
「勝てると思うか?」
「ん、そのためのゾンビ作戦だよ」
本意じゃないけどね、とアリアは嘯いた。
「いつかソロで挑むのか?」
「んにゃ。それはちょっち無理っぽいし」
「それって負けじゃねぇの?」
「……古来より人類は力強き者に知恵で勝ってきた。それと同じさ」
シエルは愕然とした。アリアが賢しい言葉を言ったのだから。アリアが頭が良いなんて思えない、
「さてと、シエル。そろそろ全損だよね?」
「うん? ……ああ、あと1分も無いな」
「ほいほい。それじゃあ攻撃準備だけしておこうかな」
アリアはスロットからチップを引く抜いた。シエルがその行動を疑問に思っていると
「さぁ、出撃だ。何もかもを切り裂く、そのつもりで行こうじゃないか」
その手に握られているのは一本の巨大な剣。漆黒の大剣だ。
「《悪魔龍皇剣》か……欲しいねぇ」
「いつかあげるよ。これを越える剣を作れたら、だけどね」
「進化できないのか?」
「ん、進化させたんだよ」
アリアはそう言いながら全損してーー《悪魔龍皇剣》を肩に担いだ状態で復活した。その剣の柄には四色の鎖が、アリアの手と共に縛り付けるように巻き付けられていた。
ゾンビ作戦 死ぬ⇒生き返る⇒ダメージ与える⇒死ぬ⇒生き返るの繰り返しでダメージを蓄積させる作戦
次回も光と虚の《アザトース》戦です
正直作者のネーミングセンスは壊滅的なのでこれからどうなるのか分かりません
《アザトース》戦⇒夏休み 星獣と少し⇒ネタ切れ!
とりあえず後2,3日は《アザトース》戦だね
ちなみにクトゥルフ神話系モンスターが出てきたのはスライム転生を3日で読み終えたからです




